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SS『七夕の朝は』

 一昨日からずっと雨が降っていたのに、何処までも青い空が私を迎えてくれた。雨の中、学校に行くのは骨が折れる。スカートはびちょ濡れで一日中不愉快だし、ローファーはプールに足をつけたのかってぐらい水がたまるから、絶対に履くべきではない。でもまあ、制服は可愛くて好きだけど。
 やっぱり、私の願いを叶えてくれたのかな。
 去年もその前もずっと七夕の日は土砂降りで、高校近くの神社のお祭りに参加することが出来なかった。最後の年だから、彼氏と行ってみたかった。きっとクラスの子皆同じことを考えているはずだ。みんなの祈りがやっと届いたのだと思うと少しスッキリする。
 乾かしておいた少し剥げた黒のローファーを履いて、つま先でトントンと音を立てた。私はやっと高校生ができる。素敵色のハンカチを手に取り、私はポケットに入れた。
 笑みがこぼれてしまう。空の青さは痛くなくて、夏生まれの私はワクワクする。夏服は薄くて気持ちがいい。
 七夕は会えないふたりが会える唯一の日だ。そんなおとぎ話を祝うために日本中の人が笹に短冊をかける。可愛いなって思うんだ。
 歩いていく。ふふふ、幸せだなぁ。
 
「ちなつ、起きなさい、保育園遅れちゃうよ」
 ママの声で目が覚めた。雨がザーザーと音をたてるからちょっと怖くなって布団にもぐった。なのに、ママは布団をはいで私のパジャマを脱がす。やだやだ。雨の日は休みたいの!
 

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