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クラスメイト~改訂版~

女性店員のおすすめチョコレートを購入して、わざとチョコをレジに忘れて店を出る。女性店員が走って忘れたチョコを渡しに来る。

「忘れ物ですよ。(ハァハァ)」

「えっ///これを…僕に///」

どうですか!このセルフ式 告られた風バレンタインチョコ作戦!いま隣で寝てる人があの時の店員さんです的なエピソード作れそうじゃん、じゃん///

(´°Д°`)じゃん、じゃん、うるせーwwwwww
発想がサイコパスwwwwww

そんな事を独身時代に本気で考えていたなと思いながら帰宅して冷蔵庫を開けるとメッセージカードと共にうちの人が作った生チョコチーズケーキが入っていた。

思わぬサプライズに幸せはなるものではなく気づくものだとしみじみ感じた。( ゚д゚) 、ペッ

(´°Д°`)唾吐くなwwwwwwwww
情緒どこかに置き忘れてきたかwwwwww

生チョコチーズを二切れ食べ、暖房の効いたリビングを出てキッチンに入るとヒヤッとする冷気が肌に張り付いた。

口に残るチョコの甘さとココアパウダーのほろ苦さの余韻のまま換気扇の下で煙草に火を点け煙をはいていると完全に忘れていた記憶が白昼夢をみるかのように突然蘇った。

チョコレートどころか、甘い物が嫌いだった小学生五年生のバレンタインデー。毎年チョコレートを貰える男子は決まっていたから僕には無縁のイベントだった。

早々に帰宅して自宅の裏庭の腐った梅の木と遊んでいると「友達が来てるよ。」と母に呼ばれ玄関に向かうとクラスメートの女子がうつむき立っていた。その子、仁美(ひとみ)ちゃんとは仲がいい訳でもない、何なら、話した記憶すらないくらいの女子がなんの用だろうと思った。

「えっとー、こんにちは。」どうしていいか分からず、間の抜けた挨拶をしてしまった。「ごめんね、突然。」俯いていた顔を少し上げて上目遣いで話す仁美ちゃんの表現にドキッとして目線を外すと両手を後ろに回し、何かを隠している事に気づいた。

僕の視線に気づいたのか続け様に仁美ちゃんは言った。「これ///」そっと後ろに隠していた手を前に回すとラッピングされた箱を差し出した。僕は「えっ、あっ」と言葉にならない声を出すくらいテンパってしまった。

「普段、話したこともないけどさ///今日、バレンタインやん。どうしても今日言いたいことが…そのー、なんて言うか…す、好きでした///」

Σ(゚ロ゚;)えぇぇぇぇwwww過去形wwwwww
告られたと同時にフラれてるやんwwwwww

一瞬、沈黙が支配したのち僕も仁美ちゃんも爆笑、バーカバーカと小突くように笑い合った。しばらく笑っていると「本当、私、バカやね。そういう事だから…またね。」と声に涙を交ぜるような震える声で僕に箱を押し付けるように渡して帰っていった。笑っていたのに突然、何故、涙目になったのか分からず玄関で呆然と立ちすくむ事しか出来ず、お礼すら言えなかった。

箱を開けると、如何にも手作り感満載のハート型チョコレート。告白されたのか、フラれたのか複雑な気持ちのままチョコレートを一口サイズに割り、口にほお張ると安っぽい甘さが口いっぱいに広がった。

僕には無縁のイベントだと思っていたバレンタインデー。手作りチョコを貰うなんて夢のまた夢だと思っていたバレンタインデー。二口目は嬉し過ぎて涙が溢れ、若干しょっぱい味がした。

どんな顔して会えばいいか分からないまま翌日学校に向かうと仁美ちゃんは欠席だった。気にはなったけど、また明日会えると軽い気持ちでいた。でも、次の日も、またその次の日も来なかった。学校帰りに遠回りして仁美ちゃんの家に行ってみると、もぬけの殻だった。

後日、同じ町内の男子に聞いた。チョコレートを持ってきたその日の夜、仁美ちゃんのお父さんが経営する会社が傾き夜逃げしたそうだ。

「どうしても今日言いたいことが…そのー、なんて言うか…す、好きでした。」あの日の言葉が蘇る。「どうしても今日言いたいことが」あの時、既にこの街を去ることを仁美ちゃんは知っていたのだろうな。「好きでした。」それなら、過去形になるのも頷(うなず)ける。精一杯だったんだろうな、あの言葉が、あの涙目が。

仁美ちゃんの家を眺め、まるで、「じゃ、またな。また明日。」と別れるように笑顔で背を向け歩き出し、歩いて、歩いて、角を曲がった途端、笑顔が泣き顔に変わった。

わたしは不幸にも知っている。時には嘘によるほかは語られぬ真実もあることを。
    滝川龍之介

切ない思い出も煙草の煙のように消えたら楽なのに。換気扇に吸われていく煙を見ていると妻がキッチンに入ってくるなり「生チョコ、甘すぎた?」と僕の腕を抱えるように引っ付いてきた。

腕を組みながら会話すると、声が外側から耳に入り込むのではなく腕を伝わり内側から耳に入り込むような気がして、くすぐったいような、照れ臭さいような。「いや、美味しかったよ。」笑顔で答え、換気扇のスイッチを切った。



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