マガジンのカバー画像

小説

96
運営しているクリエイター

#ショートストーリー

SS『街路樹と換気扇』

SS『街路樹と換気扇』

 空回りする換気扇を眺めていた。風に吹かれて回るだけの存在はもう何十年もそこにいるらしい。粉のような雪が申し訳程度に降っている。久しぶりにここら辺で降ってみようか、なんて思っているかのように少しずつ、微かに舞っている。
 

雀が小さな鉢に植えられたというのに大きく育ってしまった何らかの木に留まった。私にとってそれがなんの木であるかは関係ない。ただ、そこには木があって、窮屈そうに生えているのが心地

もっとみる
SS『私と共に生きるもの』

SS『私と共に生きるもの』

前作『校舎はどこかに繋がる』で【暴風】というお題でコラボさせて頂きましたkiiさんの絵の作品に小説をつけさせて貰いました。

「誰が初めに言ったのだろうね、桜の木の下には死体が埋まってるだなんて」

 先生はテスト中に外を見てそっと呟いた。窓際最前列の席の私にしか聞こえないようなその優しい声は、体育科の先生とは思えないものだった。

 数学をカリカリと解く空間は、嫌悪感と諦めで満たされている。これ

もっとみる
SS『校舎はどこかに繋がる』

SS『校舎はどこかに繋がる』

【お題『暴風』】

 風が止んだのはその一瞬だけだった。君は笑っていた。窓際で僕を見てる。
 臨時休校になった校舎の中で、僕は帰ることが出来なかった。雨にも負けず一生懸命登校したというのに、社会は無慈悲に到着してから休校を告げる。
 ローファーの中は水没していて、僕は歩く度に水たまりを作る。
 帰ればいい。
 帰ればいいのだけど、来た時よりも強くなった雨と風の中を疲れ果てた体で駆け抜けることが出来

もっとみる
SS『山は秘密基地』

SS『山は秘密基地』

あたかも入ってくださいかと言っているような木の間を通り抜ける。そこだけは草も生えずただ土がむき出しに、人を誘う。

誰もが自分だけの秘密基地だと思っていた場所は、さすがに荒れ果て自然の占領場となっていた。

もういいよ。

声が聞こえる。それはきっと麓の神社で遊ぶ子供たちの声。立ち止まり、耳をすませばたくさんの音で溢れている。木がぶつかる。草が揺れる。笑い声。飛行機の通過。なにかの唸り、そして、心

もっとみる
SS『26日まであと5分』

SS『26日まであと5分』

 仕事はまだ終わらない。今日で何連勤だろうか、なんて疑問はできるだけ持たないようにする。有線ではクリスマスソングしか流れてないのに、クリスマスである実感が無くなって何年経っただろう。
 年末の忙しさに何故クリスマスという行事が盛り上がるせいで、こんなにもやりたくないことをやらされる。
 閉店作業を終えて、寒いだけの街に戻る。都会はきっとイルミネーションでクリスマスを感じるのだろうけれど、僕が生きる

もっとみる
SS『地名が逃げた』

SS『地名が逃げた』

 地名が逃げた。きっと嫌気がさしたのだろう。ありとあらゆる看板から各地の地名は逃げてしまった。交差点に差し掛かっても青い板が掲げられているだけになった。通っていた病院はただの『診療所』になってしまった。地域を表していたものは全てが消えた。

ここが何駅かもわからない。

 目的地を伝えたとしても、私たちはこことそこの違いを表現出来なくなっていった。

 それは今まで言葉に頼りすぎていたからだ

もっとみる
SS『電車の中の平穏』

SS『電車の中の平穏』

きぃきぃと音が鳴っている。低音が体の中を走る。視界は白とグレーの間。駅が現れては消え、また現れる。斜めに切れたようなマンションを見て、『日射権』というどっかで習った言葉を思い出す。色つきの不織布マスクをしてる人に高貴さを感じて心も視界と同じ色になる。

