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エッセイ、文子日記

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#小説

『腐女子、うっかりゲイに告る』を見て

昨夜、夜更かしをしていたら、NNHKで掲題の連続ドラマの再放送をしていた。これが結構面白くて。毎週土曜の23時半からだそうだ。今夜も見よう。皆様もよろしかったらどうぞ。

それから、このドラマと被る小説を4年ほど前に書いていることを思い出し、久しぶりに読んでみたら面白い。こちらもおすすめ。

みんな同じ

 信号待ちをしていた時、
「彼氏いますか?」
と唐突に聞かれた。質問の主は、当時通っていた税理士試験予備校の講師。その夏の受験を終え、クラスのみんなとカラオケボックスで朝まで騒いだ後の出来事である。
 私は、目の前を通り過ぎるトラックに目をやりながら問い返した。
「彼氏の定義は何ですか」
 今思い返すと、なんとも味気ない受け答えだが、試験の直後であり、論理的にしか物事を考えられなくなっていたようだ

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十人十色 (#紅茶のある風景)

十人十色 (#紅茶のある風景)

ポトン。
彼はスプーンを握らない。

「なに見てるの?」
「なんだと思う?」
「ウェッジウッドに注がれたアールグレイ」
「いいや」
「じゃあ、久々にお目にかかった角砂糖」
「惜しい」
「えー、何?」
「時間だよ」
「時間?」
「ああ。純白が紅く染まる様子、角がとれて丸くなる様子、すべて時間が具現化したものだと思わないか?」

ポカン…
柑橘系の湯気がハテナの形になる。そしてちょっと寒くなったりして

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美しい髪 (400字の小説)

美しい髪 (400字の小説)

~ Spring in 2018 ~

「あれ? 今日ソラは?」
「生理痛だって」
「え? ソラが生理痛?」
「そうよ。もう五年生だもの」
「あのソラが… そうか」
「パパにとってはまだ幼稚園生?」
「だな」
「ソラ、最近反抗期で、ママ、困ってる」
「どんなふうに?」
「たとえば、どうせ自分は橋の下で拾われた子だからっていじけたりして」
「なんでまた」
「くせっ毛だからよ」
「え?」
「ほら、ママ

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幸先(さいさき)

幸先(さいさき)

 幸先がいい。レインボーブリッジの向こうに富士山が見える。人差し指で上底を測ってみる。そういえば昔、変な男の子がいたな。

「東京から3センチだろ。円周率かけて9.54センチだろ。そこを2時間で歩けるなんて、おかしくないか?」

 ドアが開いた。国際線ビル駅だ。明らかにハワイ帰りの親子が乗ってくる。母親は要領よく席を見つけ、父親と娘は私の隣に立った。

「富士山か。そういえば昔、お鉢巡りをしたな」

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差添い(さしぞい)

差添い(さしぞい)

 佐渡の海と書いてサトミ、妻の名だ。
「母さんを佐渡に連れていきたかった」
 去年の今頃、彼女はそう言っていた。
「いつも佐渡おけさ歌ってるもんな」
「いい所らしいのよ。毎晩太鼓に合わせて踊ったんだって」

 サトミの叶えたかったことを代わりにしようと思った。横には認知症の義母がいる。
「謄本ではこの辺りですよ」
「…」
 無理な計画だとはわかっていた。自己満足のための旅だ。

 宗太夫項坑に来た

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碧空(へきくう)

 風を待って芝生に座る。眼下には遠浅の海。振り向いてパラシュートを確認する。問題ない。その両端から僕の両手に伸びる紐、これが今から僕を鳥にしてくれる。そう思って、もう何度も助走を試みているが、今日はついてない。走り出すたび風が止み、羽と期待はあえなくしぼむんだ。

 それでも僕は諦めない。そら来た、向かい風。すかさず手を広げる。太腿に力を入れて踏み出す。重たい。いいぞ、いい感じだ。飛び立つ寸前が一

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寸景(すんけい)

寸景(すんけい)

 『君の名は』を観た母が「『転校生』みたい」と呟いたことがきっかけで、大林作品を観るようになった。一番好きなのは『ふたり』だ。事故で他界した姉のBFに恋をし、その彼から尾道を出ようと誘われた時、「ここを出たかったのは姉。私は目をつむればどこへでも行かれるから残ります」と言ってひとりを選び、小説を書き続けるという話。

 尾道に行けば今もその彼女に会えそうで、気づけば尾道行のチケットを用意していた。

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エブリスタで青をテーマにしたコンテストをしていたので、『青いトイレ』という怪談(8000字弱)を書いて投稿してみました。お時間のある方、飛んでいただけると嬉しいです。☆を投げて下さるともっと嬉しいです。よろしくお願い申し上げます。https://estar.jp/_novel_view?w=25188843

礼遇(れいぐう)

礼遇(れいぐう)

「ハロー」と声をかけられて振り向くと、
白髪の老婆が満面の笑みで立っていた。
「メイ・アイ・ヘルプ・ユー?」
「あ、私、日本人です」
「あれまぁ、ごめんなさい。9割がた外国のお客様なもんだから」
たしかに。外湯で話したのはベルギー人だった。
石畳ですれ違いざまに聞こえたのは中国語だった。
「英語、お得意なんですね」
「いやいや。ここに書いてあることだけですよ」
老婆はエプロンのポケットから小さな英

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昧爽(まいそう)

昧爽(まいそう)

今日が生まれた
海原がバラ色に染まる
この一瞬の柔らかさに包まれたくて
此処では早起きになる

この光景を目の当たりにすると
波にさらわれた人達も
今は穏やかかもしれないなんて
勝手なことを思ったりする
それは祈りであるかもしれない

鳥が鳴く
舟が出る
さて、僕にも何かできるかな

(ボランティアで訪れた南三陸にて)

4:57 on Apr.29, 2018

4:58 on Apr.29,

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14)エンディング

浦島太郎の『海の声』を歌ってみた

00:00 | 00:00

13回に渡って連載した小説のエンディングのつもりです。ゴスペルの練習の時に録音した音声を流しながら、パソコンのボイスレコーダーの前で口ずさみました。なので雑音がすごいです。でもどうせ声帯結節の声だからいいんです。自己満足です。ちなみにパートはアルトで主旋律ではありません。後で消すかもしれません。

よかったら小説も覗いてみて下さい。

13)またひろわれて

13)またひろわれて

「これも使おう」

三十代半ばの男性が僕をつまみ上げて凝視している。その左目の下にはホクロがある。右の頬にはかすかにエクボの痕跡がある。見覚えがある。僕は彼を知っている。

かつての坊やだ。かつての坊やは大人になって自分の子供を連れて海に来ていた。かつての坊やは、かつての親がしてくれたように、その子供のために蛤を焼こうとしていた。

こんなことってあるのだろうか。半信半疑のまま僕は松葉の上に乗せら

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12)おちて

12)おちて

喜びもつかの間、急速に体が渇いてきた。砂も乾いて、背中がジリジリと焼けるように熱い。照り付ける日射しは容赦ない。早くもひんやりとした波が恋しくなる。海では常に動いていたのに、いや、正確には動かされていたのに、浜では一ミリたりとも動けない。情けない。

目を閉じてみる。意識が遠くなる。ふと考える。結局、僕は何のために存在しているのだろう。あっちに流され、こっちに運ばれ、思い通りに歩くことすらできない

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