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【詩】海の声色(作:小林亀朗)
ねえ教えてよ波の高さを
深く沈み込んだところから
波がうねり上がるとき
一緒に飛んでみればいい
影の濃さと
落ちてくる
水の
強さを
その身に感じればいい
海はあなたを呼んでいる
海はあなたを呼んでいる
熱い砂の上へ腹這いになって
その声を聞いてみたら
【和訳】The River(Bruce Springsteen)
[訳文]
俺の故郷は谷間の町だ
あんたがどこで生まれ育ったのか知らないが、あんたが親父に育てられたように俺も育てられたのさ
俺とメアリーが出会ったのは高校で、
あいつはその時まだ17歳だった
2人でドライブして、蒼々とした野原のあるとこへ行ったよ
あの川へ行ったんだ。そんであの川へ、2人で飛び込んだんだ
ああ、あの川へ行ったんだ。2人で一緒に
それからすぐのことさ。俺はメアリーを妊娠させちま
【エッセイ?】たばこ
小さい頃からたばこは身近だった。自分よりだいぶ歳が上の人たち、当時で40後半から50、60くらい、に囲まれて育った私は、古めかしい喫茶店とか喫煙可の居酒屋とかに連れて行かれることが多かったし、服からたばこの匂いがする人もいた。
たばこの匂いを嫌いにならなかったのは単純に慣れだと思う。夜の熊野寮の野外喫煙所で最初の一本を吸った時、なんだか懐かしくて幸せだった。
お酒もそうなのだが、余程スト
【詩】午前零時(作:小林亀朗)
一度眠りについたら
地平線にさす朱を見ないように
夢から醒めたのが分かっても
目を閉じたままでいよう
眠れない夜は
炎の中心のような朱を
見逃さないように
ベッドの中の自分の腕を
そっと抓っておこう
家の辺りは蓬が生えて
今日も哀しい音がする
砂の混じった風に打たれて
今日も哀しい音がする
膨らんで
弾け飛ぶ
パンケーキ
のような
シャツのボタン
窓に届いた
セイタカアワダチソウの
逞しい背
【短歌連作】写真を撮るやうに(作:依田口孤蓬)
月光にお腹も満ちて私たち爆ずるばかりに人影となる
川風の持つ厳かさ 言の葉の端と端とを絡めて編みぬ
心臓の響きが鈍くなつたとき泪を流す人になりたい
メビウスの明滅のたびしつかりと吸はれ吐かるる息のゆくさき
走つてゆき走つて走り歩くとき、河原の縁で「もう帰らう」と
明日には新幹線に奪はれて遠くへとゆくあなたのからだ
朝露の消えゆくまでは恐竜の化石のやうに眠つてほしい
一滴を求め私は丘の
【短編小説】九十九里浜(作:小林亀朗)
波の音が聞こえる。鼓膜を震わせて、俺の腹にまで響く。俺はその音をホテルのテラスで聴いている。ロッキングチェアの背もたれはやけにひんやりしていた。
「お待たせ致しました」
ウェイターが一礼してお盆からグラスを取り、目の前に置いてくれる。注文したカルーア・ミルクだ。
「ご苦労さん」
俺はウェイターにチップを渡すと脚を組み直した。
このホテルに来るのは2回目だ。1回目は8年前の夏。当時の恋人とく