タクシーエピソード

タクシーからの風景 ~望郷

青山通りで、おばあちゃんを乗せた。もの静かな、品の良いおばあちゃんであった。
行き先はちょっと離れたところで、昼間の客としてはまずまずの距離であった。

おばあちゃんのお客さんは、話しかけてくることが多い。
このおばあちゃんも、なんとなく、といった調子で話しかけてきた。
「今日はなになにをしに青山に来た」「電車で帰ってもいいのだが、歩くのが大儀だ」と、たいていの話題は似通ったものである。

ところ

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恐悦至極に存じます。
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タクシーからの風景 ~119番と110番

119番

夜になった乗せた客が、走り出そうとしたとたんに「止めてくれ! ドアを開けてくれ!」と言い出す。
振り返ると、すでに吐瀉物が手の間から流れかけている。
慌てて車を止めてドアを開けると、道にゲエゲエと吐く。
こういう時のために通称「ゲロ袋」は積んであるのだが、そんなものを渡す余裕などあったものではない。
こういう客は乗車拒否もできるのだが、幸か不幸かほんの1メーターほどの場所だったので、送

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電車が止まると帰れなくなるかも!タクシー数減少によりタクシーがつかまらない!(アフターコロナ計画書)

◆小田急線が集中豪雨で止まって家に帰れなくなる

昨日夜に、仕事の打ち合わせで新百合ヶ丘駅近くのカフェにて打ち合わせをしていました。

終わったのは、ちょうど20時15分。

家が横浜なので、ここから約1時間ぐらい。
遅くても21時30分には家には、帰れるなと思って駅に向かったところ、

駅にはたくさんの人だかり。

集中豪雨により電車が止まってしまい、

復旧されるのはなんと23時らしい。

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タクシーからの風景 ~夜の客たち

ガサゴソ

トレーナーの上下という、タクシーを利用するというよりも、近所のコンビニに買い物に行く、といった態の、ラフな姿の青年。
走り出すとすぐに、ガサゴソとなにかをはじめた。

目的地に到着するまでのほんの10分足らずの間、ずっと背後で「ガサゴソ」となにかをしていた。
ちょっと気にはなったのだが、ルームミラーを見ても何をしているのかよくは分からず、ともあれ無事に目的地へ到着し、振り返った僕の目に

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草葉の陰からありがとう。
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タクシーからの風景 ~ぜいたく

世の中には、贅沢な人がいる。そもそもタクシーを使うこと自体、贅沢と言えば贅沢なことである。特に都内の場合、ちょっと歩けば、ちょっと待てば、電車でもバスでも、行かれないところはない。
そんな東京での、贅沢な客の話である。

「真っすぐ」

もっとも贅沢なのは、短距離のタクシー利用であろう。
僕の経験した中でもっとも短距離だったのは、六本木ミッドタウンの、六本木側の角の信号から乗った客であった。
一昔

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恐悦至極に存じます。
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タクシーからの風景 ~ある美女

ひとりの美女を乗せた。歳の頃なら20代半ば、背もすらりと高く、明らかに一般民衆よりもワンランク上の容姿であることから、モデルかなにかだろうと思われた。

客の多くは、行き先を告げるなり、携帯をかける。
一般民衆よりワンランク上の彼女も、一般民衆と同様、すぐに携帯をかけ始めた。

どうやら相手は、仲の良い先輩の女性らしかった。
そして内容は、彼氏に関するグチなのであった。
その電話から判明した基礎知

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有り難き幸せ。
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タクシーからの風景 ~おしゃまさん

多くの子供たちは、タクシーに乗ると妙にハイ・テンションとなり、騒ぎ回る。

思い返せば僕が幼少の頃、男の子の憧れの職業というと、「パイロット」とならんでよく挙げられていたのが「タクシー運転手」であった。「パイロット」はともかく、「タクシー」の方はお勧め出来ぬのは、言うまでもない。しかし今だに、目をキラキラさせながら、僕の運転する様を凝視している男の子は多い。おそらく「男の子」という生物は、生まれな

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かたじけない。
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タクシーからの風景 ~ひと筋の光芒

その日は朝からどんよりと曇り、風もきつかった。夜からは、雨の降る予報も出ていた。天気の悪い日は比較的客も多いはずなのだが、この日はなぜだか、ほとんど客にありつけなかった。

 まさに、最悪の日であった。
 休憩の際にタバコに火を点けようとしても、強風でなかなか点かない。しかも寒い。震える手でタバコを覆いながらなんとか火を点け、強風を避けながらビルの陰で煙をふかしていると、つくづくと情けなくなる、そ

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ありがたいことでございます。
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タクシーからの風景 ~ダダこねオヤジ

~ ダダこねオヤジ

深夜2時すぎ、大久保で、酔っぱらいのオヤジを乗せた。それも、ひとかたならぬほどの泥酔ぶりであった。それだけでもいささかウンザリなのに、彼の第一声は、本来であれば、堂々と「乗車拒否」しても差し支えないものであった。
「ソープランドに連れてってよぉ」
 ……。
「いま、18000円持ってるから、タクシー代を引いて、予算12000円のソープに連れてってくれよぉ」
 ………………。

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草葉の陰からありがとう。
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