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お気に入りのエッセイをまとめてみました。
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#創作大賞2024

共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」①

共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」①

 青春ドラマが苦手である。テレビで目にしてしまったなら、すぐにリモコンの電源ボタンを押すほど拒絶してしまう。
 でもそれは、羨ましいからだと最近ようやく認められるようになった。僕には青春と呼べるほど、美しい時代がなかったのだ。

 愛する人と別れ、病を得て、夢に破れ……いつも憂鬱を抱えていた。振り返ると、後悔ばかりの人生を生きてきた。

 春が青くなかったら、何色になるのか。
 ぱっと思いつくのは

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25.勤労学生な生活③ 4年間のあれこれ

 勤労学生として過ごした4年間。
 クラスメイト、親友たちとの思い出の数々を一部羅列してみる。

・入学当初、積極的に話かけまくっていた俺。人が集い「◯◯会」という俺の名前が入ったグループラインまでつくられたが、間もなく滅亡した。

・入学当初、俺は「チャラ男」といじられるようになった。1年が経つころには完全に風化した。

・ひょんなことから夏の海に繰り出すことになった。その場をしのぐために、俺は

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大人ごっこ

大人ごっこ

女性のお客さん対応をするとき、私は眉毛や所作をじっくり観察している(笑)
これは私の自分磨きの一環であって、ガンを飛ばしているわけではない。
ちゃんと笑顔で接客しているし、他人のいいところは真似して取り入れる!
女子力アップのためなのです。

学生の頃、ものまねが得意だった。
芸能人とかではなく、身近な先生なんかのものまねをしてふざけていた記憶。

仕事の場を、品のある大人女子になるべく訓練の場と

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共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」②

共作小説【白い春~君に贈る歌~】第1章「ホスピス」②

「失礼します」

「あ。はーい」

 ずいぶん明るい声だ。ホスピス病棟で、こんなに明るい声を聴いたことがあっただろうか。
 カーテンを捲る、ほんの一秒にも満たない時間、上野さんの顔を想像する。なぜかわからないが、昔の恋人がつけていた香水の香りがほんのりと鼻をかすめた。が、もちろん、気のせいだった。
  
 真っ白い肌の女性が、ベッドの頭側を上げて座っている。テーブルで本を読んでいたようだ。ブックカ

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【ポエム】世界線

【ポエム】世界線

僕と君の世界線は、
交じり合うことは、ないだろう、

でも、君の放つ光が、
僕の毎日を、明るくしてくれた、

まるで、世界を舞台に、
活躍するアスリートかのような、、

まるで、世界の歴史に、
名を残す人かのような、、

僕にとっては、
君は、そんな存在なのだ、

いや、僕の人生においては、
それ以上の存在なのだ、

でも、やっぱり、僕と君の世界線は、
交じり合うことは、ないだろう、

もう祝うことのできない誕生日

もう祝うことのできない誕生日

 今日は何かの日だ。しかし、何の日だか思い出せない。こんなことがよくある。だがそれは、大抵の場合、誰かの誕生日であることが多い。
 私は昔、友人の誕生日を知ると、必ずカレンダーに記入していた。生まれてきたことを、そして生き続けていることを祝福するためである。だが、カレンダーに記入しなくなると、段々と忘れてゆき、このように何か引っかかる日になっていった。

 十月十七日は、誰の誕生日だっただろう。し

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共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」①

共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」①

 身体がビクッとして、目が覚めた。
 誰かの声が聞こえたような気がする。上野さんかな。いや、まさか。変な夢を見ていたようだ。
 鼓動が高鳴っている。誰かに不審に思われていないかを確認した。
 
 目の前では、医師と看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーがテーブルを囲んで話をしている。
 ここは、ホスピスのカンファレンス室。毎日、昼休憩の後には会議が行われている。
 手元にリハビリカルテ

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共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」③

共作小説【白い春~君に贈る歌~】第3章「繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの」③

繋ぎとめるもの、思いとどまらせるもの【エッセイ】

 インドカレーが好きである。
 特に好きなメニューはバターチキンカレーだ。チーズナンとサフランライス、そして野菜にオレンジ色のドレッシングも添えてあるのが最高である。
 ああ思い浮かべるだけで唾液が分泌されてくる。ここ数年食べていないから、無性に食べたくなる。

 東京に住んでいた頃、隣の駅近くに行きつけのインドカレー屋があった。
 そこへ友人や

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共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」③

共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」③

 病院から車で三十分程度のところに、花見の名所がある。そこは河津桜の名所であり、二月上旬から三月上旬が例年の開花時期である。
 上野さんの希望を聞いて、今しかないと思った。これを逃したら、もう彼女に桜を見せてあげられないかもしれない。
 医師に相談したところ、最初は反対された。彼女には、身体への負担が大きすぎるというのだ。だが、佐々木さんや坂本さんも賛成してくれた。看護師長も動いてくれた。彼らが協

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共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」④

共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」④

好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい【エッセイ】
 髪を切ってもらいながら、美容師さんの好きな音楽について聴いていた。すると、あるバンドの名前があがった。私はそのバンドのボーカルを少し知っている。だが、黙ってそのまま聴いていた。
 美容師さんの話は、だんだんと熱が入る。笑顔で相槌を打ちながら、Sさんのことを考えていた。

 Sさんは日本武道館で歌っていた。
 偉大なミュージシャンたちも、昔の

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共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」⑤ 最終話

共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」⑤ 最終話

 上野さんが亡くなってから一ヶ月後、坂本さんに居酒屋へ誘われた。佐々木さんを含めて、三人で酒を飲むことになったのである。

「それにしても、三浦くんがSeijiさんと歌うなんて、ホントにびっくりしたな」

 坂本さんが二杯目のビールを飲みながら話し始めた。このメンバーで集うということは、上野さんやSeijiさんの話が出てくる。それは覚悟していた。
 佐々木さんがやや興奮した調子で反応した。

「そ

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地上100センチメートルの世界から

地上100センチメートルの世界から

カメラを手にお散歩することがグッと増えた。
これは私にとっては画期的でレボリューションともいえる出来事だ。
なぜかといえば、病の身になり闘病生活を送るようになって10年。
ほとんどが"寝たきり"に近い暮らしだったからである。

そんな私が闘病11年目にして、立ち上がったのだ。
寝たきり生活にピリオドを打つべく、カメラを持って出掛けるようになったのだ。ただし、あくまでも車椅子でのお散歩である。

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共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」②

共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」②

 病院祭から一週間が経った。
 あの日から、上野さんの容態が急速に悪化した。酸素の投与や医療用麻薬の持続皮下注射が開始された。痛みや倦怠感が強く、ベッドから離れることはできない。
 確かに、病院祭の前から背中の痛みや動悸などの違和感を訴えることが増えていた。が、あまりの突然な変化に多くのスタッフが驚いていた。
 詩を考えたり、書いたりすることも辛いようで、リハビリのできない日が続いた。作業療法の内

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共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①

共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①

 三月二十八日。年に一度の病院祭の日を迎えた。今年は、前島病院の創立百三十周年記念であり、例年より盛大に開かれることになった。

 僕は実行委員として、会場であるホスピスのホールを忙しく歩き回っていた。

 当日になってもスペシャルゲストは教えられず、開場時間になっても来ない。とても不安だ。誰かもわからない人物は、本当に来るのだろうか。

 会場には細長いテーブルが並べられ、その上に栄養課の調理室

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