#ショートストーリー
SS『街路樹と換気扇』
空回りする換気扇を眺めていた。風に吹かれて回るだけの存在はもう何十年もそこにいるらしい。粉のような雪が申し訳程度に降っている。久しぶりにここら辺で降ってみようか、なんて思っているかのように少しずつ、微かに舞っている。
雀が小さな鉢に植えられたというのに大きく育ってしまった何らかの木に留まった。私にとってそれがなんの木であるかは関係ない。ただ、そこには木があって、窮屈そうに生えているのが心地
SS『私と共に生きるもの』
前作『校舎はどこかに繋がる』で【暴風】というお題でコラボさせて頂きましたkiiさんの絵の作品に小説をつけさせて貰いました。
「誰が初めに言ったのだろうね、桜の木の下には死体が埋まってるだなんて」
先生はテスト中に外を見てそっと呟いた。窓際最前列の席の私にしか聞こえないようなその優しい声は、体育科の先生とは思えないものだった。
数学をカリカリと解く空間は、嫌悪感と諦めで満たされている。これ
SS『地名が逃げた』
地名が逃げた。きっと嫌気がさしたのだろう。ありとあらゆる看板から各地の地名は逃げてしまった。交差点に差し掛かっても青い板が掲げられているだけになった。通っていた病院はただの『診療所』になってしまった。地域を表していたものは全てが消えた。
ここが何駅かもわからない。
目的地を伝えたとしても、私たちはこことそこの違いを表現出来なくなっていった。
それは今まで言葉に頼りすぎていたからだ
SS『電車の中の平穏』
きぃきぃと音が鳴っている。低音が体の中を走る。視界は白とグレーの間。駅が現れては消え、また現れる。斜めに切れたようなマンションを見て、『日射権』というどっかで習った言葉を思い出す。色つきの不織布マスクをしてる人に高貴さを感じて心も視界と同じ色になる。
男の人が半ズボンを履いている。その足は年老いた大木を思わせた。隣に座るかつては老婆と言われ、社会が長生きすることに慣れたからおばちゃんと形容するよ
SS『答案はトンネルの先』
テスト期間の電車の中は人が少なくて好きだった。いつまでたっても慣れないような青空の下、電車が進む。もう夏の気配がとんでもなくて、車両のクーラーが気持ちよかった。
夏服になったから少しだけ身軽だった。スカートも少し透ける素材で通気がいい。ブレザーも好きだったけど、やっぱりジャケットは暑かった。スカートをパタパタすることで下に履いてるズボンに溜まった熱を発散した。大丈夫、電車に他に人は乗ってない。
SS『滑り台の文通』
公園で遊ぶのはこの世で最も幸せな事だ。長い滑り台を駆け上がり、また滑り降りる。思ったより速く進んで、ハハッと笑いがこぼれる。
滑り台の裏側には、相合傘が書かれている。ひろくんとさや。沢山の落書きの中、一つだけ気になるものがあった。
ゆうれいがいる
心がワクワクした。こういう話は大好きだった。ひらがななのが可愛くて、私はひらがなで「いるよ」と書いた。
次の日もブランコをした。地面に並行になるこ