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良かった小説

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小説や漫画の中で話が長いものを読むのが苦手。 そんな私が夢中で読めた小説を載せていきます。 最高でした。もっと気持ちは熱くなっているのですが、表現が上手くできません。つまり、とに… もっと読む
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記事一覧

【掌編小説】彼女の選んだ未来

【掌編小説】彼女の選んだ未来

1.未来が見える人

 アメリカ合衆国初の女性大統領になったアリサ・マックウェルは、幼い頃から未来が見えていた。
 日本人の母とアメリカ人の父のもとに生まれ、ボストンで育ったアリサは、よくフリーズしたように立ち止まって、ブラウンの瞳でどこか遠くをじっと見つめる少女だった。
 親も周りの人たちも、彼女がなぜそうするのか不思議だったが、アリサは自分の予知力について誰にも話さなかった。親に打ち明けようと

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小説:ナースの卯月に視えるもの 1 #創作大賞2023

小説:ナースの卯月に視えるもの 1 #創作大賞2023

あらすじ
看護師の卯月咲笑はあることをきっかけに、人が亡くなる少し前になると、その人の思い残したものの一部が視える特殊な能力を持つことになった。病院で働く間、患者の思い残したことを視る卯月は、何とかその「思い残し」を解消しようと試みる。患者の「思い残し」は、いつも思わぬミステリーを連れてくる。意識不明の男のベッドサイドに現れた女の子は誰なのか。癌を患い余命の少ない男のベッド下に横たわる女性との関係

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「一泊二日」 第一話

「一泊二日」 第一話

  ◇

 頭にきた。もうあんな男とは別れてやる。
 電話を切ってから、一時間近く経つのに、この腹立たしさが収まる気配はない。気がつけば、ベッドに座ったまま、膝の上で、ずっとこぶしを握りしめていた。開いてみると、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいる。私はティッシュペーパーを一枚引き抜き、手を拭く。それをグシャグシャに丸め、ゴミ箱めがけて投げ入れようとしたが、角に当たってポロリと落ちてしまった。何

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今晩する?

今晩する?

これは藤家 秋せんせが企画された『炭酸刺繍』に参加させていただいた『BOSTON COOLER』が生まれるきっかけとなった物語です

あのさぁ俺は仔猫を拾ったわけじゃねえのよ
雨の中、足首痛めたようでツラそうだったから
目の前にあった俺んチにどうぞって言っただけなんだけど
もう何時間ここにいるんだよ

だって行くとこないんだもん

だからってさぁ

だから労働でお返しするって言ってんじゃん
とりあ

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【エッセイ】遠き日の夢「虎吉の交流部屋プチ企画」

【エッセイ】遠き日の夢「虎吉の交流部屋プチ企画」

ドスンッ

「アイタタタ」
はじき出された衝撃で、したたかに頭を打った。
ドクンドクンドクン
小さな地震のような波が規則的に私の身体に伝わって来る。

『タイムリミットは3分です』
白装束の男は私にそう言った。
『分かったわ』
(カップ麺かウルトラマン?)
笑みがこぼれそうになるのをこらえた。
『時間に間に合わなければ…』
『私が……でしょ?』
男は深く頷いた。
『じゃあ、いってらっしゃい』

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〔新生活20字小説〕その1

〔新生活20字小説〕その1

新しい食器棚に、古いマグカップがひとつ。

こんばんは。
こちらに参加してみます。

もし何か浮かべば、また書くかも知れません。もう何も浮かばないかも知れませんが💦
とりあえず今日は、これでお願いします!

