見出し画像

SS『滑り台の文通』

公園で遊ぶのはこの世で最も幸せな事だ。長い滑り台を駆け上がり、また滑り降りる。思ったより速く進んで、ハハッと笑いがこぼれる。
滑り台の裏側には、相合傘が書かれている。ひろくんとさや。沢山の落書きの中、一つだけ気になるものがあった。

ゆうれいがいる

心がワクワクした。こういう話は大好きだった。ひらがななのが可愛くて、私はひらがなで「いるよ」と書いた。

次の日もブランコをした。地面に並行になることを目標に漕ぐ。なのに、その手前でぐわっと鎖がたわむから落ちたように感じて怯む。それか楽しい。ぴよーんと飛ぶとドンッと音が鳴って私の足には大きな力が加わった。

滑り台の裏側には新しく言葉が加わっている。

いつもよるのこうえんであそんでる

きっとこの子は賢い子なんだと思った。いびつな字から小さい子であることがわかる。この子は幽霊が見えるというのだろうか。それを家族に言うのではなく、落書きをするなんて素敵な子だ。いや、家族に言ったのかな。言っても信じて貰えなかったのかな。そんなことを考えると愛おしくなる。一度会ってみたいと思った。「どんなみためのゆうれい?」と書き残しておく。明日この子は来るだろうか。早く来て欲しい。

今日はシーソーがしたかったけど、出来なかった。せっかくならあの子としたかった。でも、そんなこと出来ない。どんな子なのかも知らないんだから。だから仕方なくジャングルジムで遊ぶことにした。少し冷たい鉄が気持ちよくて、引っ付きながら公園を見渡した。その向こうには街が広がる。好きな街だった。生まれ育った街が好きだと思えるのは幸せだとおもう。

みずいろのワンピースをきたおんなのこ

よくわかんないけどわるいこじゃなさそう

いつもひとりであそんでる

なかよくなりたい

ひとりはさびしいでしょ?

君とのコミュニケーションは楽しかった。名前も見た目も分からないのにきっとこの子のことを私が一番理解してるとおもえた。たまらなくいい子で、幽霊にも寄り添いたくなる子なんて現代ではめったに居ないだろう。やっぱりお友達になりたいとおもう。

今日は誰かが置いていったスコップとかプリンのカップとかで砂遊びをすることにした。冷たい砂をカップに詰めてプッチンプリンの量産をする。ここはプリン屋さん。落とし穴も作っちゃおうかな?やっぱり山がいいか、おっきいの作って、穴を掘ろう。山の麓のプリン屋さんなんてステキ。

今日は少し遊びすぎた。真剣になりすぎて朝になってしまった。早く帰らないと、土の付いたワンピースを払う。この水色のワンピースは、お母さんがいつも可愛い可愛いって言ってくれた服だからお気に入りで、汚しちゃダメ。朝日に透ける自分の体を見るのは嫌だから、公園から出た。あの子と遊べたらいいのになぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?