狭霧 織花

リアルもネットも飛び越えて。おさえつけてた諸々を、好きも嫌いも好き勝手に語ります。いく…

狭霧 織花

リアルもネットも飛び越えて。おさえつけてた諸々を、好きも嫌いも好き勝手に語ります。いくら年をとっても大人になれない。HP閉鎖のため、週1ペースで掲載作品を改稿して投稿中。Twitter:https://twitter.com/orika_sagiri

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記事一覧

四大陸物語~北~

『ラ・スピリのお世話役』  この大陸には、尊い御方がいらっしゃる。とおばあちゃんが言った。  尊い、という言葉がどんな意味かはわからなかったけれど、いつもはふん…

狭霧 織花
5日前
3

短編ホラー:天井にシミ

 明るい部屋で、天井にシミを見つけたら、寝てはいけない。  後輩は、言いつけですよ、と暗く笑って言った。  お疲れ様です。と後輩が現れて、飲み会はさらに熱気を増…

狭霧 織花
13日前
8

華物語:蓮

 少女は、拾われ子だった。親切な豪商の主に、使用人にちょうどいいと拾われ養われ、そのまま育ち望まれるままに仕事をこなしていただけだった。  なのに。 「最上の幸せ…

狭霧 織花
2週間前
4

華物語:縷紅草

 くて、と机にうつぶせた同居人は、小さなうめき声をあげたきり、動かなくなった。なんとなく見守っていたら、ちょうど三分間経った。 「カップラーメンができあがるなぁ…

狭霧 織花
3週間前
6

幸福な夜に光あれ

 テーマパークといったらこれと観覧車よね、と彼女が嬉しそうに笑って指を指している。これ、と指されたのは様々な馬たちがくるくると駆け巡る、メリーゴーラウンド。  …

狭霧 織花
1か月前

文披31題:企画を終えて

「文披31題」に参加させていただきましたはしがき 2024年7月1日~31日まで開催された「文披31題」という企画に参加させていただきました。 主催は綺想編纂館(朧)(@Fic…

狭霧 織花
1か月前
5

文披31題:Day31 またね

 暑さから逃れるための方法として、何があるか、ということがふとした会話の中で、議題となった。  冷たい飲み物。アイスキャンデー。冷風機。アカデミーの外にあるミス…

狭霧 織花
1か月前
3

文披31題:Day30 色相

 似合う色は、人によって違う。そして、顔色や感情や、隣に立つ人によってさらに変わる。  まさに千変万化。場合によって必要な色が変わる状況で、誰がそのすべての状態…

狭霧 織花
1か月前
1

文披31題:Day29 焦がす

「お前のその魔力と探求心は、いつか自分の身を焦がすことになるだろうねぇ」  彼女のお師匠様は、あきれたような、悟ったような、それでいてどうしようもない愛しいもの…

狭霧 織花
1か月前
2

文披31題:Day28 ヘッドフォン

 耳に入る音すべてがわずらしいもので、どうにかして遮断できないものか、そればかり考えていた。  世の中にはいろんな音がありすぎる。綺麗な音も、汚い音も、みんな混…

狭霧 織花
1か月前
2

文披31題:Day27 鉱物

 促されて差し出した手のひらの、五本の指の先、爪の部分が、己のものと自分の手を眺める人のそれとは違うのを、ぼんやり眺める。  爪は全体的に乳白色をしており、角度…

狭霧 織花
1か月前
3

文披31題:Day26 深夜二時

 暗い室内で、紙をめくる音だけが響いている。とっぷりと暮れた夜の中で、小さな灯りひとつをデスクに置いて、その人は熱心に一冊の書物に目を落としていた。  数行読ん…

狭霧 織花
1か月前
4

文披31題:Day25 カラカラ

 胸の奥で音がするんです、と訴えられたので、診察しますので椅子にかけてくださいと返した。  椅子にかけた自称患者殿は、胸に手を当て、音がするんですと繰り返す。  …

