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短編 「野波博士とわたしの奇妙な自由研究 《後編》」

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主な登場人物

 わたし:彩萌あやめ
    物語の語りべ、主人公

 望帆ちゃん:野波望帆のはみほ
    幼なじみ、クラスメイト

 望帆パパ:野波博士のははかせ
    天才発明家



翌朝、
宿泊していた民宿から
少し離れたところに行くと、
そこには
大きなレールがあった。

(わぁ!すごいジェットコースター
 みたい!)

「これはね。今までの常識が
くつがえるような技術なんだ。」
と望帆パパは言う。

レールの一番下には
木造りのトロッコが一両ある。

「このトロッコには
 超電導の装置が設置されている。  

 物体には電気抵抗があるが、
 その抵抗値がゼロになった時
 地球の磁場エネルギーの影響
 から切り離される。

 つまり、重力の影響下から
 切り離すことが出来るんだ。」

望帆ちゃんが付け加える。
「パパは地球上で無重力に
 することが出来るの。」

これからする実験は
U字レールの片方の頂点まで
トロッコを引き上げる。

その時、装置はOFF
重力のモーメントで落下し始める。

U字レールの谷を通過した瞬間に
装置をONにする。
と言うことだった。(図1.参照)

図1.実験概要説明

実験開始__

トロッコをU字の頂点までワイヤー
で引き上げて連結を切り離す。

当然のごとく
トロッコは落下し始める。
ジェットコースターと一緒だ。

レールの谷間を
トロッコが通過する瞬間
稲妻のような閃光が
ほとばしった。

柔らかい光の綿に包まれた
トロッコは反対側のU字の頂点に
到達すると__
 
なんと、その角度のまゝで
空に飛んでいってしまった。

まるでカタパルトから発射する
ロケットみたいに__。

空高く舞い上がるトロッコを
見上げながら、口を開けたまゝ
わたしは唖然としていた。

(なんてすごいの⁉︎ 
 奇跡を見てるみたい!)

そのまゝ
光をまとったトロッコは
小さくなって
わたしたちの視界から
消えていったのだった。






忘れられない夏休みになった。

望帆パパも望帆ちゃんも
トロッコが空の彼方へと
浮遊しているのを眺めながら
満足そうな笑顔を浮かべていた。

「おじさん? あのトロッコは
 どうなるの? あのまゝ宇宙に
 行っちゃうの?」と訊いてみた。

望帆パパは
 「空気にも抵抗があるから
 いずれは止まるはず。
 バッテリーが切れると
 重力に逆らえず落下するのさ。

 GPSが付いていて、
 海の上に落ちても沈まないから
 位置情報を見ながら、回収できる
 ようになっているんだ。」
 
「なるほど〜!」
 わたしは目眩く奇跡を目の当たり
にして、感動し通しだった。

「望帆、彩萌ちゃん。
 今日の出来事を見せたかったのは
 何故だか判るかい?」
と望帆パパは尋ねる。

「おじさん? わからないけど、
 どうしてわたしたちに
 見せてくれたの?」
と聞き返す。

「こういった発明ってのは
 平和利用でなく、軍事に
 利用することも出来るんだ。」
 
望帆パパは少し哀しそうな顔で

「人間ってのは色々ある。
 欲にまみれた考えで科学技術を
 悪用しようとする輩は
 後をたたない。

 だけど、君たちの未来は
 これからさ。

 今日の感動を忘れないで
 欲しいんだ。」
 
と望帆パパは言うのであった。




後日譚


二学期になった。

望帆パパ、すなわち野波博士の
最終的な目標は

「大きな方舟を作り、宇宙空間へと
旅立つこと。」なんだそうだ。
 
その昔、
"ノアの方舟"の伝説では
大洪水から生物種を救うために
方舟が造られたと云う。

(望帆パパは現代のノアなのね。)

自由研究テーマは
目の当たりにしたことを書いて
提出してみた。

担任の先生の反応は__

わたしたちの自由研究テーマを見て
一瞬、目を見開いたように見えた。

そして、
「これは?国語の読書感想文に
 出したらどうかしら?」
 
わたしと望帆ちゃんは
アイコンタクトする。

(やっぱ、信じてもらえないね。)

互いに目配せをした仕草が
妙に可笑しかった。






あの夏休みの日、以来__

空を見上げると
わたしの頭のイメージの中で
大きな船が空に浮かんでいる。

未来はどうなるか
わからないけれど、

あの日の感動を胸に刻んで
大人になっていきたいな。


夏の終わりを告げる
ツクツクボウシの鳴き声が
青い空に響きわたっていた__。


          《おわり》

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

※この物語はフィクションです。

登場人物は架空の設定であり、
実在の人物と何ら関係ありません。

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