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奏多
2019年11月23日 15:58
【写真で掌編小説】「初めまして!」僕は君の友達だ。君が生まれて間もなく、君の隣で眠る。ギュッと抱きしめて、話を聞いて、また一緒に眠る。君が大きくなるにつれて、抱きしめてくれる回数は減ったけど、その代わりにいっぱい話しかけてくれる。僕はその話が大好きなんだ。君の友達でいられる事が嬉しいんだ。そして、君は大人になっていく。恋人が出来て、家族が出来て、君は新しい宝もの
2019年11月22日 14:05
【写真で掌編小説】「私はあなたが……」私はあなたが嫌いだった。あなたはいつも暗い顔で、悩み事や辛い事に苛まれているように見えるから。言葉で繕うばかりで努力もしない。そんなあなたはきっと誰にも好かれない。だから、私はあなたが嫌いだ。会社に向かう途中、新しくオープンした美容室が目に入る。宣伝なのか技術を磨くためなのか、店先でカットモデルを募集していた。若い美容師が声
2019年11月21日 23:04
【写真で掌編小説】「空の色」私はいつもピンクのポーチを持って歩いている。子供の頃からずっと大好きなピンク色。お財布も筆箱も、お気に入りのものは全部ピンク色をしている。今日もお気に入り色を持って学校へ行く。美術の授業は教室を移動する。お気に入りのポーチを持って教室を出る。入り口で君とぶつかった。私の落としたピンクのポーチを君は拾い上げる。君は苦そうに笑いながら
2019年6月27日 19:17
【写真で掌編小説】「紫陽花と君」私は雨が好きだ。傘を弾く音も、ちょっと湿った匂いも、空気の冷たさも好きだった。大抵の人は私を否定する。雨のどこがいいの?と。傘を差すのは面倒だし、気分も滅入るし、おまけに頭痛のタネにだってなる。どこがいいのかがわからない。そんな否定が大半だった。だけど、君は唯一私を否定しなかった。雨にも晴れにも楽しみ方がある、と。君の楽し
2019年6月17日 00:25
【写真で掌編小説】「今日からの帰り道」時間はいつも進んでいく。前へ、前へ、時計は針を進める。右足から踏み出し、左足で踏みしめる。繰り返しを歩みと言うのだろう。時計は針を刻むことで教えてくれる。今、一秒が経った。もうすぐ、十秒が来る。さっき、一分が過ぎた。足跡は後ろへ伸びていく。ふと、考える。時計が刻んでいるのは、未来への歩数ではなく、過去への足跡なの
2019年4月24日 21:26
【写真で掌編小説】「三つ葉のクローバー」いつもと同じ帰り道に、見覚えのないベンチがあった。いつもと同じだったら、通り過ぎるだけのはずだけど、今日はどこか気になり立ち止まった。ベンチに対面して周りを見回す。通行人はいない。私はベンチに腰掛けてみる。ベンチにかかっているカーテンの隙間から、新緑が見えた。遠く遠くに見える緑は、心を擦り減らす日常を忘れさせてくれる気がした。
2019年4月23日 19:37
【写真で掌編小説】「コーヒーの香りが誘うもの」朝食は家から少し離れたカフェに行く。数年前に引っ越して来た時に、このカフェに巡り合った。普段、コーヒーなどろくに飲まない。コーヒーの種類以前の問題だ。なのに、なぜか仕事に向かう途中、その香りに誘われた。カフェの前に誘われ、扉を開ける。クラシックの流れる店内には、落ち着きと安らぎがあった。何を頼めばいいのかわからないの
2019年4月21日 21:32
【写真で掌編小説】「辞書にはない言葉」辞書には言葉がいっぱいある。幸せの定義とか、悲しさの行方とか、後悔の正体とか。ありとあらゆる言葉が詰まっている。ありがとうやごめんなさい。意味はわかる。意味だけなら。だけど、その言葉を正しく使うことは難しい。昨日、友達から「うざい」と言われた。僕の心にはささくれが出来たみたいに、キリキリとチクチクとした感じになった。そし
2019年4月20日 15:24
【写真で掌編小説】「LINE患い」きっと今頃、部活中なんだろうな。LINEを送っても既読にならない。既読機能は無い方がいい。だけど、ある方がいい。矛盾しているけど、そう思えてしまう。君が、私の手紙を読んだよ、という合図のような気がして、それが嬉しくも苦しくもする。家に帰るまでの間に、何度も立ち止まりLINEを開く。その度に一喜は無く一憂を味わう。自宅に着き部屋に
2019年4月13日 17:52
【写真で掌編小説】「僕には君が必要」視線を追いかけるといつも君は僕を見ていた。雪の降る空の下も、真夏のかんかん照りの日も。窓辺で寝ていればそっと撫でて、小さな窓の外を見ていると一緒に眺める。陽炎のように気まぐれな君は、僕が不意に振り返ると抱き上げる。まるで、僕が構って欲しがっていたみたいに。君が寂しい時にはそっと横に座る。君が泣いている時には膝の上に寝転ぶ。笑っ
2019年4月12日 01:38
【写真で掌編小説】「幸せを頬張る」もったいないことをした。今日の昼食はオムライスを食べてしまった。ダイエットをしているのに、帰り道でこんなに美味しそうなパンケーキを見つけてしまうとは。隣を歩く友人がパンケーキの看板に反応した。「ちょっと寄ってみる?」その言葉に頷く。お店の中は甘い香りに溢れていた。鼻先をくすぐる香りに絆される。友人はパンケーキを頼み、私はアイ
2019年4月11日 01:48
【写真で掌編小説】「吹き抜ける風のように」夜から朝へ、朝から夜へ。移ろいを繰り返しながら進んでいく。ある人は新しい足跡を未来と呼び、振り返った足跡が過去だと言う。けれども、これまでの足跡に、もう一度足跡を重ねてみる。すると、先ほどまであった綺麗な一つの足跡が、不恰好で大きな足跡へと変わった。そうか……。未来は新しい足跡を刻む事ではない。時間を刻む事なのだ。朝
2019年4月8日 18:30
【写真で掌編小説】「黒猫のざわめき商店」「いらっしゃい」振り返ると、ざわめきがあった。道を歩くのは黒猫と僕。「君が言ったのかい?」黒猫は「にゃあ」と応え、ざわめきの中へ向かう。後ろを付いていく。迷いそうなほどの緑に囲まれると、黒い野良猫は木陰に寝転んだ。隣に座りなよ、と言われた気がした。僕は黒猫の横に腰掛け、時間を過ごす。黒猫は自由に毛づくろいをする。
2019年4月7日 02:11
【写真で掌編小説】「思い出の味」 初めて食べたキャンディクッキーはとても甘かった。 これまで、クッキーは少ししょっぱいものだと思っていた。けれど、ステンドグラスのような透き通ったキャンディは甘く、クッキーのしょっぱさよりも勝っていた。 君が必死になって作ってくれたのは、今でも覚えている。 台所を占拠し、何人も立ち入らせないようにしていた。初恋の相手に渡すのだとい