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白い膜の内側、ここは世界の裏側 ~オードリーANN東京ドーム~
日本で一番おおきな球の底に、”いっぱい”とかの感覚もよくわからなくなるくらいのおびただしい数の人が集まっていて驚く。隣の人も下の方を歩く人も、わたしとどうしてここで交わることになったんだろう。普段街を歩いているとき考えないそんなことを思うのは、ここで会う人はみんな同じ目的を持っているはずだから。”はず”と言ってしまいたくなるのは、その仲間意識みたいなものが肌で感じられなかったから。たま~にしか見に
もっとみるホテルの廊下を並んで歩く前の女子たちをうらやむ男たちみたいに
初めて参加する仕事の地方出張のホテル、ベテランと新人が仲良くなれるように組み合わされて二人で一部屋に泊まることに。前半の旅程で同じ部屋になったり仕事中に話したりして仲良くなった人もいるものの、私が部屋を分けることになったのはまだあまり話すのに時間をとれていない先輩で、上に立つ人は良く見ているなと思った。
部屋に分かれてから数十分間ひと通りのありふれた挨拶を交わした。壁のある人だが同じような興味を
夏祭りに来たタイムマシーン3号が私にだけ見えていたみたいに
近所の(といっても電車に乗る必要のあるだけ離れている同じ区内の)夏祭りでテレビに出ているお笑い芸人のステージがあることをGoogleの広告に教えてもらった。今年はまだ夏祭りに行っていなかったしちょうど休みでやることが決まっていなかったので出向くことにした。
到着すると、想像していたより狭い公園の真ん中に想像していたよりしっかりしたステージが設営されていた。広い公園の隅っこにビールケースが積まれて
売り子がいつも通り注ぐビールがひと夏の思い出としてのどごすみたいに
1年ぶりに野球観戦に行った。子どものころ親の帰りを祖父母の家で待っているときテレビの中継で見ていた、夏の時期にナイターゲームが始まるころの空がとても好きで、たまにどうしようもなくスタジアムに行きたくなる。それで去年もこの時期、5回裏に打ちあがる花火を出しに使って友達を誘った。職場では毎年、野球ファンの人が同じように花火を使って野球に興味のない同僚たちを誘ってほぼビアガーデンがわりに球場を使うイベン
もっとみるあと2日で食べなければいけない肉を、安く食らうみたいに
スーパーで肉を買うとき、割引シールに飛びついてしまうが帰って消費期限を確認しその短さに後悔することが多々ある。他のパックに比べてそいつが安く買える理由なんてそんなことしかないはずだが、毎度それを忘れてオレンジのシールに目を奪われてしまう。本当はしたくないけれども3食連続で同じ種類の肉を使った献立にしたり、1日過ぎたものを覚悟して胃腸に託したりしてなんとか消費している。多少の無理はあるが安く肉を食べ
もっとみる閲覧席を時間内に立った人がまだそこに「居る」みたいに
暑さをしのぐため、日中は図書館に入り浸っている。机のついている閲覧席を予約し持っている本を読んだり、新聞を読むためのでかい机しか空いてなければそこで新聞を読んだり、そこも空いていなければ背もたれのないソファでその館で見繕った本を読んだりしている。飽き性なので家の近くにあるいろいろな図書館を周っている。
その日行ったところは日曜日だったので老若男女で賑わっていた。新聞・雑誌コーナーは高齢者が多く、
毎週月曜と木曜の可燃ごみの日が待ち遠しいみたいに
「可燃ごみの日の朝は、早起きをしなければいけないのでうっとうしい」気持ちにごみ箱が空になる快感が勝って、毎週二回苦しむことなく早起きができている。以前何度かごみの日を逃して虫がわいてしまったときのあの光景を二度と見たくなくて習慣づいたけれども、いざやってみると捨てて部屋にごみがなくなったときの快感にしびれた。髪を切ったときのような、身の回りに起きる劇的な変化のまぶしさ。またごみを溜めていける余白が
もっとみるこの体にまとわりつく熱を扇風機の風で振りはらっていくみたいに
外が暑い、ことよりも、ヒトの体は熱い物なのだなと強く感じる毎日。体が持った熱を冷たい空気に渡しながら生命は続いている。暑さを太陽がもたらしているのではなくて、気温が高いときは体の熱が出ていかずいつも感じている涼しさを感じられないにすぎない。いつもが涼しくて、今が涼しくないだけだ。熱の逃げどころがないくらいパンパンに太陽のエネルギーをつつんだ空気が、わたしたちが彼らに普段委ねていることの大きさを突き
もっとみる桃が「腐る」のを待って食べるみたいに
ごみの収集日を逃してしまって溜まっていたところに、さらに次の収集日も祖父の葬式で家を空けなければならず、一週間以上もごみ箱の底に生ごみを放置する始末に。臭いを案じていたけれども、ごみ箱を開けてまず刺激されたのは視覚のほうだった。私が一日半触らないだけで、そこにひとつの「家」ができていた。その光景をみたのは初めてだったのだが、その光景を言い表した言葉には心当たりがあった。捨てたごみが”死んでいく”の
もっとみる買ったけどまだ無いメルカリのドライヤーみたいに
メルカリで買ったドライヤーが、3週間経っても発送されない。10日経ったころ不審に思いメッセージを送ろうとしたら、プロフィールに「体調不良のため遅れます」と書いてあった。体調不良の人を急かすのも申し訳ないので、ちょっと待ってみている。より良い出品も見当たらないので、キャンセルもしない。出品者さまの身体が良くなっていく(と信じる)のと並行して私の髪が傷んでいく。生死をさまよっているかもしれないのに、髪
もっとみるたたまれた傘を片手に並ぶ高校生の後ろを手ぶらで歩くみたいに
梅雨入りして雨が多くなってきたけれど、ずっと降っているわけではない。出かけるときに天気予報を確認して、今降っていなくても帰るまでに降って来る予報だったら傘をもっていく。逆に、起きたときに降っていてこの後止む予報ならば、少し待ってから家を出る。夕方ごろ濡れたアスファルトの上のひんやりした風をきって歩くとき、傘をたたんで持っている人とすれ違うと、「このひとは朝雨が降った時に家を出た」とわかる。朝出て夕
もっとみる大通り沿いの住宅街をひとり走っていくみたいに
地図アプリで行先を指定してここからの経路を検索すると、基本的には広くて車線の多い道を通るルートを案内される。たいていそういう道は真っすぐ通っていて、交差点では看板が曲がった先にある町を示してくれるから迷わずに進んでいくことができる。特に自転車に乗っていて両手が自由じゃないときは、地図を見る回数が減るようなるべく曲がる回数が少なくて済むように大通りを走る。難点は交差点をたくさん通ること。別の大きい道
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