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SS『なおす人』

【大学の課題】
 絵を見て描写。(著作者さんがわからないので勝手な使用申し訳ないです)

森の中

 僕らの仕事は人間の子供の遊び相手と言う仕事から逃げ出してきたおもちゃたちの修理、保護である。世界中の子供から逃げ出してきたおもちゃたちは彷徨ううちにこの森のYellowPeopleのもとにやってくる。その量は、年々増えてゆき、我々も二十四時間業務になっていった。
 おもちゃ一つ一つを丁寧に縫ったり、綿を詰めたりと直していく。これが時間がかかる作業なのだ。なにしろ、僕らの十倍ぐらいの大きさのものが多くあるのだから。破れたり、ほつれたり、部品がなくなっていたり、様々な経緯の故障はすべて人間の雑な扱いからのみ発生している。直しても直しても次々とやってくる。しかし、人間たちはおもちゃが逃げ出したということすら気づいていないのではないだろうか。彼らは本当におもちゃたちを大事にしているのだろうか。大事にしているのならなぜ、こんなにもボロボロになったおもちゃがやってくるのか……。
 僕は暴走しかかった思考を止めて、作業に集中することにした。もうすでに八時間以上立ってこの大きなクマと思しきぬいぐるみを直している。その間にも新しい患者が来ているのだから、この処理を早く終わらせなければならない。
 僕らには休みがない。ご飯を食べる暇もないほどの多忙であるが、一日二回キャンプファイヤーを囲んで患者たちとダンスをすることを義務付けられている。従業員全員が満身創痍で睡眠を欲しているけれど、皆きちんと自分の持ち時間になったら火の前に集まる。なぜなら、この職場全ては鳥型のカメラによって、上層部にリアルタイムで監視されているからだ。休んでいることが一瞬でばれると、僕らは……。ともかく、ほぼ二十四時間仕事をこなさなければ、滞った仕事が明日の自分を苦しめるだけになる。そのため、誰もがみな手を止めることなく、仕事を黙々とする。たまに人がいなくなるが、いつの間にか新しい人材が補充されている。彼らはどこからやってきているのだろうか。手元の作業しか見ていないため、従業員同士の顔など覚えていない。互いに干渉しあう時間もないため、もめごとも起こらず、作業を進めるだけだ。
 やっと完了したおもちゃを保護施設に届け、次の修理相手を引き取りに行く時だった。体が行くべき場所を逸れて、森の中に入っていった。意思などなく、ただ足が別の場所へと動いていった。頭は動いていない。正直、目もあいているのかも朧げだ。職場の森から逃げ出して、当てもなく歩く。生まれた時からあの場所の外に出たことはなかった。この森がどこに繋がっているのかもわからないが、あの場所の喧騒から遠ざかろうとしていた。
ふと、違う音がした。木々の間から明るい光がもれてくる。吸い込まれるようにそこまで足を運ぶと、そこには、赤色の人々が働いていた。僕の半分程度の背丈の赤色の人が僕の手を引いて、広場に連れていく。椅子が用意されていて、僕はそこに座り込んで、やっと解放された気がしたのだった。

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