狭霧 織花

リアルもネットも飛び越えて。おさえつけてた諸々を、好きも嫌いも好き勝手に語ります。いく…

狭霧 織花

リアルもネットも飛び越えて。おさえつけてた諸々を、好きも嫌いも好き勝手に語ります。いくら年をとっても大人になれない。HP閉鎖のため、週1ペースで掲載作品を改稿して投稿中。Twitter:https://twitter.com/orika_sagiri

マガジン

  • 短編

  • 花結文庫

  • 文披31題(2024)

    7月1日~31日まで順に、お題の小説を創作していく企画に参加した作品。

  • 本の備忘録

    読了した本たちについて、いろいろと語ります。

  • 華物語

最近の記事

文披31題:Day22 雨女

 思えばつくづく、不運な生まれだと思う。祝福を受けていると言われても、実感できないほどには、この身に受けた特性はうとましいものだった。  『神の恩恵』と呼ばれる魔法のうち、雨の魔法の性質を持って生まれたと知ったとき、喜びよりも落胆の理解を覚えた。  なにせ、雨の魔法といっても使いこなせないうちは知らず知らずのうちに雨を降らせてしまうがゆえに、外での行事はほぼ確実に雨天決行もしくは中止の状態だった。  幼い頃はなおさらだ。遠足や旅行など、楽しみにすればするほど魔力は高まり放出さ

    • 文披31題:Day21 自由研究

       真っ白なノートを見つめてどれくらいの時間がたっただろうか。いくら見つめても、そう、穴が開くほど見つめても、ノートに何か浮かぶことはない。  長期休暇でいちばん嫌いな宿題が、最後の難関となって立ちふさがっている。  誰だよ、こんな課題考えたの。  ふてくされて唇をとがらせても、誰も答えてはくれない。もちろん課題が終わるはずもない。  仲の良い同級生は、もう手をつけていたり、なんならすでに終わっていたりするという。 「なんでもいいのに」  不思議そうに言われたのは、同級生の少女

      • 文披31題:Day20 摩天楼

         美しい姫、いづこにおわす。白磁の髪に、薄氷の瞳、雪の肌に珊瑚の唇。菩薩の笑みに、琴の音の声、白魚の指に天女の肢体。  美しい姫は塔におわす。蝶の着物に毬の帯、真珠のかんざし、琵琶の扇。  高い高い塔のてっぺんに、姫はおわす。数多の富と名声と、愛を積み上げ、高みから見下ろしておわす。  姫はいづれの宝物、いづれの誉れのものならむ。姫は誰にも手に入れられぬ。姫は孤高の貴きもの。  高い高い塔のてっぺんに、姫は見下ろし何を待つ。  姫は獲物を待っている。鋭き牙持ち爪磨き、雅な衣に

        • 文披31題:Day19 トマト

           ピンク色の髪に、赤い目。その見た目でからかわれるのはしょっちゅうで、隠すのに必死になっていた。  さらにしゃべり方もおっとり気味だったし、あげくに自分の魔法の気質が花とわかると、ますますからかわれた。何もかもが、嘲笑の対象だった。  だから隠したいと思って眼鏡をかけ、なるべくしゃべらないようにしたし、髪は一つにくくってこっそりと過ごしてきた。  ありがたいことに、得意の魔法は大した力ではないと思われたために長じるにつれ相手にされなくなり、髪だけが目立つ容姿であればそれはそれ

        文披31題:Day22 雨女

        マガジン

        • 文披31題(2024)
          22本
        • 花結文庫
          57本
        • 短編
          58本
        • 本の備忘録
          39本
        • 華物語
          23本
        • 思索
          16本

