ダニー・トシ

経済学者の森嶋通夫氏に師事しました。大学で学んだ数理経済学から大学院では一転、臨床心理…

ダニー・トシ

経済学者の森嶋通夫氏に師事しました。大学で学んだ数理経済学から大学院では一転、臨床心理学と大乗仏教論を専攻。報道機関から転職した先の大学出版部で新書・文庫のレーベルを立ち上げました。好きな作家とデザイナーはガルシア・マルケス、ボルヘス、バルガス・ロョサ、山本理顕、本郷いづみ…

記事一覧

短編小説:婆ちゃんの天眼 (4)

4 人生縮図のお葬式 ―――――――*―――――――*―――――――*―――――――  人はどう生きるか。そしてどう死ぬか。テレビの時代劇が取り上げる不動のテー…

短編小説:婆ちゃんの天眼 (3)

3 夫婦円満 ―――――――*―――――――*―――――――*―――――――  通信・通話アプリをスマートフォンにインストールしたばかりのトミ子婆ちゃんが、「友…

ダニー・トシ
2週間前
5

短編小説:婆ちゃんの天眼 (2)

2 出たとこ勝負 ―――――――*―――――――*―――――――*―――――――  トミ子婆ちゃんは昭和ヒトケタの生まれである。第二次世界大戦末期は学童疎開によ…

ダニー・トシ
2週間前
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短編小説:婆ちゃんの天眼 (1)

 1 黄色の下着 ―――――――*―――――――*―――――――*―――――――  きょうも駅前の銭湯は大騒ぎである。  トミ子婆ちゃんが暖簾をくぐるとフロン…

ダニー・トシ
1か月前
5

短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛(全文)

 蜘蛛の足  初めて光る  下腹部に  ああ恥ずかしき  十一の虫    小学校五年生の子どもが作った短歌を声に出して読んだ時、山岡健太は鳥肌が立った。  夏の季語で…

ダニー・トシ
1か月前
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百人一首と竜の〈玉〉

〈あらすじ〉小学校のかるたクラブに所属する梨子、有実、樹梨也の三人は名前が果物のナシに由来するから仲がいい。「働きすぎ」「寝すぎ」「食べすぎ」など行動がエスカレ…

ダニー・トシ
1か月前
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短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛 (下)

◇               ◇               ◇  鈴木すばるは何者か。歌人の卵か。指導者・先生は誰か——新聞社に問い合わせが殺到した。騒…

ダニー・トシ
1か月前
14

帝京大学出版会:書評・新刊紹介に掲載された刊行書籍

▼帝京新書003『「頑張る」「頑張れ」はどこへいくー努力主義の明暗ー』(大川清丈著)  月刊オピニオン誌「正論」2024年3月号に取り上げられました。  「桑原聡 この本…

ダニー・トシ
1か月前
5

短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛 (上)

 蜘蛛の足  初めて光る  下腹部に  ああ恥ずかしき  十一の虫    小学校五年生の子どもが作った短歌を声に出して読んだ時、山岡健太は鳥肌が立った。  夏の季語で…

ダニー・トシ
1か月前
13

短編小説:『蜘蛛の王』

 「蜘蛛の話」は島に伝わる。  その島は岡山県笠岡市の笠岡諸島にある。  笠岡諸島は大小三十一の島から成る。  実際は違う。  三十三である。    潮の満ち引きによ…

ダニー・トシ
1か月前
12

ダニーと申します。元財務官の渡辺博史さんが書き下ろした帝京新書『「教育改革」の改革』の宣伝・広報を担当しています。6月23日の日経新聞の特集「直言」に、円が安全通貨であるというのは誤解だとする渡辺さんのロングインタビューが掲載されました。このためPOPを急いで新しくしました。

ダニー・トシ
2か月前
2

ヒーローの「国葬」

 ヒーロは突然、アンチヒーローに変わる。  アンチヒーローも突然、ヒーローに変わる。  放送が終わったTBSの人気連続ドラマ「アンチヒーロー」はそのことを教えてくれ…

ダニー・トシ
2か月前
13

国際通貨研究所の渡辺博史理事長はG・オーウェルの名著「1984 年」に注目。「ここで書かれた世界地図の中で、三超大国(Eurasia、Oceania、Eastasia)のどこにも属しない Disputed 地域が、これからの動きの中核になりうるというのも、面白い構図である」と。

