小林亀朗(依田口孤蓬)

小説・詩・エッセイ:小林亀朗(こばやしきろう)、短歌:依田口孤蓬(よだぐちこほう) 第…

小林亀朗(依田口孤蓬)

小説・詩・エッセイ:小林亀朗(こばやしきろう)、短歌:依田口孤蓬(よだぐちこほう) 第1作品集『しずむ』→https://kohokirou.booth.pm/items/5426322

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【詩】わたしの生命(作:小林亀朗)

鎌倉に住みたい 北も西も愛しているはずなのに 今どうしようもなく鎌倉に住みたい 鎌倉に住んで 好きな人と一緒に小さな店をやりたい レコードをかけたい 安いやつがいい …

【短歌連作】海のある帰省(作:依田口孤蓬 短歌研究新人賞応募作)

応募したやつです。供養します。

【詩】海の声色(作:小林亀朗)

ねえ教えてよ波の高さを              深く沈み込んだところから 波がうねり上がるとき        一緒に飛んでみればいい 影の濃さと       …

【詩】期末テスト

ぼーっとしていたらぬぼーっと朝がきた。立派な寝癖をたてたまま、ありもしないカメラが自分の顔を映しているのを意識しながら、テストへ向かう。徹夜明けである。決して勉…

【和訳】The River(Bruce Springsteen)

[訳文] 俺の故郷は谷間の町だ あんたがどこで生まれ育ったのか知らないが、あんたが親父に育てられたように俺も育てられたのさ 俺とメアリーが出会ったのは高校で、 あ…

【エッセイ?】たばこ

 小さい頃からたばこは身近だった。自分よりだいぶ歳が上の人たち、当時で40後半から50、60くらい、に囲まれて育った私は、古めかしい喫茶店とか喫煙可の居酒屋とかに連れ…

【詩】午前零時(作:小林亀朗)

一度眠りについたら 地平線にさす朱を見ないように 夢から醒めたのが分かっても 目を閉じたままでいよう 眠れない夜は 炎の中心のような朱を 見逃さないように ベッドの中…

【短歌連作】写真を撮るやうに(作:依田口孤蓬)

月光にお腹も満ちて私たち爆ずるばかりに人影となる 川風の持つ厳かさ 言の葉の端と端とを絡めて編みぬ 心臓の響きが鈍くなつたとき泪を流す人になりたい メビウスの明…

【ショートショート】葬式(作:小林亀朗)

 あたしはパスポートを捨てた。ライターで火をつけて燃やしたのだ。今の自分よりちょっとだけ若いあたしが、炎の中で笑っている。赤い表紙がめくれて段々灰になっていく。…

【短編小説】九十九里浜(作:小林亀朗)

 波の音が聞こえる。鼓膜を震わせて、俺の腹にまで響く。俺はその音をホテルのテラスで聴いている。ロッキングチェアの背もたれはやけにひんやりしていた。 「お待たせ致…

【短歌連作】3月15日ー遠野へー(作:依田口孤蓬)

始発直前 観光の消費者として旅立てる我の前には紫の夜 冬過ぎて春来にけらしホームへと寒さ切り裂く始発列車が 快速列車に追い抜かされて 快速はそのスピードを風として…

【短編小説】砂像(作:小林亀朗)

 何も聞こえない。寄せては引く波の音以外は。風も吹かないし、鳥も鳴かないし、あなたも私も喋らない。ただただ二人で遥かの水平線を眺めるだけ。  たまに船が見えたよ…

【短歌連作】妹(作:依田口孤蓬)

膨らみしお腹をさする人がゐて明日には母にもう一度なる ひとりだけのままがよかつたいつまでもははのとなりでねていたかつた 姉になるまでは絵本を抱きながら二段ベッド…

【短歌連作】退却の日(作:依田口孤蓬)

夕闇と夜闇の国境線上に100円玉を拾ふる吾は 吾の肉轢きかけたあと軽やかに風鈴めいて自転車のベル 虹色の完成のため脚の上に夜這ひをしたる蚊を潰しをり 釈迦尊がぶつ…

【詩】夜明け(作:小林亀朗)

浜辺を駆けてゆく馬の 背中に揺れる青羽カゲロウ その透明の透明の 向こうに見える色彩を 目玉は捉えているようだ ダイダラボッチの踏んだ跡 波が洗って消してゆき 馬の蹄…

【詩】フミちゃん(作:小林亀朗)

朝の電車に乗るなら 先頭の車両へ行き 1番端っこで 席に蹲る 人々を 見ると良い フミちゃんは風に巻かれ 階段から駆け降り 閉まりかけのドアの 隙間から走り込み 膝に手を…

【詩】わたしの生命(作:小林亀朗)