        記事

          文披31題:Day18 蚊取り線香

           むしがでた、と騒いでいるルームメイトがあまりにうるさくて、騒ぐ背中を蹴り飛ばしたら枕が飛んできた。  そのまま軽い乱闘になったところを寮長に止められて、三日間のおかず一品減らしますの罰を受けることになった。  育ち盛りの健康男子におかずが一品減るのはたいへんなことだ。考えるだけでもお腹は空くし、事実としてすぐにおかずは取り上げられてしまったため、もの悲しい気持ちで授業を受けている。おかずの代わりに主食をかきこんだが、おかずがあるならあったほうが心も体も嬉しいし、腹にたまる気

          文披31題:Day18 蚊取り線香

          文披31題:Day17 半年

           神はここにあられないのか。  慟哭は嵐の中にかき消され、誰にも届くことはない。神などいないのだ、と叫んでも、誰も止めはしない。  嵐の夜、裁きのように雷の落ちる夜に。  男にとっては自分の命よりも尊く、大切で最も愛しい者たちは、他人によって命を奪われたのだった。   「ただいまから、あなたに問われている罪を読み上げます。その後、必要に応じて発言してください」  カン、とガベルによってならされた音は、彼の断罪が始まったことを知らせる合図だった。  一段、二段と高い位置に座った

          文披31題:Day17 半年

          文披31題:Day16 窓越しの

           暑い日も寒い日も、晴れていても、雨が降っていても。私には関わり合いのないことだ。窓越しの風景が移り変わっていくだけ。  道行く人の姿が変わること、視界に映る木々や花々が咲いて散っていくこと。できるのは、それを眺めて楽しむだけ。少女は現実を受け止め、理解していた。  物心ついた時からこの家の中で育ち、外に出ることはなく、私と外の世界をつなぐのはこの窓だけだった。  小さな家族が、慎ましやかな暮らしを大切に営むために建てられた小さな家。けれど、窓はそれとは反対に大きくつくられ凝

          文披31題:Day16 窓越しの

          文披31題:Day15 岬

           岬の灯台には、灯台守がいる。  海を臨む崖の近く、いつ造られたのか、白い石造りの灯台が海を見守るように建っていた。  夜になると灯台に灯りがともる。ぼんやりと、けれど明るく白い光は海と共にまちをも見守ってくれているようだった。  昼間も夜も変わらずたたずむ姿は頼もしいものだけれど、どこかもの寂しげな様子に満ちていた。  灯台の光は、時折色を変えた。勘の良いものは、それが潮目の変わり目と、季節の変わり目のタイミングであることに気づいただろう。  灯台にともるのは、白い光が常と

          文披31題:Day15 岬

          文披31題:Day14 さやかな

           いつか海に、一緒に。  それは小さな提案。二人の間に交わされた約束は、小指を絡めただけの、確固たる形はないものだった。  けれど、二人にとっては心の奥底で光り続ける宝物のように残っていて、時折二人きりになると、ラベンダー色の瞳は期待に満ちて彼を見つめていた。 「ねぇ、海に行くのよね」  彼女が聞きたがっている返事はこうだ。 「ああ。いつか、一緒に」  すると人魚の彼女は嬉しそうにふふふと笑って、海水に満たされたプールに潜ってぐるぐると踊るように泳ぎ、しばらく戻ってこない。今

          文披31題:Day14 さやかな

          文披31題:Day13 定規

          「助手よ!」  朝から元気だな、と心底思った。なんで真夏の朝イチからあんなに腹から声が出せるんだろう、あの人。  向日葵もかくやと思わせるほどににこにこしながら両手を広げ、研究室に出勤してきたところを迎え入れられたが、初対面と同じくドアを閉めて去りたくなる。  それでも現時点で、この場に立っているだけで給料が発生し始めているということを思うとそうもいかず、しぶしぶと足を踏み入れた。背中でパタン、とドアが閉まる音が最後通告のように聞こえる。  もうすぐ賞与ももらえるというのをよ