ダニー・トシ
2か月前
2

 短編小説:『テトラの嫉妬』 全文

 そのネオンテトラは松山市内のオフィスで薫と呼ばれている。  薫はペットショップの水槽で泳いでいるところをIT企業の社長に見いだされ、オフィスに連れて来られた。…

ダニー・トシ
2か月前
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ダニーと申します。
帝京新書『「教育改革」の改革』の宣伝を担当しています。著者の渡辺博史さんは元財務官。教育論を著した福沢諭吉、大隈重信、西田幾多郎、新渡戸稲造、森嶋通夫、宇沢弘文に連なります。日本の教育と教育制度における可能性、限界、課題を渡辺さんは軽妙な語り口で明かします。

ダニー・トシ
2か月前
1

ダニーと申します。
本日、私が宣伝を担当する帝京新書『「教育改革」の改革』が全国発売されました。京王電鉄府中駅前にある〈啓文堂書店府中本店〉さんに、さっそく並べられました❤。教育のゴールが変わればスタートも変わるとして、著者の渡辺博史さんは「大学改革から始めよう」と訴えています。

ダニー・トシ
2か月前
1
短編小説:婆ちゃんの天眼 (4)

短編小説:婆ちゃんの天眼 (4)

4 人生縮図のお葬式
―――――――*―――――――*―――――――*―――――――

 人はどう生きるか。そしてどう死ぬか。テレビの時代劇が取り上げる不動のテーマに、トミ子婆ちゃんはとんと興味がない。人生の価値は自分で決めるものではない。他人様が決めるものだ。すべては葬式にあらわれ、人生は葬式で決まる。彼女はそう考えている。三十代の頃から揺らいだことのない信念である。

 「時代劇もそう。『宮本

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短編小説:婆ちゃんの天眼 (3)

短編小説:婆ちゃんの天眼 (3)

3 夫婦円満
―――――――*―――――――*―――――――*―――――――

 通信・通話アプリをスマートフォンにインストールしたばかりのトミ子婆ちゃんが、「友達登録」をした息子夫婦と孫たちに「緊急家族会議招集」の一斉連絡をしたのは、新型コロナウイルスの感染が首都圏に広がる半年前のことである。三男昭夫の長女、真理が離婚したいと言い出し、相談を受けたトミ子婆ちゃんが家族会議に諮ることにしたのだった

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短編小説:婆ちゃんの天眼 (2)

短編小説:婆ちゃんの天眼 (2)

2 出たとこ勝負
―――――――*―――――――*―――――――*―――――――

 トミ子婆ちゃんは昭和ヒトケタの生まれである。第二次世界大戦末期は学童疎開により新潟県で集団生活した。東京大空襲は体験していない。同じ昭和ヒトケタ生まれの夫、賢二とは三歳違いである。賢二は十五年近く前に糖尿病腎症で亡くなった。葛飾区内の入院先で三年、闘病した。

 賢二が亡くなった日、トミ子婆ちゃんは涙を一粒も流さ

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短編小説:婆ちゃんの天眼 (1)

短編小説:婆ちゃんの天眼 (1)

 1 黄色の下着
―――――――*―――――――*―――――――*―――――――


 きょうも駅前の銭湯は大騒ぎである。

 トミ子婆ちゃんが暖簾をくぐるとフロントは演歌の曲が大音量で流れている。明るい演歌ばかりを流すのは祭り好きな主人の粋な計らいである。

 「演歌には暗いのもあるだろ」と常連客にからかわれると、主人は「小賢しいわい」と言って「銭湯はそれでなくても湿っぽいだろ。明るくなくち

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短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛(全文)

短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛(全文)

 蜘蛛の足
 初めて光る
 下腹部に
 ああ恥ずかしき
 十一の虫
 
 小学校五年生の子どもが作った短歌を声に出して読んだ時、山岡健太は鳥肌が立った。

 夏の季語である「蜘蛛」を使った発句にまず心動かされた。第二次性徴期を迎え戸惑う心情を大胆に表現できていると思った。一番気に入ったのは結句にある「虫」だった。陰毛が生えた恥ずかしさから、蜘蛛より小さい生き物になりたいと願う気持ちが伝わってくる。

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百人一首と竜の〈玉〉

百人一首と竜の〈玉〉

〈あらすじ〉小学校のかるたクラブに所属する梨子、有実、樹梨也の三人は名前が果物のナシに由来するから仲がいい。「働きすぎ」「寝すぎ」「食べすぎ」など行動がエスカレートして止まらなくなる奇病「スギちゃん病」が全国で猛威を振るっていた。三人はクラブの顧問から勧められ、「百人一首」と「薬師」と「竜」の関係を夏休みの調べ学習のテーマにすることにした。医者である薬師を代々務める顧問の実家には「百人一首」を編集

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短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛 (下)

短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛 (下)

◇               ◇               ◇

 鈴木すばるは何者か。歌人の卵か。指導者・先生は誰か——新聞社に問い合わせが殺到した。騒ぎは県境を越えてネットでも話題になった。照会のたび、山岡は個人情報を理由に答えられないと言い続けた。ほとぼりが冷めるまでに三週間がかかった。

