Chloe

小説、短歌(かばん在籍)詩など

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小説、短歌(かばん在籍)詩など

記事一覧

美術館、そして海へ(短歌)

桃香る居間に時計の針の音ますます映えて夏は憂れゆく そら色の歩道橋ごと舞い上がるマグリットへの憧れだけで 控えめなシャネルの香る指先が紅いチケットちぎる確かさ …

Chloe
2週間前
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漣(短歌)

かつて武装していた少年の恢復期 檸檬色の窓枠 砂浜に梯子をかけて降りてくる とくべつ重い藍の未明 波間という波間の裂け目のそれぞれにゆらめく空と淡い惜別 さざな…

Chloe
3週間前
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引き金(超ショート)

おそらく今夜、大きな満月が東の空からゆっくり昇るはずだったのだか、厚ぼったい雲に阻まれて月も星もない真っ暗な夜だった。 海岸まで数百メートルに位置する住宅地は、…

Chloe
1か月前

水晶体奇譚(短歌)

珈琲を飲み干して君にさようなら ちょうこくしつ座で逢いましょう 古漬が古墳にみえるくらいには疲労していた 皺皺のレシート 「眼圧の測定装置に顎をのせてます」ひと…

Chloe
3か月前
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箱の中(普通日記)

私の居場所は今この場所ではなく、頭の中にある。 アルバムの1ページ目中央に1枚貼られた写真に写るのは、私ではなく、私が入っているだろう保育器だ。このような構成で第…

Chloe
5か月前
4

Traveling Without Moving (短歌)

いましがた壊れたいのち捌きます人畜無害の寿司職人 集合的無意識の深いプールの表面に浮遊する罪状 拒食症患う国家主義者らが食べるはしから言葉を嘔吐し ポニーテール…

Chloe
7か月前
3

薔薇 (普通日記)

昨年の暮れ、ホームセンターへ行った際、ふと目に止まったつる薔薇の苗。つる薔薇、よいではないか、そう思って気軽に、実に気軽に近くに立っていた女性店員に育て方など聞…

Chloe
8か月前
4

椿 (短歌)

椿の朱ひときわ鮮やかな窓辺 死亡者数を入力しており システムが、システムを、管理するbug、bug、bug、命を削る 入管にならぶ人の眼うつろな眼なめらかな壁に…

Chloe
9か月前
2

かばんの中のシリカゲルに告ぐ(詩)

明け方の桟橋を歩いて 人工の海岸を見渡す 〈じんたいにゆうがいな〉宇宙線と 〈うちゅうにみちている〉エーテルとか 〈かくじつにとどいている〉ニュートリノとか 昨今こ…

Chloe
9か月前
1

凩(短歌)

缶詰の薄いスープをかきまぜれば翻弄される星形にんじん いつまでもここにいたって構わないバスの時刻も乗り換えもない 余白余白余白に満ちた月曜日 ガラス窓には塩の結…

Chloe
10か月前
3

E式 (短歌)

広大な白のシーツの中央に置かれていました 頭髪を濡らして 全方位 淡い品々に囲まれて(だれもいませんかだれかだれか) 途絶えつつ聞こえるリフの繰り返し あかるい…

Chloe
1年前
3

胎内の街 (短歌)

緻密に緻密を かさねたスライドの いつかの時間わたし以外の ナホトカの海の 白飛びする画像 見知らぬ人の時間の流れ 色褪せた波間にうまれ 消える泡 わたしのものではな…

Chloe
1年前
1

その男性全裸中年につき(短歌)

周到にスーツを繁みに隠したら全裸ですすめ秘密のルート 昼下がり黙りこくった家並は無口な誓いで組み立てられて とぼとぼと歩いて帰る雪野原 漂白される男の細胞 「川…

Chloe
1年前
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王国 (詩)

小雨の夕方 黒猫は子猫を5匹つれて 散歩をする 猫たちは大きい順にならんで 角を曲がる 3丁目のあの家の主婦が 内緒で買った高級腕時計を とんでもない場所…

Chloe
1年前
3

「私を撮って」 ショートショート

洋一の住む街は東京湾の埋め立て地にあり、どの方角へ向かっても坂道というものに出合わなかった。電車で二駅ぐらいの距離なら軽く自転車で走れるので、彼の生活圏はほぼ自…

Chloe
1年前
3

箱(ショートショート)

その日は、朝からしょぼい雨が降っていた。やっとの思いでこのセレブタワーマンションに引っ越して来た私は、セレブ夫人達のるつぼというべき「ミシュランシェフによる、本…

Chloe
1年前
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美術館、そして海へ(短歌)

