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【連載小説】パラダイス・シフト_8
「それは本当なのか?」
おれが聞くと、工藤の震えは止まった。よほど強く押さえていたのだろう、目頭にはくっきりと指の跡が残っている。
「こんな顔で冗談を言えるとしたら、僕はアカデミー賞候補だろうね」
「工藤、軽口はいいから、イエスかノーかで答えてくれ」
「イエス」
なんてこった。工藤は「僕らは、狙われているらしい」と言った。僕ら。工藤、マーガレット、だけなんてことはない。「ら」にはおれも含まれて
【連載小説】パラダイス・シフト_7
例によって例のごとくサービス残業を1時間半ほどこなして会社を出たおれは、しかし、いつもとは違う電車に乗って、また西新宿の裏路地にひっそりとたたずむ≪パラダイス≫に足を運んでいた。
夕方以降本降りになると聞いた天気予報に従ってコンビニで雨傘を買ったのはいいが、喫煙所の隅に立てかけておいたのがいけなかったのか、気づいたら忽然と消え失せていた。だからおれは、雨に濡れている。
「ちょっと、フロアがびし
【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_7
騒ぎは加速度的に大きくなり、いよいよこれはただごとじゃない、と思うようになった。
ただごとじゃない、といえば体を密着させたミサキさんもそうだ。煙のせいで視界不良も甚だしいが、人間の体温はわかる。
「一度、出口のほうに行きませんか?」
ミサキさんの提案には賛成だが、出口がどこなのかわからない。他の人たちも同じようで、バタバタと動き回っている様子はない。何も見えないのは不安だけど、動くほうがもっ
【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_6
僕は腹ばいになったまま、あたりの様子を探った。
先ほどの破裂音は尋常ではなかった。が、あいにく僕はこのところ尋常ではないこと続きでなにが尋常かわからなくなっている。こういうときこそ頭をリフレッシュするための休暇が欲しいと思うのが人情だが、この世は無常。トラブルと修羅場は立て続けにやってくるものと相場が決まっている。
「ど、どうしましょうか」
ミサキ、と名乗られたのが名前なのか名字なのかもわか
【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_5
スエヒロくん、と鱒沢さんの声が飛んできて、僕の背中が上下動した。
「ごめん、驚かせたかな」
いえ、と曖昧に返事をしてパソコンの画面をチェックする。大丈夫、変なブラウザは立ち上がっていない。
「出張に行ってほしいんだけど」
「出張ですか?」このご時世に、とい言葉を吐き出す寸前で噛み砕く。「オンラインではダメなんですか?」
「クライアントがその手の機械に疎いらしくてね。使い方を覚えてくださいとも、