 八月の「読者文芸」欄の準備に入った。中旬すぎにすばる君から電子メールで投稿があった。

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帝京大学出版会:書評・新刊紹介に掲載された刊行書籍

帝京大学出版会:書評・新刊紹介に掲載された刊行書籍

▼帝京新書003『「頑張る」「頑張れ」はどこへいくー努力主義の明暗ー』(大川清丈著)
 月刊オピニオン誌「正論」2024年3月号に取り上げられました。
 「桑原聡 この本を見よ」のコーナー。
 「これまで努力主義を強化してきた受験制度が機能しなくなったのだ」と桑原氏は指摘しています。

 [版元情報]
 大災害のたびに沸き起こる「頑張ろう」のスローガンから、日常のあいさつ代わりに使われる「頑張って

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短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛 (上)

短編小説:ああ恥ずかしき十一の蜘蛛 (上)

 蜘蛛の足
 初めて光る
 下腹部に
 ああ恥ずかしき
 十一の虫
 
 小学校五年生の子どもが作った短歌を声に出して読んだ時、山岡健太は鳥肌が立った。

 夏の季語である「蜘蛛」を使った発句にまず心動かされた。第二次性徴期を迎え戸惑う心情を大胆に表現できていると思った。一番気に入ったのは結句にある「虫」だった。陰毛が生えた恥ずかしさから、蜘蛛より小さい生き物になりたいと願う気持ちが伝わってくる。

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短編小説:『蜘蛛の王』

短編小説:『蜘蛛の王』

 「蜘蛛の話」は島に伝わる。
 その島は岡山県笠岡市の笠岡諸島にある。
 笠岡諸島は大小三十一の島から成る。
 実際は違う。
 三十三である。
 
 潮の満ち引きにより二つの島が現れたり消えたりするのである。
 二つの島のうち、大きい方を「甲」と呼ぶ。小さい方を「甲子」と呼ぶ。七九七年に弘法大師が創建した円寿寺の伝える記録にそう書かれている。
 岡山県笠岡市の郷土史家である谷川守が「蜘蛛の話」を聞

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ダニーと申します。元財務官の渡辺博史さんが書き下ろした帝京新書『「教育改革」の改革』の宣伝・広報を担当しています。6月23日の日経新聞の特集「直言」に、円が安全通貨であるというのは誤解だとする渡辺さんのロングインタビューが掲載されました。このためPOPを急いで新しくしました。

ヒーローの「国葬」

ヒーローの「国葬」

 ヒーロは突然、アンチヒーローに変わる。
 アンチヒーローも突然、ヒーローに変わる。

 放送が終わったTBSの人気連続ドラマ「アンチヒーロー」はそのことを教えてくれています。

 ヒーローは「成果」を求められます。人々が期待する「結果」を出さない限り、ヒーローはその資格をはく奪されます。ヒーローにとって最大のプレッシャーは「成果主義」です。

 アンチヒーローも同じです。悪役は悪役なりに「結果」

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国際通貨研究所の渡辺博史理事長はG・オーウェルの名著「1984 年」に注目。「ここで書かれた世界地図の中で、三超大国(Eurasia、Oceania、Eastasia)のどこにも属しない Disputed 地域が、これからの動きの中核になりうるというのも、面白い構図である」と。

 短編小説:『テトラの嫉妬』 全文

 短編小説:『テトラの嫉妬』 全文

 そのネオンテトラは松山市内のオフィスで薫と呼ばれている。

 薫はペットショップの水槽で泳いでいるところをIT企業の社長に見いだされ、オフィスに連れて来られた。ネオンのように青と赤に輝く姿が気に入られたらしい。二年以上前の話である。

 社長は変わっている。

 熱帯魚の薫から見てもそう思う。

 デスクのパソコンに向かっているときの貧乏ゆすりがひどい。一分間で両足を百回はゆする。若い美人と話す

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ダニーと申します。
帝京新書『「教育改革」の改革』の宣伝を担当しています。著者の渡辺博史さんは元財務官。教育論を著した福沢諭吉、大隈重信、西田幾多郎、新渡戸稲造、森嶋通夫、宇沢弘文に連なります。日本の教育と教育制度における可能性、限界、課題を渡辺さんは軽妙な語り口で明かします。

ダニーと申します。
本日、私が宣伝を担当する帝京新書『「教育改革」の改革』が全国発売されました。京王電鉄府中駅前にある〈啓文堂書店府中本店〉さんに、さっそく並べられました❤。教育のゴールが変わればスタートも変わるとして、著者の渡辺博史さんは「大学改革から始めよう」と訴えています。