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レポート:共鳴ダイアログin奈良―自ら考え動く従業員が育つ組織づくりを考えるトークイベント〜チームに"対話"と"内省"を生む経営者のあり方〜

本記事は、一般社団法人ポリネ代表理事・荷川取佳樹さんと一般社団法人無限代表理事・石田慶子さんが対話に臨まれた共鳴ダイアログin奈良についてレポートしたものです。

奈良県立大学地域創造研究センター仕事文化研究ユニットが主催し、コワーキングスペースBONCHIで開催された本企画は、徳里政亮さん(一般社団法人ポリネ)の進行のもと、会場の参加者の皆さんと共に2人の経営者の実践について耳を澄まし、対話を深めていく時間となりました。

2時間という限られた時間であったものの、お2人が語られた中に多くの気づきや学びを感じられました。今回は、その中でも印象に残ったポイントなどをまとめていければと考えています。


共鳴ダイアログin奈良:登壇者紹介

一般社団法人ポリネ

一般社団法人ポリネの設立には、株式会社BowLでの取り組みが大きく関わっています。

2013年1月に荷川取佳樹さんによって創業された株式会社BowLは、沖縄県浦添市に拠点を置く、県内初のうつ病特化型のリワーク(復職・再就職)専門機関です。これまでに500名にのぼる方々の復職・再就職を実現されてきました。

うつに陥った方のサポートだけではなく、そもそもうつにならない社会づくりをめざすBowLは、新しい働き方・組織の作り方・制度設計を自社自ら積極的に挑戦し、BowL独自の「セルフリーダーシップ経営」及び組織支援アプローチを開発してきました。

2020年には、うつを発症させず、健康的に働ける組織づくりをポリネーション(他花受粉)していくことをめざし、一般社団法人ポリネを設立。ポリネでは、経営者・マネジメント層を起点に、人と組織がより健やかな状態へ変容していくための独自プログラムを提供されています。

一般社団法人無限

奈良県生駒市に拠点を置く非営利型一般社団法人無限は、2012年に生駒市内初の放課後等デイサービス事業者として設立されました。

現在、無限の代表理事を務める石田慶子さんはその後、施設を利用する子どもたちが学校卒業後に関わる地域や社会とのつながりを生み出すべく、いくつもの事業の立ち上げ・運営に取り組まれてきました。

2017年に就労継続支援B型事業所Growin’、2018年にGrowin’利用者がスタッフとして働くカフェメリメロ、2021年に地域に開かれた子どもと大人の居場所であるまほうのだがしやチロル堂をオープンさせるなど、多様な個性を持つ人々が自然にそこにいる居場所づくり・社会の創造に現在もチャレンジされています。

また、組織づくりに関してはこれまでに何度も難しさや行き詰まりを感じられる中で、2021年頃に大きな転機を迎えます。

海外を中心に広がっていた新しい経営のコンセプトであるティール組織(Reinventing Organizations)や、ホラクラシー(Holacracy)という組織運営法に出会ったことをきっかけに、現在に至るまで、一人ひとりが主体的に考えて自律分散的に働くための仕組みづくり・環境づくりに取り組まれています。

対話中に語られたテーマの前提共有

当日のダイアログでは2時間という限られた時間のため、ビジネスや経営の領域でよく取り上げられる『ティール組織(Reinventing Organizations)』『ホラクラシー(Holacracy)』『ソース原理(Source Principle)』などの用語が何度か取り上げられたものの、それらについて詳しく紹介される時間はありませんでした。

以下、それぞれの概要についてまとめています。

ティール組織(Reinventing Organizations)

『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。

書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。

フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

『ティール組織』及び『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』を参照

この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。

国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州さん吉原史郎さんの両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。

2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。

フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。

また、昨年12月には『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏も賛同し、国内の実践者の有志によって制作された、国内外の実践事例・翻訳記事などを紹介する情報ポータルサイトもオープンしています。

こちらのサイトでは、海外の実践事例や情報の翻訳や、従来の延長線上ではない、新しいパラダイムの組織づくりについての発信が行われています。

ホラクラシー(Holacracy)

ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。

2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン社)のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)トム・トミソン(Tom Thomison)によって開発されたホラクラシーは、フレデリック・ラルー『ティール組織』にて事例に取り上げられたことで、国内においても実践事例が増えつつあります。

ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と、役割として優先的に使用するドメイン(Domain)、継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。

ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下の記事にもあるような入れ子状になった円によって表されています。(可視化ツールは他にもHolaspiritというサービスも国内外問わず、多く活用されています)

ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合・より良くなるための気づきや閃きがあった場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。

このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。

さらに詳しくは、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版書籍の監訳者である吉原史郎さんの記事や、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画、全文公開されている新訳版書籍のまえがきもご覧ください。

ソース原理(Source Principle)

ソース原理(Source Principle』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威影響力創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。

ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、初めの無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を指します。

The role emerges naturally when the first individual takes the first vulnerable step to invest herself in the realisation of an idea.

