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【小説】田舎暮らし案内人奮闘記 第7話

こんにちは、移住専門FP「移住プランナー」の仲西といいます。
ここでは、これまでの17年間の活動、2500組以上の移住相談対応から
皆さんに役立つ情報を書いています。
今回は、これまで受けた移住相談を小説風に書いてみました。
気に入った方は、フォローをしていただけると嬉しいです。

第7話 「見えない何か?」と戦う移住者。


私の朝の日課。

5㎞のジョギングとシャワー、梅干しと卵かけご飯、そしてスマホで為替相場をチェック。
やがて、遠くから小学校のベルが聞こえてくると、私も子供たちと同じ様に、書斎に向かいデスクに向き合う。
そして、教科書の代わりに、PCを開けて電源を入れる。

まずは、メールチェックが仕事のスタート。
本日も受信トレイには50件の未読メッセージ。
移住に夢見る人からの熱いメッセージが届いている。

相談メールをフォルダー移動し、着信の古いものから内容を確認。
子供のようにワクワクした気分でメールを開く。

本日の相談

初めまして。
私は東京に住む、木戸といいます。
年齢は40歳、独身です。
仕事はフリーランスのエンジニアです。

出来るだけ誰もいない田舎で静かに暮らしたいです。
私は長年ストーカー被害にあっており、これまで何度も引っ越しをして居ます。
思い切って田舎に移り住んで、静かに暮らしたいです。
どうぞ宜しくお願いいたします。

「ストーカー被害」の文字。
中々、穏やかではない内容である。
しかし、40歳の男性をストーカーするとは・・・
やはり恋愛関係のもつれなのだろうか?

木戸さん
ご連絡ありがとうございます。
○○市はお越しになられたことはありますか?
一度、足を運んでみませんか。
私が町を案内しましょう。
「木戸さんが住みたいと思える町なのか?」確認をしてみてください。

とにかく、私は差し障りもない文章を返した。

その翌週に、彼は私の所にやってきた。
年齢よりは随分と若く見える。
ごく普通の青年である。
確かに、エンジニアタイプの容姿に見えた。

遠方の所、お越しいただき有難うございます。
早速ですが、メールに書かれていた「ストーカー被害」について、差し障りがなければお話しいただけないでしょうか。

いきなりではあったが、私は一番気になる点を聞いてみた。

もう、10年以上になります。
たくさんの人に家を見張られているのです。


「恋愛のもつれ」と予想していたが。
しばし、言葉の意味を理解できずにいた。

失礼ですが、「たくさんの人」とは?
>いつも、たくさんの人が私の家を見張っているのです。

相手が誰だかわかっているのですか?
>たくさんいるので解りません。

引越しをしても、ストーカーはついてくるのですか。
>そうです。

同じストーカーですか?
>それは解りません。

話を続けていくうちに、何となく意味が解ってきた。
「見えない敵と戦っている」
本当は、ストーカーはいないのだろうと・・・

それで、どうしたいのですか?
>遠くに引っ越しをすれば、さすがにストーカーもついてこないと

そうですか
>どこか住むところを紹介してもらえますか?
 できるだけ人の来ない山の中の空き家などありませんか。

紹介はできますが、知らない町で、それも人の少ない山の中で大丈夫ですか。
>大丈夫だと思います。

ところで車はお持ちですか?
>いいえ。免許証もありません。

さすがに、私は不安が過った。
何か、トラブルのを引き起こしそうな予感がした。

とりあえず、私は彼を車の助手席に乗せると、いくつか空き家を見て回った。
車中で彼の経歴や仕事の内容について聞いてみると、とても優秀な人であることが分かった。

確かに見えない敵と戦ってはいるが、トラブルを起こしそうな心配は薄れていった。
それよりも、車がないことから、人里離れた場所での生活の方が不安になった。

彼はひとつの空き家を気に入り、購入を即決した。
隣近所とは300M程度離れている。
近隣のスーパーまでは、歩いて40分程の距離である。
日常生活を考えると、これがギリギリのラインだろう。

その後、空き家の売買手続きが進み、1ヶ月後に彼は移住をしてきた。

あれから1年。
私の所に、彼から何度か経過報告のメールが届いていた。
「仕事が順調である」と嬉しい内容であった。

先日、久ぶりに彼の家を訪ねてみると、彼は「近所の独り住まいの高齢女性と良く夕食を一緒にする」と嬉しそうに話した。

そして、彼の口からストーカーのことが話題に出ることもなくなっていた。

一期一会

移住により彼の人生はきっと好転したはずである。

これからも彼に幸があることを祈って・・・

(終わり)



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移住専門FP「移住プランナー」として活動をしています。これまで17年間2000組以上の移住相談に対応をしてきました。ここでは、私の経験からお役に立てる情報を日常的に綴っていきます。「移住」という夢の実現にお役に立てればうれしいです。大阪出身、北海道と鹿児島の3拠点生活中。