春と風林火山号に乗って #短編小説

春と風林火山号に乗って #短編小説



 とうとうこの日がやってきた。
 直紀は抑えきれぬ想いを胸に、帳面駅バス停に到着した。駅前の掲示板に貼られた一枚のポスターに目をやる。
   春と風林火山号に乗って新宿に行こう!
 弾けるような文字が躍り、そこにはバス乗務員の制服を着た女の子のキャラクターが描かれていた。何度見ても、溌剌とした明るい笑顔が可愛いらしい。
 直紀はこれまで、こういった萌え系のキャラクターには全く興味がなかった。

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【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~ 第1話

【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~ 第1話

   第1話

21:00 帳面駅バス停 出発

「本日はご乗車いただき、まことにありがとうございます。こちらの夜行バス『風林火山号』は帳面駅発、バスタ新宿行きでございます」

 帳面駅前ロータリーの一角にある路線バスの発着場は、帰路につく人たちが列を作っている。

 それとは反対側の端に停車する鮮やかなデザインのバスに近づき、入り口の前で足を止めた。バス停に立つ制服姿の女性にチケットを見せる。

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小説/おめでとう。卒業と、

小説/おめでとう。卒業と、

卒業の季節、イコール絶望。
卒業式って何だろう。結局一度も参加してないから分かんない。ただ通う場所が変わるだけで、毎日やることは変わらないじゃん。
一体なにから卒業すんの。一体なにが おめでとう なの。

新宿に向かう夜行バスの、カーテンをそっと開けて外を覗く。
景色は真っ暗で何も見えない。こんなド田舎だからダメなんだ。腐った人間ばっかりだ。
すれ違うヘッドライトの数も多くはない。こんな時間だもん

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【短編】ビタースウィート、或いは紅蓮。⑤

【短編】ビタースウィート、或いは紅蓮。⑤

チョコレートの包み紙を渡してきた奴がいてよ。その時に俺は感動したんだ。

恍惚とした表情で、《物乞い》は語り始めた。

「銀行員をやっていると、いわゆる『金の亡者』とも言える客に出会う。金は金を増やすための手段であり、金を増やす目的もまた金である。そんな連中だ。俺は投資を担当していたからな、そういう客との遭遇率は高かった。そんな奴らの相手をしていると、次第に感化されちまうんだよ。この世の中のものは

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〔ショートホラー〕オヤシロサマ

〔ショートホラー〕オヤシロサマ

閏年の2月29日の夜には、村はずれのお社の扉が開く。お社と言っても、何を奉っているのかは知らない。赤黒い鳥居の奥に小さな祠があるだけで、神主さんも誰もいない。ただ、村長さんが毎日怖い顔で掃除をしたり、お酒を供えたりしているみたい。大人たちはもっと知っているのかも知れないけど、誰に聞いても教えてくれないのだ。
「ねえ、ちいちゃん。今年、お社に行くの?」
1学年に1クラスしかない学校で、となりの席のさ

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走れ!走れ!オレたち①

走れ!走れ!オレたち①

地上界その一

 「おい、カレンダーはもう変えたか?」
水野戸課長は、デスクを整理している樋上に聞いた。
「はい、さっき付け替えておきましたよ。表紙はまだめくってませんけど」
「もうそろそろ大掃除も終わりにして、皆で乾杯して帰るから、めくっておいておくれ」
水野戸はそろそろ課の部下たちを帰してやるべく、樋上にそう言った。
 
 今日は仕事納め。掃除が済めば缶ビールやソフトドリンク、少々のおつまみで

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短編小説:いぬの本懐

短編小説:いぬの本懐

田舎の古い家というのは冬の雪の湿気や重みで真夜中、ひとがみな寝静まって、目の前に犬の鼻があっても少しもわからないまっくらやみの時間に

「…ミシッ」

なんて不穏な音を立てることがある、それから屋根裏を鼬が鼠を追いかけてバタバタ駆け回って、天井板からはらはらとホコリが降ってくるくらい騒がしいなんてことも。おれは森の中にある古くて大きな家で生まれて、この家に来るまでそこでおれのお母さんときょうだい達

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母が守ったもの 〔ショートストーリー〕

母が守ったもの 〔ショートストーリー〕

母が守ったもの

「あーーー疲れたぁぁーー」

ふーーっと長く息を吐いて湯に体を沈める。
体内に溜まって身体を重くしていた『疲労』が、ゆっくりと湯船の底に降りていく。

社会人になってまだ一ヶ月が経っていないなんて信じられない。なのに、こんなにも疲労を感じているだなんて。

「若いのに」
思わず、そう自分でつぶやいてしまう。

我が家の湯船はとても小さい。昔から思っていたけれど、今ではなおのこと

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