美術館、そして海へ(短歌)

桃香る居間に時計の針の音ますます映えて夏は憂れゆく

そら色の歩道橋ごと舞い上がるマグリットへの憧れだけで

控えめなシャネルの香る指先が紅いチケットちぎる確かさ

不確かなデジャヴに遭って立ち止まるパウルクレーの光と影と

睡蓮のほとりで夢で見た人がわたしを見ては何かつぶやく

あの夏、何と別れてきたのだろうヤマユリだけが鮮やかな路

中国茶の開ききるまでを凝視する非常に静かな一分間

子どもよ

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漣(短歌)

漣(短歌)

かつて武装していた少年の恢復期 檸檬色の窓枠

砂浜に梯子をかけて降りてくる とくべつ重い藍の未明

波間という波間の裂け目のそれぞれにゆらめく空と淡い惜別

さざなみのガラス玉たちなみあしで沖にゆくもの岸につくもの

潮風にしめった砂をはらってもはらっても繊維に残る追憶

生きるためただしく誤りつづけたい公転も自転もしない流星

凍る夜、凍る指先からめあう降りしきる灰に埋もれようとも

ありふれ

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引き金(超ショート)

引き金(超ショート)

おそらく今夜、大きな満月が東の空からゆっくり昇るはずだったのだか、厚ぼったい雲に阻まれて月も星もない真っ暗な夜だった。
海岸まで数百メートルに位置する住宅地は、夕方の満ち潮の時間になるとたちまち磯の香りで満たされる。今夜もそのきわめて有機的な匂いが街全体を覆っていた。窓ガラスには塩の結晶がびっしりこびりつき、放置自転車はあっという間に錆びてしまうので、住人たちはすぐにそれが主人のいる自転車かどうか

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水晶体奇譚(短歌)

水晶体奇譚(短歌)

珈琲を飲み干して君にさようなら ちょうこくしつ座で逢いましょう

古漬が古墳にみえるくらいには疲労していた 皺皺のレシート

「眼圧の測定装置に顎をのせてます」ひとりぼっち惑星

肉厚の暗室カーテン幾重にも折り重なって私を拒む

気が遠くなるほどの時間をかけてするお別れです、出会った日から

憤りにまかせ発泡スチロール容易く割れてしまえば極夜

レースのカーテンにだけ棲まう妖精が林檎の皮をするする

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箱の中(普通日記)

箱の中(普通日記)

私の居場所は今この場所ではなく、頭の中にある。
アルバムの1ページ目中央に1枚貼られた写真に写るのは、私ではなく、私が入っているだろう保育器だ。このような構成で第一子のアルバムを作る両親のセンスはなかなかのものだと思う。次のページからはごく普通に赤ん坊の自分や、七五三の着物を着て千歳飴の袋を下げている私がいる。
それから10年20年、と時は流れ、私は成人した。私は側からみればごく普通に育ち大人にな

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Traveling Without Moving (短歌)

Traveling Without Moving (短歌)

いましがた壊れたいのち捌きます人畜無害の寿司職人

集合的無意識の深いプールの表面に浮遊する罪状

拒食症患う国家主義者らが食べるはしから言葉を嘔吐し

ポニーテールの前髪なめんなよみたいな視線ある駅構内

理髪師の右手にかたく握った光 けれんみのない眉の角度で
雪道に複雑化する内情を押し留めつつ映画館へと

ゆうえんち跡に繁茂するDAISOつわものどもがゆめの跡

ゆうやみのBluetooth告

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薔薇 (普通日記)

薔薇 (普通日記)

昨年の暮れ、ホームセンターへ行った際、ふと目に止まったつる薔薇の苗。つる薔薇、よいではないか、そう思って気軽に、実に気軽に近くに立っていた女性店員に育て方など聞こうと声を掛けたところ、小声で「ホームセンターで買うより薔薇の専門店で買って!」と言われ、ちょっとびっくりしたが私も小声で「そっ、そうなんですね!ありがとうございます!」と、踵を返した。ありがとう商売気のない店員さん。

数日後、某薔薇の専

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椿 (短歌)

椿 (短歌)

椿の朱ひときわ鮮やかな窓辺 死亡者数を入力しており



システムが、システムを、管理するbug、bug、bug、命を削る



入管にならぶ人の眼うつろな眼なめらかな壁にそって入滅



帰り道、月光を皮膚にゆきわたらせる(どうぞ、殺菌されますように)


マゼンタの椿散らばるワンピースがお向かいの庭に溶け込んでいる


ききわけのよい子どもから順番に出生届に記載されく

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かばんの中のシリカゲルに告ぐ(詩)

