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また、あのカフェに行きたい
またあそこに行きたい。そう思うカフェがある。
しかし、友人をそのカフェに誘うと、ちょっと困った顔をされる。
「なんであそこに行きたいの?」
カフェの良し悪しを決める基準は、いくつかあるだろうと思う。
まずは、提供される飲み物や食べ物が安定しておいしいこと。
店内での居心地がいいこと。
駅から近い、入りやすい、などの利便性や、窓からの眺めが美しいとかもあるかもしれない。
ところが、私がまた行きたいと思うあのカフェは、そのいずれも満たしていない。
まず、そのカフェへは車で1時間ほどかかるところにある。
そして、そのカフェは座席が少なくて、すぐに満席になってしまう。せっかく行ったのに入れないということも結構ある。その場合は他所を探すのだが、似たような店舗が近くにないので、かなりウロウロしてから結局は諦めて帰ることになる。
で、運良く入れたとして。カウンターに座り、プリンとコーヒーのセットを注文してメニューを閉じると、お店の人(たぶん店長)からしきりに話しかけられる。「今日は仕事お休みですか?」「この後のご予定は?どこかお出かけですか?」「このコーヒーカップ、どう思います?」
うーん、静かに過ごさせてくれないなあ。心の中で苦笑いしながら、ぽつりぽつりと答えを返す。
ところで、コーヒーは来たけれど、プリンはまだかしら……。おしゃべりの途中で強めの視線を送ると、店長は(しまった!)という表情。「プリン、でしたよね!すぐ用意します!」そんなことも、まれにある。
気まずさを紛らわそうと窓辺に目をやると、外は隣の建物が見えるだけ。別に見苦しくはないけれど、特に眺めがいいということもない。
そして、コーヒーだ。今日は爽やかな酸味でサラッと飲めた。でもこの酸味、前回は感じなかったような。で、さらにその前は濃くて苦くて、飲むのにとても時間がかかったような。注文したのは同じコーヒーだったはず。私の味覚はそれほど鋭敏ではないけれど、それでも、かなりバラついているような気がしてしょうがない。
こんな具合なので、誘われた友人はそりゃ困り顔だ。えーあそこ?遠いよ?行っても座れないかもよ?いまいち落ち着かないよ?何より、どんな味のが出てくるかわかんないよ?
ていうか、
(ここで冒頭のあの質問)
「なんであそこに行きたいの?」
うん。あのね、私……。
今日は入れるか、今日のコーヒーは一体どんな味なのか、予想のつかないところが「運試し」みたいでワクワクするんだよ。
店長はおしゃべりだし危なっかしい挙動だけど、それはそれで目が離せないし。
それらを頭に浮かべながら向かう、そのドライブ時間も楽しい。
一般的な考えでは「良し」とならない、おそらくカフェ起業のセミナーなどでは決して推奨されてないスタイルだろうとは思う。でも私にはそれがたまらない、他のカフェにはない魅力として映る。
あのカフェはもしかして現状の何かを改善しようとしているだろうか。私からすれば改善なんてとんでもない、ずっとこのまま突き進んでほしいと願ってしまう。
まあ、そんな私の言い分で友人を説き伏せ、車を走らせること約1時間。
「すみません、いま満席なんです」
ああー。
ほらね、と言いたげな友人の顔。しょんぼりと戻る駐車場。
それでも、私はまたあそこに行きたい。あのカフェに。
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