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よすけの短編小説まとめ

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書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
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#忘れられない恋物語

【短編小説】幸せのかたち

【短編小説】幸せのかたち

3,870文字/目安7分

「幸せに形があるとしたら、きっと三角形だよ」

 口癖のように話す彼女の言葉の意味が、当時小学四年生だった僕には分からなかった。
 住んでいるところは町にもならないような田舎だった。近所に歳の近い子が他にいないからと、ことあるごとに遊びに連れ回された。山へ虫を捕まえに行ったり、知らない細い道をどんどん入って行ったり、お互いの家の敷地全部を使ってかくれんぼをしたり。かくれ

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【短編小説】ここにいる理由

【短編小説】ここにいる理由

1,818文字/目安3分

 一年前に事故で死んだはずの彼が突然帰ってきた。どういうわけか全然分からないけれど、確かにそこにいる。話せる。触れる。体温を感じられる。一緒に食事もできる。

 朝起きてリビングに出ると、彼はキッチンに立っていた。やっぱりいる。今までそうしてきたように、そしてこれからも続くように、当たり前のように、確かにそこにいる。
 彼は食パンをトースターにセットしていた。一緒に暮ら

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【短編小説】ここにいる、ここにいて

【短編小説】ここにいる、ここにいて

1,807文字/目安3分

 仕事から帰って、晩ごはんの支度を始めようとしたら、彼が突然帰ってきた。
「ただいま」
 そう言っていつもやっているかのように、傘を置いて、上着を脱いで、部屋へ着替えに行った。
「あ、おかえり」
 遅れてその後ろ姿に声をかけたけど、間抜けな声しか出てこなかった。
 平静を装って、料理の準備に戻る。今日は二人分作らなくちゃ。

 彼が部屋から出てきて、わたしの隣に立つ。ふ

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【短編小説】フォトアルバム

【短編小説】フォトアルバム

2,057文字/目安4分

「一つ分かったことがある」
「どうした」
「俺、アプリでいろんな子と会ってるって話よくするじゃん」
「してるな」
「その子ら一人一人、みんな生きてるんだなぁって思うのよ」
「当たり前じゃね」
「いや、そうなんだけど。そうじゃなくて、みんなそれぞれ人生があって、いろんな生き方があるんだなぁって」
「そういうことか」
「みんないい子なのよ」
「何人くらいと出会ったんだ?」

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【短編小説】かわいい

【短編小説】かわいい

3,342文字/目安6分

 朝、目が覚めてから違和感に気づくまでに、そう時間はかからなかった。
 まず一つ股間のあたり。というか股間。全然力が入っている感じがしない。自慢じゃないが俺は朝からすごい。何がとは言わんがナニがすごいのである。なのにそこにある感じがしない。
 もう一つ。寝返りの感触がなんとなく柔らかい。ふにって感じがする。
 そうは言っても違和感の正体は分からず、あくびをして、ベッドか

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【短編小説】焼き鳥屋の煙―閉店前―

【短編小説】焼き鳥屋の煙―閉店前―

2,051文字/目安4分

 一人で焼き鳥屋に来ている。
 いつもはこういうことをしないのに、なんとなく思いついて立ち寄った。家にいたくない。一人になりたい。頭を冷やしたい。そういう思いで、ふらふらとどこに行くでもなく外を歩いていたら、この店を見つけた。

 飲み屋はチェーンの居酒屋しか行ったことがない。こういう感じなんだ、と思った。入ってすぐの左側にカウンター席が四つ、右側に座敷のテーブル席が二

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【短編小説】ある晴れた日のソラ:後編

【短編小説】ある晴れた日のソラ:後編

前編はこちら

3,600文字/目安7分

 僕はモテない。異性と付き合った経験なんてないし、当然同性ともない。告白したことはあれど、されたことはない。そもそも女の友人が少ないし、知り合い自体も少ない。美人と曲がり角で衝突なんてもってのほかだ。そのような展開は空想の世界だけの話である。

 顔も性格もさほど悪くはないと自分では思うが、それと同時にこれといった魅力もない。当たり障りないゆえに、目につ

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【短編小説】ある晴れた日のソラ:前編

【短編小説】ある晴れた日のソラ:前編

3,575文字/目安7分

 突然ですまない、僕の話を聞いてくれ。

 ありふれた話かもしれない。つまらない話かもしれない。だけど僕にとっては紛れもなく特別なことなんだ。まだ自分の中で整理しきれていないからうまく伝えられるかわからないけど、とにかく聞いてくれ。

 えっと、あれは確か……ひと月、いやふた月か。たぶんふた月ほど前のことだ。ふた月か。もうそんなに経つのか。しかしまだふた月と言うべきか。

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