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SS『山は秘密基地』
あたかも入ってくださいかと言っているような木の間を通り抜ける。そこだけは草も生えずただ土がむき出しに、人を誘う。
誰もが自分だけの秘密基地だと思っていた場所は、さすがに荒れ果て自然の占領場となっていた。
もういいよ。
声が聞こえる。それはきっと麓の神社で遊ぶ子供たちの声。立ち止まり、耳をすませばたくさんの音で溢れている。木がぶつかる。草が揺れる。笑い声。飛行機の通過。なにかの唸り、そして、心臓のわななき。
吸った空気が震えたのは、僕のせいじゃない。
楽しげな声を背に僕は木々の隙間を縫うように歩く。自然は人間に優しくない。それでいい。日常と隔てた場所である必要がある。
山の奥に進む。その先には僕がいるべき場所がある。かくれんぼで見つけて貰えなかった子どもの場所で僕らは鬼になる。
鬼にみつけてもらったから、日常から抜け出せた。だから僕は同じようにかくれんぼで見つからなかった子どもをみつけて連れていく。
見えない僕らはそのままで生きていける。
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