          文披31題:Day13 定規

          文披31題:Day12 チョコミント

           かんかん照りとはよく言ったものだ、などと考えながら店先で手を日除けに空を仰げば、まばゆい光が指の隙間から針のように差し込んでくる。たったそれだけで暑さを感じてしまうのだから夏はいけない、と少しだけ文句が言いたくなる。  夏は嫌いではないが、暑さは苦手だ。体力がないという自覚を差し置いても、空から焼かれ地上からあぶられ、体から水分を奪って体に熱を注ぎこもうとしてくる意思すらあるように感じてしまう。  店のドアに掲げられた『CLOSED』と彫刻の入ったガラスの札を眺め、ふぅと息

          文披31題:Day12 チョコミント

          文披31題:Day11 錬金術

           魔法は芸術にも等しいのだよ、と眼鏡の奥の瞳とともに告げられた。 「美しく、力強く、万物にあふれる力に働きかける。なんて素晴らしいんだ!」  ぐつぐつと煮える鍋に棒を突っ込み、ぐるぐるとかき回しながら熱弁する様子は狂気を含んでいる。ありていに言えば、怖い。狂人じみている。  正直、就職先間違ったかなと思うには十分すぎるほどだった。どおりでやけに好待遇なわけだ、と。給料なんて前の仕事より倍以上になっているはずだ。  それが目の前のものへの対応というには、少し足りない報酬ではない

          文披31題:Day11 錬金術

          文披31題:Day10 散った

           この日だけは、夜に出歩いてはいけないよ、と口酸っぱく親から言われている日があった。  盆の近く。けれど盆の当日ではなく。盆の見送りの、その後の日。  毎年その日は違っていた。だからこどもたちはその日がいつか、夏休みに入る頃まで知らされなかった。  ただ、夏休みを迎える前後に、今年はこの日の夜に出歩いてはいけないよ、と大人たちは申し合わせてこどもたちに言い聞かせていた。  長じるにつれ、その日の由来を考えるようになり、あるとききっかけの一つに気づいた。  町内に多くの檀家を抱

          文披31題:Day10 散った

          文披31題:Day9  ぱちぱち

          「海の中では、まばたきはできるの?」  こうやって、とまぶたを上下させながらまばたきの仕草をする。大仰な仕草と長いまつげのおかげで音がなりそうなほどだなと思う。  にこにこ笑ってラベンダー色の瞳を持つ人魚が答えを待っているが、残念ながら貴女はできるが自分は無理だと告げると、無邪気な瞳は悲しげに曇った。  どうして、とプールの縁に上半身を寄せて不満げな様子に苦笑するしかなく、人間だからだよと説明するけれど、彼女にはうまく伝わらないらしい。 「海の水は目に染みるんだよ。それに、人

          文披31題:Day9  ぱちぱち

          文披31題:Day8  雷雨

           威勢のいい掛け声ひとつ。それを聞いた瞬間には、狙いの相手は絶命している。ただし、このたびの的は敵の武人ではなく、何重もの円を描いた訓練用の的だったが。  的の中央あたりにまっすぐ射られた矢は、しっかりと突き刺さっており、射手の腕と力を思わせるものだ。 「いつもながら、お見事」  ぱちぱち、と乾いた拍手と共に与えられた賛辞に、射手は言われて無言で膝を折り頭を下げた。雷のごとく、と言われるほど鋭い弓矢を放つその弓士は、黒く長い髪を頭頂にひとつ結んで背中に流しており、立ち振る舞い

          文披31題:Day8  雷雨

          文披31題:Day7  ラブレター

           黒い森、とその場所は呼ばれていた。暗く、緑の繁る木々は、うっそうとしており日の光が届かないあまりに葉の色は暗く、黒いものが多くなり、同時に森そのものも同様となっていった。  昼日中においても夜のように暗いので、人々は森に入ることはなく、そのまま黒い森と呼ばれて恐れられるようになった。  そうするうち、誰かが言い出したのだ。 「黒い森には魔女がいる。足を踏み入れれば獣をけしかけてくる、恐ろしい魔女が」  と。  事実、森からはときおり恐ろしい獣の遠吠えが聞こえてきたり、迷い込

          文披31題:Day7  ラブレター