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旅先の夏にて|詩

旅先の夏にて|詩

「旅先の夏にて」

夏の真似事をした坂道のさき
潮の薫りよりも強い瞳の向こう側に
モノクロの優しさがうずくまる

下りかけた言葉の尻尾をつまんで
ひょいと掬いあげ微笑むと
僕は選ばれたから此処にいる
そう言って君は僕を抱きしめた

水割りを頭から浴びるような夜
物言わぬ背中に時を重ねた

愛だとか、恋だとか
例えば悲しい物語だとしても
確かに其れは
僕のためだけに書かれた小説だった

祈り|詩

祈り|詩

「祈り」

透け見ゆような心もとなげ
必ずだとか永遠ほどに
哀しく聴こゆもの他にはなくて

下手くそで佳い
否、それがいいのだと

小指の代わりに絡めんや
ひとつとして要らぬ糸はなし
きみへと繋がる祈り
揺れのぼる静穏なる想いたち

微睡みに繋いで|詩

微睡みに繋いで|詩

「微睡みに繋いで」

何もない空に朝がやってくる

瞳のまえに広がる
きっと淡いであろう赤子のみどり
産声をあげたひかりの匂い
それは素足の心に
くすぐったいを教えてくれる

背から絡みつく
まるでカフェモカのような温もりと
何もないはずの空に手を伸ばす

微睡み……

昨日より、きょう
今日よりも明日なんだって

違うよ
深い眠りにつく前に
僕たちは誰よりも何よりも、ふたり

風にとける|詩

風にとける|詩

「風にとける」

透明の言の葉をふた指つまんで
青い風に透かし瞳をとじる
聴こえてくるのは何時かの鈴の音
真暗な峠に灯ったあかり

沈んだ夕陽の代わりの文字に
旅雨たゆたう君の心音
いつかのボクだと細めた声を
背中で拾うて眉間で哭いた

もうすぐ夏がやってくる
庭先わすれた風鈴が
今年も君の名を呼び続けている

無邪気では……|詩

無邪気では……|詩

「無邪気では……」

高鬼あそびの無邪気が
ふわり空へと舞いあがったとき
触れては駄目だ、風が鳴いて
僕はゆっくりと瞳をとじる

ときに想いは君を傷つけ
言葉はときに邪魔をするから
いつまでも、
子供のままでは居られないから

塀のうえには子猫がひとり
寂しそうに笑っていた

Ka'pilina|詩

Ka'pilina|詩

「Ka'pilina」

蹴破られた扉の向こう側
弱さの中にある強さの意味を知る

甘くて苦いひかり白く激しく
メザメルト消えていく黒の記憶たち

愛してると触れる指先
永遠を意味する
マウロアのくちづけ心地よく

君は知っていた|詩

君は知っていた|詩

「君は知っていた」

小さな笑い声と涙たちが
長い時をかけひとつの物語になる

あの日、君と出会った姿で
僕はひとりこの街へと帰ってきた
朽ち果てた換気扇の下
脳裏に転がる路地裏の風

ピン刺したポイントを指でなぞると
妙に全てのことが腑に落ちた
君が託した願いの意味と
僕を待たずしてこの街を去った理由

あの頃と同じ空に手をのばす
独り、此処から……