Tom Nixon「Work with Source」p20

そして、朝食を作ることから新しく人間関係を築こうとすること、大きなビジョンを抱いて起業することに至るまで、さまざまなソースのあり方があり得ます。

This applies not only to the major initiatives that are our life’s work. Every day we start or join initiatives to meet our needs, big and small.[…]Whether it’s making a sandwich or transitioning to a zero-carbon economy, we start or join initiatives to realise ideas.

Tom Nixon「Work with Source」p30

We take initiatives all the time: deciding on a particular course of study, going after a certain job, starting up a business, planning a special dinner. I can initiate a friendship or partnership, change my housing situation, make holiday plans, decide to have a child. Or I might step forward to join a project sourced by someone else.

Stefan Merckelbach「A little red book about source」p17

日本におけるソース(Source)の概念の広がりは、2019年のフレデリック・ラルー氏の来日時に広く紹介されたことが契機となっています。

彼もまた、ピーターとの出会い、ピーターからの学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。

山田裕嗣さん青野英明さん嘉村賢州さんが翻訳を務め、2022年10月に出版された『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』は、国内で初めてソース原理(Source Principle)について体系的に紹介した書籍です。

本書の出版前には著者トム・ニクソン氏(Tom Nixon)の来日企画が実現、出版後はソース原理提唱者ピーター・カーニック氏の来日企画の実施、日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門にて入賞を果たすなど、ソース原理はその注目を高めつつあります。

またこの頃から、ソース原理には世界中に何人もピーターに学んだ実践者がいること、ピーター自身は本を書くことは少なく、ピーターに学んだ実践者が本を書くことが多いこと、ソース原理の発見のルーツには『お金と人の関係』について扱うマネーワーク('moneywork')というものが存在することなどが認知されてきました。

2023年の年末から2024年の初めにかけて、本記事執筆時点で未邦訳書籍である『「A little red book about source』著者であるステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)の来日企画が実施され、ソース原理に関して新たな探求のための視点が紹介されました。

また、2024年4月にはソース原理及びマネーワークのスペシャリストであり、心理学修士号を取得しながらコーチ、コンサルタントとして活動しているナーディア(Nadja)こと、ナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)の招聘企画が実施されました。

当日の対話からの気づき・学び

以上、共鳴ダイアログ中に飛び出したいくつかのキーワードが、どのような背景や文脈によって活用されてきたのか?についてまとめてきました。

ここからは、荷川取佳樹さん、石田慶子さんがお話された中で特に印象的だったものについてまとめていきます。

向かって左から徳里政亮さん、石田慶子さん、荷川取佳樹さん

2社の経営で大切にしている3つのポイント

対話の前の前提共有として一般社団法人ポリネと一般社団法人無限の取り組み・これまでについてご紹介いただいた後、ポリネの荷川取さん(ニカさん)、無限の石田さんが経営で大切にしている3つのポイントについてそれぞれ伺いました。

語っていただいたポイントは、それぞれ以下のようなものです。

BowL、ポリネの経営で大切にしていること

・起点は共にする
・1対1で向き合う
・チームシップで事をなす

当日のお話から

無限の経営で大切にしていること

・自然であるか。不自然でないか。
・私がどう在りたいか。あなたはどう在りたいか。
・対話

当日のお話から

トップダウンの限界とボトムアップの限界

荷川取さん(ニカさん)、石田さんに共通していたのは、これまでに強いリーダーシップによる統率やトップダウンの意思決定なども経験されており、それを踏まえた上で、現在のような一人ひとりが自律的に考え、行動していける組織づくりに辿り着いた点でした。

この点について、ニカさんは「トップダウンの限界は30年前に体験していた」とお話されました。

当時、ニカさんが管理職やマネージャーを担っていた外資系生命保険会社はまさにピラミッド型のトップダウン組織であり、それでもうまくいかない場合にどうすれば良いか、試行錯誤されていたと言います。

また、この頃から「自分は人間のことをわかっていない」と考え、人間理解を深めること、自身の哲学を持つことを意識してきたとお話されていました。

自身の実践を紹介されている荷川取さん(ニカさん)