かばんの中のシリカゲルに告ぐ(詩)

明け方の桟橋を歩いて
人工の海岸を見渡す
〈じんたいにゆうがいな〉宇宙線と
〈うちゅうにみちている〉エーテルとか
〈かくじつにとどいている〉ニュートリノとか

昨今この辺りはは密度が増していて



古いフランス映画みたいに
「全てが無意味」などと酩酊してはたと気づけば深海にいる
極めて深刻な情緒に身を浸しているが実のところまんざらでもなく

存在の危うい
色のない
眼球も持たない生物は

どな

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凩(短歌)

凩(短歌)

缶詰の薄いスープをかきまぜれば翻弄される星形にんじん

いつまでもここにいたって構わないバスの時刻も乗り換えもない

余白余白余白に満ちた月曜日 ガラス窓には塩の結晶

鍵盤の高いところのキィの音?うつ伏せてとめどないお喋り

四半世紀もたてばさすがにほどけて水平線 淡いまぼろし

つるバラの駅ゆき目抜き通りゆき君の香りとかうまい嘘とか

ひとつだけ願いをかなえてあげましょうただし摩擦はないものと

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E式 (短歌)

E式 (短歌)

広大な白のシーツの中央に置かれていました 頭髪を濡らして

全方位 淡い品々に囲まれて(だれもいませんかだれかだれか)

途絶えつつ聞こえるリフの繰り返し あかるいほうにあのひとがいる

湯冷ましに浮かぶ二日月 腕が二本もあってまとまりません

はばたきの一瞬ごとに忘れ果て蝶々それはまったくの楽天家

「黄昏は鬱になるってともだちもそういってたし」放縦な嘆き

透明な甲殻類の吐く泡が成層圏でいくつ

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胎内の街 (短歌)

胎内の街 (短歌)

緻密に緻密を
かさねたスライドの
いつかの時間わたし以外の

ナホトカの海の
白飛びする画像
見知らぬ人の時間の流れ

色褪せた波間にうまれ
消える泡
わたしのものではない時間

奔放なヒマラヤ杉の
庭にいる
少女の髪でひらく花々

カムチャツカの姉妹が消息を断つ
小説を読む
昨年のこと

うつくしい世紀末の
裏路地で
周波数を移動させる人

つながらない街の
落日をゆく車
街はわたしの胎内にある

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その男性全裸中年につき(短歌)

その男性全裸中年につき(短歌)

周到にスーツを繁みに隠したら全裸ですすめ秘密のルート

昼下がり黙りこくった家並は無口な誓いで組み立てられて

とぼとぼと歩いて帰る雪野原 漂白される男の細胞

「川底の意識のようにゆらめいて夢とうつつを遊泳していた」

輝かしい少年の日々追いかけて座礁している俺という舟

丹念にヌードデッサンするあいだ凝固していく窓の水分

ひび割れたデッサン室の窓のむこう失踪日和の空はモネ調

沖合の霞に紛れ

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王国 (詩)

王国 (詩)

小雨の夕方

黒猫は子猫を5匹つれて

散歩をする

猫たちは大きい順にならんで

角を曲がる

3丁目のあの家の主婦が

内緒で買った高級腕時計を

とんでもない場所に隠していることも

猫は知っている

角地にあるカフェの経営状態

困窮している

相当なものだ

区役所の突然の配置換えは

人々の思惑通り 

幹部職員がしでかした大失態を形式上払拭したに過ぎず

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「私を撮って」 ショートショート

洋一の住む街は東京湾の埋め立て地にあり、どの方角へ向かっても坂道というものに出合わなかった。電車で二駅ぐらいの距離なら軽く自転車で走れるので、彼の生活圏はほぼ自転車で制覇されたようなものだ。

数日前の梅雨入り宣言以来、忠実に雨は続き、雨は粒子となって半端に彼の衣服や短く切った髪の間に絡みつき、顔や腕の毛穴に入り込んだ。それでも彼は日々自転車を漕いだ。雨粒が目に入るとき彼の視界はゆがみ、信号機や車

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箱(ショートショート)

箱(ショートショート)

その日は、朝からしょぼい雨が降っていた。やっとの思いでこのセレブタワーマンションに引っ越して来た私は、セレブ夫人達のるつぼというべき「ミシュランシェフによる、本格フレンチディナーの手ほどき」と、やたら題目だけの長い、早い話が料理教室への参加初日であり、鼻息荒く早朝から巻き髪づくりに余念がなかった。

この縦ロール、名古屋地区を発祥とするらしいブルジョアのお約束のようなものであり、このマンションに暮

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