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目目、耳耳

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#短編小説

美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。

終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。

行きたい場所へ、行けない。

誰かに会いたいのに、会えない。

ピリピリした現実。

あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。

自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。

たとえば、好きなミュージシャンのこと。

僕の大好きなバ

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勝手に、勝手に(件/内田百閒)

勝手に、勝手に(件/内田百閒)

「人生の意義」がWikipediaにあった。

哲学から。心理学から。あるいは、経済学から。さまざまな見解から。答えだけが載っていない。当たり前なのだけど。

人生に意義も意味もない。と、ぼくは思っている。し、そう思っているのは、ぼくだけじゃないだろう。けれど、意義も意味もなければ、なぜ生きているのか。生きなくたって、いいじゃないか。そう考える人がいるので、あの手この手で、人を現世にとどめようとす

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「30歳までに死」なない人達の話(陰火/太宰治)

太宰治に『晩年』という題名の小説はない。『晩年』は、作品十五篇を集めた第一創作集に付せられた総題であるのだ。(中略)太宰治は自殺を前提にして、遺書のつもりで小説を書きはじめたのだ。

――奥野健男『解説』p333より引用

こんなに、文字どおりじゃなかったことがあるだろうか。いや、ない。と、解説に辿り着いたぼくは訝しんだ。てっきり、未完の絶筆だとばかり。(でも、よく考えてみれば、『グッド・バイ』と

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いばしょ を つくろう(天窓のあるガレージ/日野啓三)

いばしょ を つくろう(天窓のあるガレージ/日野啓三)

1
ガレージには天窓があった。
2
少年は長い間、それに気付かなかった。

――(第1章,第2章)

すぐそばにあるものに、気付かないことがある。それが、後々(少なくとも、自分にとって)重要になるものであれば、なおさら。あの現象は、なんなんだろうか。名前を付けられないだろうか。

一言二言で終わる二つの断章。で、始まる「天窓のあるガレージ」。は、堀江敏幸の「戸惑う窓」に登場した。

自家用車を事故

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蜜と腕(片腕/川端康成)

蜜と腕(片腕/川端康成)

大切なものを他人に預ける行為は、何を指すのだろう。あなたを信用している証なのか。それとも、あなたになら壊されてもいい、その願いなのか。

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを右手に持って私の膝に置いた。

――p119より引用

娘は、自身の右腕を男に預ける。右腕は着脱式で、肩から外しても、腕にはちゃんと血が通っている。だから、自身の一部をそっくりその

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どこから行っても「近い」町(猫町/萩原朔太郎)

どこから行っても「近い」町(猫町/萩原朔太郎)

何処へ行って見ても、同じような人間ばかり住んでおり、同じような村や町やで、同じような単調な生活を繰り返している。

――p9より引用

『猫町』は、小説である。という事実に、少なからず違和感を覚えた。

語り手である「私」は、朔太郎本人でも(おそらく)差し支えなく、『猫町』は、一見かわいらしい名前でありながら、結局のところは、「私」が「私」を通して見えた世界なのである。

「私」が語るところによれ

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孤独の分け前(『虎に嚙まれて』『カルメン』『B・Fとわたし』/ルシア・ベルリン)

ミルクティーは甘いものだと思っていた。そのとき提供されたものはまったく甘くなく、とはいえ苦くもなく、幸せな夢がふいに途切れたような、そんな味。甘くしたいなら砂糖を追加すればいい話だが、そのときのぼくは、今から読もうとしているルシア・ベルリンの短編に丁度いいと思った。



ほんのわずかな慰めを得るためなら、人はどんなことでもするだろう。

――『虎に嚙まれて』より引用

群像の6月号に、『掃除婦

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あなたへ。もしくは、生まれ来る人たちへ。(おめでとう/川上弘美)

僕は、「察して」が大嫌い。

僕は頭がよくないから、いってくれないとわからない。何をするのは良くて、何をするのは悪いのか。「そんなの、簡単だよ」って、いえる人も、いるのかな。でも、僕にとっては良いことでも、あなたにとって悪いことって、あると思うから。

「いわれなくても、わかるでしょ」も、大嫌い。(まあ、同じ意味だよね。)だって、いわれないとわからないから、訊いているんだよ。だって、自分のことだっ

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辛そうで辛くない少し辛い話(今日というより凶な今日/みのわようすけ)

「……」
「それ、おすすめですよ」
「どれが1冊目ですか? ……ああ、これか……でもこれ、もう見本しか無いですね」
「ああ……あ。でもそれ、第二版ありますよ。ほら、隣にある。これ、表紙は違いますけど中身は同じなんで」
「じゃあ、これ下さい」



「こんな夢を見た」とは夏目漱石の弁だけど、かくいう僕も、数ヶ月くらい前までは『ゆめにっき』なるものを残していた。フリーアドベンチャーゲームじゃなくてね

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