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忙しいのは悲しいのと同じくらいキラい

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暇すぎて考えてしまうこと。半径0メートルの形而下学。見えるものしか見ません。
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ホテルの廊下を並んで歩く前の女子たちをうらやむ男たちみたいに

初めて参加する仕事の地方出張のホテル、ベテランと新人が仲良くなれるように組み合わされて二人で一部屋に泊まることに。前半の旅程で同じ部屋になったり仕事中に話したりして仲良くなった人もいるものの、私が部屋を分けることになったのはまだあまり話すのに時間をとれていない先輩で、上に立つ人は良く見ているなと思った。

部屋に分かれてから数十分間ひと通りのありふれた挨拶を交わした。壁のある人だが同じような興味を

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美術館の掛け軸に近づくのを邪魔するキャップのつばのように

9月なのに強い陽射しを除けるため、出かけるときはまだキャップを被るようにしている。その日の行き先は美術館だった。室内に入ったら陽除けの必要はないけれども、その施設に備え付けの庭園にすぐ出る予定があり髪型も整えていなかったので、被ったまま陶器や水墨画の展示を見て周った。気になった蘭竹図があり、少し前のめりになったとき、展示品を守るガラスにキャップのつばが当たった。その掛軸の価値がわかるには教養が足り

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真夜中「水曜日のダウンタウン」を笑いをこらえながら見るみたいに

毎週楽しみに見ている「水曜日のダウンタウン」だが、今週は夜にシフトが入っていて見られなかったため、情報を遮断して家に帰った。ダウンタウンが涙を流す予告映像を見て、その理由は知らずに見た方が楽しめるだろうと思ったから。そうでなくてもこの番組は予告には流れない見どころが毎回あるので、リアタイ視聴できない日はそうすることが多い。

帰ってからいろいろこなしていたら、見逃し配信を再生し始めたころには1時を

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掻いたらくすぐったい足の裏の蚊にさされみたいに

窓を開けて昼寝をしていたら、足の裏を蚊にさされた。足の甲とか脛、ふくらはぎならこの夏たくさん刺されてきたけども、裏を狙われるのは珍しい。膝周りと比べれば露出している時間が少なくて、裸足でも立っていれば地面に接して蚊の目につかなくなるはずだから、毎度無事なのも納得である。足の裏を蚊にさされるなんてことは、窓を閉めず蚊取り線香を焚くのも布団をかけるのも忘れて眠り呆けなければ起こらない、だらしなさの象徴

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夏祭りに来たタイムマシーン3号が私にだけ見えていたみたいに

近所の(といっても電車に乗る必要のあるだけ離れている同じ区内の)夏祭りでテレビに出ているお笑い芸人のステージがあることをGoogleの広告に教えてもらった。今年はまだ夏祭りに行っていなかったしちょうど休みでやることが決まっていなかったので出向くことにした。

到着すると、想像していたより狭い公園の真ん中に想像していたよりしっかりしたステージが設営されていた。広い公園の隅っこにビールケースが積まれて

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売り子がいつも通り注ぐビールがひと夏の思い出としてのどごすみたいに

1年ぶりに野球観戦に行った。子どものころ親の帰りを祖父母の家で待っているときテレビの中継で見ていた、夏の時期にナイターゲームが始まるころの空がとても好きで、たまにどうしようもなくスタジアムに行きたくなる。それで去年もこの時期、5回裏に打ちあがる花火を出しに使って友達を誘った。職場では毎年、野球ファンの人が同じように花火を使って野球に興味のない同僚たちを誘ってほぼビアガーデンがわりに球場を使うイベン

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あと2日で食べなければいけない肉を、安く食らうみたいに

スーパーで肉を買うとき、割引シールに飛びついてしまうが帰って消費期限を確認しその短さに後悔することが多々ある。他のパックに比べてそいつが安く買える理由なんてそんなことしかないはずだが、毎度それを忘れてオレンジのシールに目を奪われてしまう。本当はしたくないけれども3食連続で同じ種類の肉を使った献立にしたり、1日過ぎたものを覚悟して胃腸に託したりしてなんとか消費している。多少の無理はあるが安く肉を食べ

