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【短歌連作】退却の日(作:依田口孤蓬)

夕闇と夜闇の国境線上に100円玉を拾ふる吾は

吾の肉轢きかけたあと軽やかに風鈴めいて自転車のベル

虹色の完成のため脚の上に夜這ひをしたる蚊を潰しをり

釈迦尊がぶつ倒れさうなリキュールを真夏の夜の白金へ吐く

行き先を知らざるままに飛び乗りし電車が脱線しても良い

巨人らの流す涙で海はでき そこに泳ぐる魚の感情

仄暗き話を好む赤トンボ、吾子の名入りし墓碑に集るな

人間の死せる時のみ柿がありそつと猫らはそれを咥へぬ

アネモネに挟まれてをる野荊は生まれてこなきや良かつたのにね

帰るべき実家を持たぬ吾を抱く故郷としてこの街はあり

いのつてもいのつても明日はやつてきてはみがきをせぬ吾を鞭打つ

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