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雑多なもの

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消えてしまった、存在論ー写真についてー

消えてしまった、存在論ー写真についてー

Ⅰ .消えてしまった

 最近、と言っても一年以内という程度の意味だが、昔から暇な時間さえあると本を読んでいるものだから、時々「どんな本を読んでいるんですか」とか「どういう本が好きなの」と聞かれることがあると、便宜的に「ドイツ文学が好きです」と答えるようにしていたら、それまで以上にドイツ文学やその周辺に関する本を読むようになった。
 もちろん嘘ではない。大学の頃はドイツ語を第二外国語で学んでいたし

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萱草に寄す

萱草に寄す

 すっかり日が暮れた後、ベランダに出て煙草をふかしていると、日中に軽く汗で濡れた半袖のシャツの袖を静かに揺らす風が、随分と冷たくなってきたことを感じる。短い夏が終わり、秋が来る。なんだかんだ忙しく過ごしていたから、余計に短い季節だった。これからもっともっと、短くなっていくのだろうか。
 昨日が中秋の名月の日だと誰かが言っていて、そう言われてみれば、仕事からの帰り道、川べりの堤防の向こうの、うすら雲

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現代の問題としてのアイヌ問題

現代の問題としてのアイヌ問題

 アイヌとは北海道や樺太などのオホーツク地域一帯に暮らす先住民族だ。北海道アイヌ生活実態調査によれば2017年現在で13118人、北海道人口の0.244%をアイヌが占めている。しかしこれはあくまで北海道内の数字であり、実際にはもう少し多いと考えられるものの、彼らの人口は年々減少傾向にある。彼らはユーカラと呼ばれる口承文芸やウポポ(座り歌)、リムセ(踊り歌)、入れ墨などの独自の文化を有し、アイヌ語と

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イスラームの寛容さについて

イスラームの寛容さについて

 イスラームと聞くと、その暴力性がしばしば取り沙汰され、危険な宗教だというイメージが付きまとう。それは2001年に起きたアメリカ同時多発テロ以降のハンチントンの「文明の衝突」論に顕著に表れているところだろう。最近でもフランスで表現の自由を謳ってイスラームの使徒たるムハンマドのカリカチュアをツイッターに投稿した男性教諭がムスリムの青年によって刺殺された事件が記憶に新しいだろう。そしてこうしたイスラー

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『チッソは私であった』:文明批判の視点と倫理

『チッソは私であった』:文明批判の視点と倫理

 2020年12月、河出文庫から緒方正人『チッソは私であった:水俣病の思想』が刊行された。もともとは2001年にローカルの出版社である葦書房から刊行されたもので、ながらく絶版だったこともありとても手に入りづらく、この度の河出書房新社からの再販はとてもうれしい知らせだった。

 わたしは大学の社会運動に関する講義で緒方さんを知った。いかに上手に資源を動員して、政治的目的を達するかが主眼になる社会運動

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セカイ系の想像力とその外側:Life is Strangeについて

セカイ系の想像力とその外側:Life is Strangeについて

※本稿では議論の都合上「Life is Strange」の全面的なネタバレをします。未プレイでネタバレが嫌いな方は是非ともプレイをしてから読んでいただきたいです。しかしこのゲームの面白さはストーリーだけではないので、気にされない方は読んでから是非プレイしていただきたいです。
※なお本論の理解を補助するために、「Life is Strange」本編からスクリーンショットを引用させていだだきました。

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サロメはいかにして宿命の女になったのか

サロメはいかにして宿命の女になったのか

 ファム・ファタールという言葉をご存知だろうか。単純に訳して仕舞えば、宿命の女、ということになる。「君こそ、僕の運命の人だ!」というような意味はもちろんある。しかし大抵、宿命の女(ファム・ファタール)といえば、「男を破滅させる魔性の女」という意味で使われる。例として挙げられるのは、メリメの『カルメン』のカルメンなど。日本で言ったら『痴人の愛』のナオミあたりだろうか?
 その中でも代表的な人物といえ

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風景はどこにあるのか?

風景はどこにあるのか?

 風景はどこにあるのだろうか。この問い自体、極めて現代的な意識によって初めて可能になるものだろう。そういう意味ではこの問い自体が既にして答えを内包しており、立論は不適切なことのようにも思われる。しかし私はあえてこの問いを発しよう。世界の美しさのために。
 風景はかつて存在しなかった。風景は近代において初めて発見された、わたしの内面において。そしてついには再び見失われてしまう。それに気づいているかは

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