【詩】わたしの生命(作:小林亀朗)

鎌倉に住みたい
北も西も愛しているはずなのに
今どうしようもなく鎌倉に住みたい
鎌倉に住んで
好きな人と一緒に小さな店をやりたい
レコードをかけたい
安いやつがいい
街角の寂れたレコード屋で叩き売りされていて、針を置くとぷつぷつノイズの入るようなのがいい
プレイヤーはT君の持っているやつがいい
他のではだめだ
あの音が籠りやすくてたまに針が飛ぶやつがいい
静かな曲がいい「旅立つ秋」なんかいい長谷川

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【詩】海の声色(作:小林亀朗)

【詩】海の声色(作:小林亀朗)

ねえ教えてよ波の高さを

             深く沈み込んだところから

波がうねり上がるとき

       一緒に飛んでみればいい

影の濃さと

      落ちてくる

             水の

                      強さを

その身に感じればいい

海はあなたを呼んでいる

海はあなたを呼んでいる

熱い砂の上へ腹這いになって

その声を聞いてみたら

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【詩】期末テスト

【詩】期末テスト

ぼーっとしていたらぬぼーっと朝がきた。立派な寝癖をたてたまま、ありもしないカメラが自分の顔を映しているのを意識しながら、テストへ向かう。徹夜明けである。決して勉強していた訳ではない。間違えて入ってしまった(そんなことがあるのだ)有料プランがもったいないので気に入ったドラマを1話から最終話までずっと観て肺呼吸をしていたのだった。

上立売通りから飛び出して烏丸通りを斜めに横断する。相国寺の参道にある

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【和訳】The River(Bruce Springsteen)

【和訳】The River(Bruce Springsteen)

[訳文]

俺の故郷は谷間の町だ
あんたがどこで生まれ育ったのか知らないが、あんたが親父に育てられたように俺も育てられたのさ
俺とメアリーが出会ったのは高校で、
あいつはその時まだ17歳だった
2人でドライブして、蒼々とした野原のあるとこへ行ったよ

あの川へ行ったんだ。そんであの川へ、2人で飛び込んだんだ
ああ、あの川へ行ったんだ。2人で一緒に

それからすぐのことさ。俺はメアリーを妊娠させちま

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【エッセイ?】たばこ

【エッセイ?】たばこ

 小さい頃からたばこは身近だった。自分よりだいぶ歳が上の人たち、当時で40後半から50、60くらい、に囲まれて育った私は、古めかしい喫茶店とか喫煙可の居酒屋とかに連れて行かれることが多かったし、服からたばこの匂いがする人もいた。

 たばこの匂いを嫌いにならなかったのは単純に慣れだと思う。夜の熊野寮の野外喫煙所で最初の一本を吸った時、なんだか懐かしくて幸せだった。

 お酒もそうなのだが、余程スト

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【詩】午前零時(作:小林亀朗)

【詩】午前零時(作:小林亀朗)

一度眠りについたら
地平線にさす朱を見ないように
夢から醒めたのが分かっても
目を閉じたままでいよう

眠れない夜は
炎の中心のような朱を
見逃さないように
ベッドの中の自分の腕を
そっと抓っておこう

家の辺りは蓬が生えて
今日も哀しい音がする
砂の混じった風に打たれて
今日も哀しい音がする

膨らんで
弾け飛ぶ
パンケーキ
のような
シャツのボタン
窓に届いた
セイタカアワダチソウの
逞しい背

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【短歌連作】写真を撮るやうに(作:依田口孤蓬)

【短歌連作】写真を撮るやうに(作:依田口孤蓬)

月光にお腹も満ちて私たち爆ずるばかりに人影となる

川風の持つ厳かさ 言の葉の端と端とを絡めて編みぬ

心臓の響きが鈍くなつたとき泪を流す人になりたい

メビウスの明滅のたびしつかりと吸はれ吐かるる息のゆくさき

走つてゆき走つて走り歩くとき、河原の縁で「もう帰らう」と

明日には新幹線に奪はれて遠くへとゆくあなたのからだ

朝露の消えゆくまでは恐竜の化石のやうに眠つてほしい

一滴を求め私は丘の

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【ショートショート】葬式(作:小林亀朗)

【ショートショート】葬式(作:小林亀朗)

 あたしはパスポートを捨てた。ライターで火をつけて燃やしたのだ。今の自分よりちょっとだけ若いあたしが、炎の中で笑っている。赤い表紙がめくれて段々灰になっていく。全部燃えたら土の中に埋めてしまおう。
 かつて一緒に行った国のスタンプたちも染み込んだ異国の匂いも全部消えてしまう。それでいい。あたしはもう旅はしない。
「おかあさん、なにしてるの?」
「ん? お葬式だよ」
「おそうしき?」
「うん」
「じ

