見出し画像

KILLING ME SOFTLY【小説】68_もう一人じゃないんだな

彼女である私をよそに、うたた寝をしたことに対する自己嫌悪に陥っていた千暁は、食事処にて新鮮な海の幸と贅沢な冬の味覚を楽しめる夕食を一目見るや否や、喜びを爆発させた。
「やべえ、旨そう!」
「ちょい待ち。ここ一泊、幾らした?」


予想を遥かに超えた煌びやかで豪勢な和会席に狼狽える。元はと言えば私が彼の時間を欲しがり、旅行に誘うも千暁はこちらに財布を出させず現時点で支払えたのはおやつ(プリン)代のみだった。
更にまさかこのような〈きちんとした〉晩餐が待ち構えているとは。
「細かいことは気にしなーい。俺らが付き合って3ヶ月記念と、半年遅れ?の誕生日プレゼントみたいなもんだから。」


彼は忘れがちなイベントを毎回大切にしてくれる。そこも好き。
「アキくん、ありがとう。」
私なんかの為に云々と軽率に言い掛け、感謝の言葉を述べた。
純粋に受け取り甘えれば笑顔を向けられ、今まで知らなかった世界が色鮮やかに広がる。


24歳の誕生日つまり6月3日は丁度、千暁への片想いを諦めようと四苦八苦して連絡を断っていた時期であり、彼からアプリを通じて〈誕生日おめでとう〉とのメッセージが届いたが愛の告白を二度も断り、身を引いた以上は会いたいなどと勝手な本音を伝えられずにライブハウスで寂しさを紛らわせた。


しかし交際を始めれば、千暁は私にありとあらゆる幸せを贈る。




この記事が参加している募集

スキしてみて

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?