歩く私の頭上を 鳥たちがV字で追い越して みるみる遠く小さくなって やがて空は 初めから何もなかったように
いいの。がんばらなくて。周りのこととか考えなくて。今は自分のことだけでいい。回復したらそれなりに動けるようになるはずだから。
今日がその日だ 返信メールを打ちながら ふとそう思った 眉間の辺りにあった ゲンコツ大の何かが 剥がれ落ちる感じがした 視界が明るい 風が当たって気持ちいい そうだよ 今日がその日なんだ 夕方 事務所を出たら 私はもう右に曲がらない
忘れずに買い置きして 同じ容器に詰め替える あなたの明日は 今日と同じ顔
わたしへ。
ポン酢がなくなりそうだからって すぐに次を買ってくるあなた 実は 冷蔵庫のドアポケットは 隙間ができたら 景色が変わって 魂を旅に連れ出してくれる 滅多にないチャンスなのに そんなまさかって聞き流すあなた 毎日ツマラナイと言いながら 今日を明日にきっちり詰め替える
ねえ花火かな ホントだ音がするね 窓を開けて身を乗り出すと 丸い光が半分だけ見える 川沿いのあの混雑に 突っ込む気概はもうない私たち 遠ざかった分は 記憶の花火をまぶたに重ねて 囁くような歓声を
ああ あの時の あれが予感だった あれが予感だったのに
昼下がりの北改札で 私は無意識にあの人を見つけた 大混雑の中だったのに 20年ぶりだったのに すれ違った後おもわず振り向いて 背中と歩き方で確信した 8月のふるさとは ふいに時空が歪む 私は大きく息を吐いて ただ虹を見送るように もう何も始まらないように