SS『私と共に生きるもの』
前作『校舎はどこかに繋がる』で【暴風】というお題でコラボさせて頂きましたkiiさんの絵の作品に小説をつけさせて貰いました。
「誰が初めに言ったのだろうね、桜の木の下には死体が埋まってるだなんて」
先生はテスト中に外を見てそっと呟いた。窓際最前列の席の私にしか聞こえないようなその優しい声は、体育科の先生とは思えないものだった。
数学をカリカリと解く空間は、嫌悪感と諦めで満たされている。これが終わっても明日は物理だし古典だし、開放される日など来ないのではないかと思う。
桜はとうに散っていた。桜を見上げる人がいなくなってもう一ヶ月以上だったというのに、あのジャージ野郎は何を思ったのか。
梶井基次郎だろって心の中でバカにして、x=を埋めた。
チャイムが鳴って「ダメだぁ」なんて声が溢れかえってその流れに乗って学校を出る。十一時前の街の中は私の知るものと少しだけ違う気がしてソワソワする。それは勉強しなきゃという焦燥感と共に私を包んで抗えない眠気に変わる。
サラリーマンが二人何かを喋っている。若いスーツの男が足を広げてスマホをいじっている。ベビーカーを担いだお母さんが抱いた子供をあやしている。当たり前の日々が晴天の中で過ぎていく。
私は花見をしていた。ピンク色の空間で団子を食べてぼーっとしている。どこか近くから笑い声が聞こえた。見上げるとそこには大きな桜の木がある。綺麗な女の人が笑っていた。
桜の木は美しかった。
私は腑に落ちた。ああ、この世の美人と言われる人はみな桜になれなかった人なんだと。私たち人間はみな桜になれなかった生き物だ。選ばれたものだけが桜になることが出来る。
きっと、桜に恐怖を感じるのは嫉妬なんだ。恨めしいから怖いもので死体後からで美しいだけなんだと思おうとしたんだ。
目を覚ますと最寄りの二駅前だった。お腹が空いた。帰ろう。生きていかなければいけない世界へ。
前作はこちらです。
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