辛そうで辛くない少し辛い話(今日というより凶な今日/みのわようすけ)

「……」
「それ、おすすめですよ」
「どれが1冊目ですか? ……ああ、これか……でもこれ、もう見本しか無いですね」
「ああ……あ。でもそれ、第二版ありますよ。ほら、隣にある。これ、表紙は違いますけど中身は同じなんで」
「じゃあ、これ下さい」



「こんな夢を見た」とは夏目漱石の弁だけど、かくいう僕も、数ヶ月くらい前までは『ゆめにっき』なるものを残していた。フリーアドベンチャーゲームじゃなくてね。以前は、毎朝投稿している日記『cider.』内に、その枠を取っていたのだ。なぜ止めてしまったのか。ゆめにっきなるものを検索にかけると、「※やってはいけない※」が上位に出てきたから……とかそういうのではなく、単に面倒臭くなったからである。以上。と締めたいところではあるけど、僕はまた、夢と向き合わざるをえない事態に直面していた。

夜半、何時なのかもわからない時分、何か引っかかるものを感じて、僕はまだ起きているパートナーに声をかけた。


「僕、あなたに〇〇っていったっけ?」
「ううん、いわれてないよ」
「そう?」


僕は、また眠った。


……。
……。


また何か引っかかるものを感じて、僕は再びパートナーに声をかけた。


「僕、あなたに〇〇っていったっけ?」
「ううん、いわれてないよ」


……。
……あれ?
僕は今、眠っていたよな?
もしかして、ここは夢の中なのか?


現実だと思っていたことが、どうして夢になっているんだ? もう、ゆめにっきは付けていないのに。おかしいな。……何が? 僕が? それとも現実が? おかしいのは、どっちなの? どっち? ど

気付けば、僕は再び眠っていた。もしくは、まだ起きていた。僕は再三、パートナーに訊いていた。たぶん、同じことを。〇〇。いや、僕がいったのは××? ××って何だ? ああ、頭が、


「あ」


と、声がした。その声がどこから発せられたのは、すでに分かっている。無論、僕の喉だ。何かがかつんと膝にぶつかった。その何かは、見ずともわかる。これは本、本ですね。ええ、間違いありませんとも。けれど、君の名は? 僕は、彼(もしくは彼女)をずるりと引きずりだした。


……ええ?


「何で、こんなところにいるの」

『今日というより凶な今日』

「どっちなの」

『今日というより凶な今日。
 ……それ以上でも以下でも、ありますまい』


僕は、ハッと目を覚ました。5時。起床時間だ。なんだか、大変な夢を見ていた気がする。大変ってこう……いや、何も思い出せない。思い出せないということは、思い出す必要がないということだ。とりあえず、布団を片すか……。と、布団の中に何かが入っているのに気付く。『今日というより凶な今日』。みのわさんの……。そうだった。読んでる途中で寝てしまったんだ。よっこいしょ、と本を取ろうとすると、表紙の鳩? がけたけたと笑いだした。


『努々、油断なさらぬよう』


……あれ?
まだ夢?
どこまでが現実?

みのわようすけさんの公式HP

今日というより凶な今日/みのわようすけ(第二版、2015年)

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