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閲覧席を時間内に立った人がまだそこに「居る」みたいに

暑さをしのぐため、日中は図書館に入り浸っている。机のついている閲覧席を予約し持っている本を読んだり、新聞を読むためのでかい机しか空いてなければそこで新聞を読んだり、そこも空いていなければ背もたれのないソファでその館で見繕った本を読んだりしている。飽き性なので家の近くにあるいろいろな図書館を周っている。

その日行ったところは日曜日だったので老若男女で賑わっていた。新聞・雑誌コーナーは高齢者が多く、

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毎週月曜と木曜の可燃ごみの日が待ち遠しいみたいに

「可燃ごみの日の朝は、早起きをしなければいけないのでうっとうしい」気持ちにごみ箱が空になる快感が勝って、毎週二回苦しむことなく早起きができている。以前何度かごみの日を逃して虫がわいてしまったときのあの光景を二度と見たくなくて習慣づいたけれども、いざやってみると捨てて部屋にごみがなくなったときの快感にしびれた。髪を切ったときのような、身の回りに起きる劇的な変化のまぶしさ。またごみを溜めていける余白が

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寄りかかりきった椅子の上では、居心地が悪いみたいに

背もたれがある椅子に座るとき、腰を少し前に出して背中の上の方だけもたれかかる体勢に落ち着く。背中をすべてもたれると結局上半身をまるごと腰で支えることになる気がするし、体に触れている面積が広いと特に夏は息苦しくなってくる。背もたれが直角ではない椅子でも同じような体勢に落ち着くから、苦しいのは腰にかかる重さよりも背中を包む熱のほうだとわかる。

同じことは寝転んでいるときも感じる。布団の上で大の字に体

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この体にまとわりつく熱を扇風機の風で振りはらっていくみたいに

外が暑い、ことよりも、ヒトの体は熱い物なのだなと強く感じる毎日。体が持った熱を冷たい空気に渡しながら生命は続いている。暑さを太陽がもたらしているのではなくて、気温が高いときは体の熱が出ていかずいつも感じている涼しさを感じられないにすぎない。いつもが涼しくて、今が涼しくないだけだ。熱の逃げどころがないくらいパンパンに太陽のエネルギーをつつんだ空気が、わたしたちが彼らに普段委ねていることの大きさを突き

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桃が「腐る」のを待って食べるみたいに

ごみの収集日を逃してしまって溜まっていたところに、さらに次の収集日も祖父の葬式で家を空けなければならず、一週間以上もごみ箱の底に生ごみを放置する始末に。臭いを案じていたけれども、ごみ箱を開けてまず刺激されたのは視覚のほうだった。私が一日半触らないだけで、そこにひとつの「家」ができていた。その光景をみたのは初めてだったのだが、その光景を言い表した言葉には心当たりがあった。捨てたごみが”死んでいく”の

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買ったけどまだ無いメルカリのドライヤーみたいに

メルカリで買ったドライヤーが、3週間経っても発送されない。10日経ったころ不審に思いメッセージを送ろうとしたら、プロフィールに「体調不良のため遅れます」と書いてあった。体調不良の人を急かすのも申し訳ないので、ちょっと待ってみている。より良い出品も見当たらないので、キャンセルもしない。出品者さまの身体が良くなっていく(と信じる)のと並行して私の髪が傷んでいく。生死をさまよっているかもしれないのに、髪

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たたまれた傘を片手に並ぶ高校生の後ろを手ぶらで歩くみたいに

梅雨入りして雨が多くなってきたけれど、ずっと降っているわけではない。出かけるときに天気予報を確認して、今降っていなくても帰るまでに降って来る予報だったら傘をもっていく。逆に、起きたときに降っていてこの後止む予報ならば、少し待ってから家を出る。夕方ごろ濡れたアスファルトの上のひんやりした風をきって歩くとき、傘をたたんで持っている人とすれ違うと、「このひとは朝雨が降った時に家を出た」とわかる。朝出て夕

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