男の人が半ズボンを履いている。その足は年老いた大木を思わせた。隣に座るかつては老婆と言われ、社会が長生きすることに慣れたからおばちゃんと形容するよ

もっとみる
SS『この世の支配者』

SS『この世の支配者』

【お題:猫と歯車と宇宙のネックレス】

私の手の中には、猫と歯車と宇宙のネックレスがある。それが何であるか説明が必要だろう。だが先に君の覚悟を聞くべきなのだ。これが何であろうと、君は私の座を受け継ぐ覚悟はあるか?あると言うのなら、私の話を聞け。ないのならば、このまま私を殺して奪い取ればいい。

だけど、それをしたら……、まあそれは自分の目で確認してくれたらいい。

いいか、話を聞く気があるのなら私

もっとみる
SS『4階トイレから見る空気』

SS『4階トイレから見る空気』

トイレの窓から山を見るのが好きだった。休み時間の初めの5分間は、窓のある一番端の個室に入ってボーッとしてきた。雨の日も、曇りの日も、晴れの日も変わらずルーティンとしてその時間が大切だった。

なんて山かも知らない。隣の県の山かもしれないし、どこにあるのかも知らない。
遠くの山は、気候によって見えたり見えなかったりする。それを毎日、毎時間確認するのだ。

今日は空気が澄んでいるな。

ああ、今日はあ

もっとみる
SS『彼岸花の秘密』

SS『彼岸花の秘密』

みなさんご存知の通り、彼岸花の時期がやってきました。なので、今日は彼岸花の使い方を教えようと思います。

さて、さすがに君たちが一切の知識がない、とは思ってないのですが、改めて1からお伝えしようと思っています。よろしいですか?

みんなのお父さんお母さんもこの時期は人間の国に3日間ほど滞在しています。

お分かりの通り、彼岸花はあっちの世界との通路なのです。使い方は簡単。それぞれ割り当てられた彼岸

もっとみる
SS『七夕の朝は』

SS『七夕の朝は』

 一昨日からずっと雨が降っていたのに、何処までも青い空が私を迎えてくれた。雨の中、学校に行くのは骨が折れる。スカートはびちょ濡れで一日中不愉快だし、ローファーはプールに足をつけたのかってぐらい水がたまるから、絶対に履くべきではない。でもまあ、制服は可愛くて好きだけど。
 やっぱり、私の願いを叶えてくれたのかな。
 去年もその前もずっと七夕の日は土砂降りで、高校近くの神社のお祭りに参加することが出来

もっとみる
SS『答案はトンネルの先』

SS『答案はトンネルの先』

テスト期間の電車の中は人が少なくて好きだった。いつまでたっても慣れないような青空の下、電車が進む。もう夏の気配がとんでもなくて、車両のクーラーが気持ちよかった。

夏服になったから少しだけ身軽だった。スカートも少し透ける素材で通気がいい。ブレザーも好きだったけど、やっぱりジャケットは暑かった。スカートをパタパタすることで下に履いてるズボンに溜まった熱を発散した。大丈夫、電車に他に人は乗ってない。

もっとみる
SS『滑り台の文通』

SS『滑り台の文通』

公園で遊ぶのはこの世で最も幸せな事だ。長い滑り台を駆け上がり、また滑り降りる。思ったより速く進んで、ハハッと笑いがこぼれる。
滑り台の裏側には、相合傘が書かれている。ひろくんとさや。沢山の落書きの中、一つだけ気になるものがあった。

ゆうれいがいる

心がワクワクした。こういう話は大好きだった。ひらがななのが可愛くて、私はひらがなで「いるよ」と書いた。

次の日もブランコをした。地面に並行になるこ

もっとみる
SS『なおす人』

SS『なおす人』

【大学の課題】
 絵を見て描写。(著作者さんがわからないので勝手な使用申し訳ないです)

 僕らの仕事は人間の子供の遊び相手と言う仕事から逃げ出してきたおもちゃたちの修理、保護である。世界中の子供から逃げ出してきたおもちゃたちは彷徨ううちにこの森のYellowPeopleのもとにやってくる。その量は、年々増えてゆき、我々も二十四時間業務になっていった。
 おもちゃ一つ一つを丁寧に縫ったり、綿を詰め

もっとみる