狭霧 織花
1か月前
1

文披31題:Day24 朝凪

 目が覚めたとき、わかった。その時が来たのだと、覚悟していた瞬間が訪れたのだと。  静寂だけが世界を満たしていた。吐息ひとつさえ誰かに聞きとがめられてしまいそう…

狭霧 織花
1か月前
2

文披31題:Day23 ストロー

 暑いね、と言いながら手にした飲み物を手に取る。グラスにびっしりとついた水滴が、持ち手を滑らせそうになり、慌ててストローを支えた。 「暑いって言うと、余計暑く感…

狭霧 織花
1か月前
1

文披31題:Day22 雨女

 思えばつくづく、不運な生まれだと思う。祝福を受けていると言われても、実感できないほどには、この身に受けた特性はうとましいものだった。  『神の恩恵』と呼ばれる…

狭霧 織花
1か月前
8
四大陸物語~北~

四大陸物語~北~

『ラ・スピリのお世話役』

 この大陸には、尊い御方がいらっしゃる。とおばあちゃんが言った。
 尊い、という言葉がどんな意味かはわからなかったけれど、いつもはふんわり柔らかくお話をしてくれるおばあちゃんが少しずつぴりりとした顔をしていて、それでいてぴしりと姿勢を正して言い聞かせてくれたことを覚えている。
 あれは、おばあちゃんがその御方をとても大切に、そして誇りに思っていたのだと、今ならわかる。

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短編ホラー:天井にシミ

短編ホラー:天井にシミ

 明るい部屋で、天井にシミを見つけたら、寝てはいけない。
 後輩は、言いつけですよ、と暗く笑って言った。

 お疲れ様です。と後輩が現れて、飲み会はさらに熱気を増した。
 「飲むこと」が生きがいのようなメンバーが集まった納涼会だ。なんであれ「乾杯」と声をあげて飲むきっかけとなるなら、これを逃すなどあり得ない。
 現に、遅れてきた後輩が店員から飲み物を受け取った途端、幹事でもないのに後輩の同僚が何杯

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華物語:蓮

華物語:蓮

 少女は、拾われ子だった。親切な豪商の主に、使用人にちょうどいいと拾われ養われ、そのまま育ち望まれるままに仕事をこなしていただけだった。
 なのに。
「最上の幸せをやろう」
 厳かな声に、少女は首を傾げた。
 金の瞳に、銀青色のうろこに覆われた姿は荘厳の一言だ。大きな龍が空に浮かんで少女を見下ろしている。長い髭がゆらゆらと宙に及び、右の爪には美しい宝玉がはまっている。
 その大きく美しく、高貴なる

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華物語:縷紅草

華物語:縷紅草

 くて、と机にうつぶせた同居人は、小さなうめき声をあげたきり、動かなくなった。なんとなく見守っていたら、ちょうど三分間経った。
「カップラーメンができあがるなぁ」
 さすがに三分間も見つめ続けると動かないものを見ているのにも飽きてきて、のんきにつぶやいたりしてみる。つぶやきを耳にしてか、うつぶせた同居人がぴく、と小さく動いたのを視界の端にとらえた。それを目にして、おやこれは、といたずら心が働いた。

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幸福な夜に光あれ

幸福な夜に光あれ

 テーマパークといったらこれと観覧車よね、と彼女が嬉しそうに笑って指を指している。これ、と指されたのは様々な馬たちがくるくると駆け巡る、メリーゴーラウンド。
 夜の闇の中で、どのアトラクションもきらびやかに輝いているけれど、今夜は一際と思ってしまうのは、彼女の笑顔のせいだろうか。
 楽しげな表情につられて、無意識に指が動く。わぁ、と彼女の声が上がった。
 彼女の乗った馬のそばで光の玉が飛び交って、

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文披31題:企画を終えて

文披31題:企画を終えて


「文披31題」に参加させていただきましたはしがき

2024年7月1日~31日まで開催された「文披31題」という企画に参加させていただきました。
主催は綺想編纂館(朧)(@Fictionarys)様。
1日1題のお題に沿って小説を投稿するというもの。追いかけはOKだけど先行はNGということで、当日になるまで、もしくは過ぎるまでそのお題の話は見ることができない、でもお題は知っているという毎日を楽し

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文披31題:Day31 またね

文披31題:Day31 またね

 暑さから逃れるための方法として、何があるか、ということがふとした会話の中で、議題となった。
 冷たい飲み物。アイスキャンデー。冷風機。アカデミーの外にあるミスト発生機(ただし常に満員状態)。口々にあげてはみたが、全員が薄々感じていることは同じだった。
「なんか、違うんですよねぇ」
 研究室の助手が事務書類を束ねながらうーん、と唸る。魔法の研究とあらば体調、奇行、雰囲気その他あらゆる諸々を気にしな

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文披31題:Day30 色相

文披31題:Day30 色相

 似合う色は、人によって違う。そして、顔色や感情や、隣に立つ人によってさらに変わる。
 まさに千変万化。場合によって必要な色が変わる状況で、誰がそのすべての状態に「ベストな色」を選ぶことが可能だろうか。
 でも、私にとっては難しいことではない。とても、とても簡単だ。
「このお色はいかがでしょうか?」
「こんな色、選んだことないわ。……でも、なんだかわくわくするわね。……これにするわ」
「ありがとう