その後、今から20年ほど前に「ボトムアップが大事じゃないか?」と閃き、メンバー自身が自分で目標を立て、考えてやってみることを促すボトムアップのスタイルを実験し始めたとのことです。

ところが、チーム内でボトムアップを主導するための推進役やリーダーがやむを得ず異動、退職となった時に、ボトムアップもうまくいかなくなってしまいました。

トップダウン、ボトムアップはいずれも人に紐づいているチームづくりのあり方です。また、トップダウンとボトムアップの双方に、それぞれ限界があることもわかりました。

以上のような経緯から、両方の良いところを活用できる方法がないかと模索していた最中で、ティール組織(Reinventing Organizations)をはじめとする新たな哲学・方法論に出会い、探求を続けてこられた、とのことです。

「私がどうありたいか?」から始める

石田さんは無限のこれまでのプロセスを振り返りながら、「自分は良い会社、良い組織を作ろうとしているのにスタッフが病んでしまったり、面談しても相手は能面のような表情で、自分に本心を伝えてくれない、という経験をしてきた」と述懐されていました。

そのような中でいち早く、ティール組織やホラクラシーの探求を始められていたBowLにインスピレーションを受けつつ、ソース原理(Source Principle)に出会ったことが大きな気づきであったと紹介いただきました。

ソース原理の考え方の中には、ある1人が一歩、リスクを負ってアイデアやビジョンを実現するために踏み出したことで、周囲にも影響を与え、共感を生んで人を惹き寄せることがある、というものがあります。

この点において、一般社団法人無限のソース(創造性の源)は石田さんと言えるかもしれません。

一方で、石田さんは面談やスタッフとのコミュニケーションなどで「あなたはどうしたい?」と尋ねることが多く、「私としては、こうしたい」と語る視点を外していたかもしれない、と振り返られていました。

「私から始める」という話についてニカさんは、組織開発と呼ばれる領域で共有されている「自分の中にある決まりきった考え方・価値観が自分の行動に反映され、それが現実をつくる」という考え方もシェアしてくださり、経営者自身の内省の重要性を強調されていました。

「起点を共にする」ということ

ダイアログの後半で熱を持って扱われたテーマが「起点を共にする」というものでした。

まず、何か新しい取り組みやプロジェクト、事業をスタートさせるとなった時、経営者やマネージャー、リーダーなどの人物が起点をつくることが重要だ、というものです。

業界・領域を横断した協働を推進していこうという場合や、広く地域や社会に対してメッセージを発信し、サービスを届けていこうという場合、すべての事業やプロジェクトの現場に経営者やリーダーが常駐することは難しくなります。

一方で、活動やプロジェクトを広げるために積極的に協力者を巻き込み、規模を拡大していく中で、当初に意図していた方向性から外れてしまったり、任せたはずチームやプロジェクトが自主的に物事を進めることができない、ということも起こり得ます。

このような時に重要になるのが、「起点を共にすること」じゃないか、とニカさん・石田さんの2人がお話されていたのが印象的でした。

「なぜ、この取り組みを始めるのか」についての想いやエネルギー、メッセージをチームの一人ひとりに宿し、意図合わせも終わった段階でメンバーをアサインしていくことで、自己修正も行われるチームのコンディションが整うのではないか?

当日のお話より筆者が再構成

上記のようなアイデアは、会場の多くの皆さんにも響いている様子が伺えました。

経営者お二人の「これから」は?

最後、石田さんとニカさんのお二人の「これから」について伺い、クロージングとなりました。

石田さんはまず、「こういった学びを会社で共有して、実践できていることが幸せ」とお話されていました。

そして、実践する中で少しずつ組織の変化も見えてきているということ、また、今回のダイアログでこれまでの学びを言語化・具体化が進んだため、これらを再び共有しつつ、広げていきたいと締め括られていました。

「これから」についてニカさんは、「企業や組織の中でメンタル不調になり、そして支援機関のもとに人がやってくるという流れを変えたい」「企業や組織が変わることで、そもそもメンタル不調が起こらない社会をつくっていく」と語られていました。

また、「やっぱり子どもにアプローチすることが重要」とニカさんは続けられました。

近年では、子どもたちと企業の従業員、学校組織と企業における評価やコミュニケーションのあり方に似ている点・共通点が見えてきており、「子どもの時から自己認識や自己理解を育み、心身ともに健康に生きていける世界を実現していきたい」と「教育」についても言及しながらお話され、ダイアログが終了しました。

さらなる探求のための関連リンク

共鳴ダイアログ in 奈良レポート1

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