イヤフォンのない世界も、“音楽” が溢れていた。
これは昨日のこと。
大学の授業があるというのにどうも重い腰が上がらずグダグダしていた。
最近はどうもダメだ、マジでギリギリにならないと行動することができない、が。
さすがに行動しないと遅刻してしまうーーー
そう思い、あわてんぼうのサンタクロースのごとく急いで支度をし始めた。
くせっ毛というのは本当に面倒だ、お前のせいで髪のセットに余計な時間を取られるんだよ全く…。
はぁ、なんとか目標の時間に家を出ることができた、これで電車に間に合いそう…
あっ、目薬忘れた。
ドライアイ気味で尚且つコンタクトユーザーだから地味に困りそうと思ったがまぁしょうがな…
あっ、イヤフォン忘れた……。
うわー、イヤフォンないのキツいなぁ…。でも戻る時間ないしなぁ…これももう仕方がないか。
イヤフォンを忘れたオレの心のわだかまりは意外にも大きかったことを知った。
そうか、それだけオレはイヤフォンの世界の中で生活をしていたのか…。
最近のオレの耳は星野源に癒されっぱなし魅了されっぱなしで、外の世界の音なんかこれっぽっちも気に留めていなかったのだ。
まぁ、たまにはいいかもしれない。
◇◇
“イヤフォンのない世界” がこういうものだということを、電車に乗って気づく。
走行音、電車がすれ違う時のドアが揺れる音、車内で喋る人たちの会話(お、日本語だけじゃない)、外から聞こえる駅構内アナウンス。
電車の周りでさえ、こんなにも音があったなんて。
大学の最寄駅についてもなお、その驚きは忘れられない思い出のように色褪せなかった。
なぜならさらに気づきがあったから。
待ち合わせをしている学生たちの喋り声、改札を通るSuicaの音、車の走行音、青信号を知らせる音、キッチンカーから聞こえる何かを作る音。
さらにキャンパスに入ると聞こえてきたのは、軽音サークルのライブや、これから授業に向かう、あるいは家路につく学生の足音、テニス部のラリーの音…。
この世界の、無数に溢れる “音楽” に包まれたオレは、あの時のことを思い出した。
◇◇
かつて、まだ「イヤフォン」なんてものを知らなかったガキの頃。
外でさえずる小鳥の鳴き声、そよ風で揺れる木の音、空を走る飛行機のジェット音、近所から聞こえるおばさんの、それはそれはでっかいくしゃみを聞きながら芝生に寝転がり、その喜びを感じた時のことを思い出した。
あぁ、純粋に音を楽しんでいたっけ。
そんなことを思いながら、オレはまた知ることとなった。
なんだ、イヤフォンなんかなくたって、「音楽」がそこにあったじゃないか。
この星こそ、悲しくも楽しいメロディーを奏でる一つの大きな楽器だったとはな。
オレのお気に入りプレイリストに、星野源と共に追加された、「地球」というアーティスト。
彼は時に、「戦争」とかいう苦しくも残酷で、心を窮屈にする最低な曲を聞かせることもあるが、それでも彼は最高のアーティストなのだ。
だっていつも、「 日常 」という曲を奏でてくれるから。
サポートしてくれる神がいるとかなんとか…。