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【短編小説】九十九里浜(作:小林亀朗)

【短編小説】九十九里浜(作:小林亀朗)

 波の音が聞こえる。鼓膜を震わせて、俺の腹にまで響く。俺はその音をホテルのテラスで聴いている。ロッキングチェアの背もたれはやけにひんやりしていた。
「お待たせ致しました」
 ウェイターが一礼してお盆からグラスを取り、目の前に置いてくれる。注文したカルーア・ミルクだ。
「ご苦労さん」
 俺はウェイターにチップを渡すと脚を組み直した。
 このホテルに来るのは2回目だ。1回目は8年前の夏。当時の恋人とく

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【短歌連作】3月15日ー遠野へー(作:依田口孤蓬)

【短歌連作】3月15日ー遠野へー(作:依田口孤蓬)

始発直前
観光の消費者として旅立てる我の前には紫の夜

冬過ぎて春来にけらしホームへと寒さ切り裂く始発列車が

快速列車に追い抜かされて
快速はそのスピードを風として或いは彼の運命として

上野で宇都宮線に乗り換え
人々は群れと言ふにはあいまいに身を寄せ合ひて階段降る

赤羽
ひろゆきの生まれし町をひろゆきの馬鹿にしさうな旅が過ぎゆく

浦和へ
高校の時に練習試合にて見し高校は車窓掠むる

初恋の

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【短編小説】砂像(作:小林亀朗)

【短編小説】砂像(作:小林亀朗)

 何も聞こえない。寄せては引く波の音以外は。風も吹かないし、鳥も鳴かないし、あなたも私も喋らない。ただただ二人で遥かの水平線を眺めるだけ。
 たまに船が見えたような気がして目を凝らしても、それは気のせいだったりする。たまにあなたが喋ったような気がして耳をすましてみても、それは気のせいだったりする。
 規則的な波の寄せ返りは眠気を誘う。私は砂浜に少しばかり生えている雑草の上に腰を降ろし、裸足の足を見

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【短歌連作】妹(作:依田口孤蓬)

【短歌連作】妹(作:依田口孤蓬)

膨らみしお腹をさする人がゐて明日には母にもう一度なる

ひとりだけのままがよかつたいつまでもははのとなりでねていたかつた

姉になるまでは絵本を抱きながら二段ベッドを一人で使ふ

母の腕思ひながらに寝る吾の耳を傾けさせしモビール

物干しに風を乞ひせし面影を見せてボタンは行列となる

ゆつくりと乾きし母の唇の狭間より漏る中絶のこと

日盛りの中へ産まるるはずだつた妹のかほ思ひ出せぬ

太陽の沈む地

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【短歌連作】退却の日(作:依田口孤蓬)

【短歌連作】退却の日(作:依田口孤蓬)

夕闇と夜闇の国境線上に100円玉を拾ふる吾は

吾の肉轢きかけたあと軽やかに風鈴めいて自転車のベル

虹色の完成のため脚の上に夜這ひをしたる蚊を潰しをり

釈迦尊がぶつ倒れさうなリキュールを真夏の夜の白金へ吐く

行き先を知らざるままに飛び乗りし電車が脱線しても良い

巨人らの流す涙で海はでき そこに泳ぐる魚の感情

仄暗き話を好む赤トンボ、吾子の名入りし墓碑に集るな

人間の死せる時のみ柿があり

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【詩】夜明け(作:小林亀朗)

【詩】夜明け(作:小林亀朗)

浜辺を駆けてゆく馬の
背中に揺れる青羽カゲロウ
その透明の透明の
向こうに見える色彩を
目玉は捉えているようだ

ダイダラボッチの踏んだ跡
波が洗って消してゆき
馬の蹄の爪痕は
砂に埋もれ消えてゆき
カゲロウたちのささやきは
不規則的な音の中
揺れるばかり揺れるばかり

ようやく見つけた片脚に
血管・筋肉浮き立たせては
潮混じりの砂散らしつつ
浜辺を馬は駆けてゆく
背中に青羽カゲロウを乗せ
火の粉

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【詩】フミちゃん(作:小林亀朗)

【詩】フミちゃん(作:小林亀朗)

朝の電車に乗るなら
先頭の車両へ行き
1番端っこで
席に蹲る
人々を
見ると良い

フミちゃんは風に巻かれ
階段から駆け降り
閉まりかけのドアの
隙間から走り込み
膝に手を当て
息を切らすでしょう

そんなフミちゃんを
眺めるのに
この場所は
とても良いのです
蹲る人々と
息を切らす彼女の
生き物としての
対比に
笑ってしまいそうに
なれるから 

フミちゃん
あなたにとって
この世界は
どういう

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