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文披31題:Day29 焦がす

文披31題:Day29 焦がす

「お前のその魔力と探求心は、いつか自分の身を焦がすことになるだろうねぇ」
 彼女のお師匠様は、あきれたような、悟ったような、それでいてどうしようもない愛しいものを労るような、もしくは慈しむような声で、そう言った。
 なんで、と無邪気な声で尋ねると、苦笑して頭をなでられた。猫の仔にでもするような仕草に、こども扱いしないで、と突っぱねたかったが、お師匠様の手は優しくて暖かくて、とろりとした眠気と共にま

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文披31題:Day28 ヘッドフォン

文披31題:Day28 ヘッドフォン

 耳に入る音すべてがわずらしいもので、どうにかして遮断できないものか、そればかり考えていた。
 世の中にはいろんな音がありすぎる。綺麗な音も、汚い音も、みんな混ざってめちゃくちゃだ。
「そんな風に聞こえないよ」
 言われても、自分は聞こえてしまうのだから仕方がない。みんなが聞こえないことがわからなかったし、自分が聞こえることも伝わらなかった。
 そして時折、自分の口にする声が聞かせる相手に意味をな

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文披31題:Day27 鉱物

文披31題:Day27 鉱物

 促されて差し出した手のひらの、五本の指の先、爪の部分が、己のものと自分の手を眺める人のそれとは違うのを、ぼんやり眺める。
 爪は全体的に乳白色をしており、角度でゆるりといろいろな色に光を弾いている。オパールという石だよ、と昔、目の前の医師に教えられた。
「……うん、今日は調子がよさそうだね」
 かかりつけの医師がにこりと笑って言った。調子が良い、は体調のことではない。
 体の鉱物化の進行があまり

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文披31題:Day26 深夜二時

文披31題:Day26 深夜二時

 暗い室内で、紙をめくる音だけが響いている。とっぷりと暮れた夜の中で、小さな灯りひとつをデスクに置いて、その人は熱心に一冊の書物に目を落としていた。
 数行読んで、一度止まる。指でなぞり、何かを確かめるように何度か行き来して、そして一度宙を眺めてまた書物に目を落とす。
 かと思えば読んでいるのだかわからないスピードでページを繰り、急にぴたりと止まる。
 何かを探しているようで、けれどどこか目当ての

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文披31題:Day25 カラカラ

文披31題:Day25 カラカラ

 胸の奥で音がするんです、と訴えられたので、診察しますので椅子にかけてくださいと返した。
 椅子にかけた自称患者殿は、胸に手を当て、音がするんですと繰り返す。
 それは誰にでもわかるのかと尋ねると、手を当ててみればわかると思うのであててくださいと言われた。半信半疑で手を伸ばし、言われた場所に手を当てる。
 確かに音がした。患者が呼吸をするたび、声を発するたびに、カラカラと、乾いた音がするのだ。
 

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文披31題:Day24 朝凪

文披31題:Day24 朝凪

 目が覚めたとき、わかった。その時が来たのだと、覚悟していた瞬間が訪れたのだと。
 静寂だけが世界を満たしていた。吐息ひとつさえ誰かに聞きとがめられてしまいそうな、静謐な時間が流れている。
「準備、しなきゃ」
 はたと思いだし、起き上がる。かすれた声でつぶやいてベッドから起き上がると寝間着を脱いで、白いワンピースに着替えて、顔の下半分を覆うレースをつける。肩より下まで伸びた髪はくくり、布で覆って長

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文披31題:Day23 ストロー

文披31題:Day23 ストロー

 暑いね、と言いながら手にした飲み物を手に取る。グラスにびっしりとついた水滴が、持ち手を滑らせそうになり、慌ててストローを支えた。
「暑いって言うと、余計暑く感じない?」
 かもなぁと返すと、だよねぇと気怠げに相づちが来る。少しのいらだちを感じたのは、疲れと暑さのせいだろう。人間、疲れてくると余裕がなくなってくる。
 かといってこの暑さに対する良い表現も思い浮かばず、沈黙が続いた。普段はお互いにお

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文披31題:Day22 雨女

文披31題:Day22 雨女

 思えばつくづく、不運な生まれだと思う。祝福を受けていると言われても、実感できないほどには、この身に受けた特性はうとましいものだった。
 『神の恩恵』と呼ばれる魔法のうち、雨の魔法の性質を持って生まれたと知ったとき、喜びよりも落胆の理解を覚えた。
 なにせ、雨の魔法といっても使いこなせないうちは知らず知らずのうちに雨を降らせてしまうがゆえに、外での行事はほぼ確実に雨天決行もしくは中止の状態だった。

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