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ヤマギシの軌跡

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中の人、山岸のすべてがここに。
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#備忘録

いつかの夏、キモめの水泳教師を冤罪にかけた話

いつかの夏、キモめの水泳教師を冤罪にかけた話

小学生のころ、夏休みの大半は静岡にあるおばあちゃんの家で過ごしていた。歳の近い従兄弟たちと一緒に。
笑顔の絶えない毎日。野に花は咲き乱れ、小鳥たちは歌い、ガキたちはプレステとセミ取りに興じ、幸せな日々を過ごしていた。が、そんな幸せな日々は突如終わりを告げた。

おれたちはスイミングスクールに通わされることとなったのだ。
家でピアノの先生をしている祖母。その傍らで狂喜乱舞するガキら。
それを見かねた

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ポケモンパンの名前シールだけ集めていた俺を笑ってくれ

ポケモンパンの名前シールだけ集めていた俺を笑ってくれ

俺が学童にいっていた頃、人間はみな、ポケモンのシールを水筒に貼り詰めることに夢中だった。
石塚も角田も一個上のゴロちゃんも多分に漏れず、ポケモンパンについてくるシールを水筒にペタペタ貼りまくっていた。

人々は皆、水筒を自慢のポケモンたちで敷き詰める日を夢見て、ポケモンパンというポケモンパンを買いあさっていた。だが我が家は違った。

ポケモンパンを、かってもらえなかったのだ

「あっ、ポケモンパン

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2011年、夏 その3

2011年、夏 その3

夢にまでみたカブトムシが、目の前にいる。しかも三匹。
おれは、息すらしていなかった。というかできなかった。

目の前にいるカブトムシは、ちょっと息を吹きかけただけで飛んでいってしまうんじゃないか。そんな気がして息ができなかった。

はしゃぐ隆成を制し、おれは息を必死に殺してカブトムシに近寄った。
心臓の鼓動が、自分の耳にまで聞こえる。網を持つ手が震える。

足を擦るようにじりじりとカブトムシに近づ

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2011年、夏

2011年、夏

蛍光灯に照らされた台所で、水色の網に黙々とバナナをいれる。
青いビニールテープで口を縛って、さらに大きな袋につめる。木に巻き付けられないと困るから、テープは長めに。長すぎるぶんには問題ない。

「ちょっと焼酎ちょうだい」

まだ6時だってのに親父は、たっくんとおじいちゃんと一緒に酔っぱらってる。

「カナタ、あんまりたくさん使うなよォ」
「ムシにあげるために買ってきたんじゃないんだからな」

親父

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タキタの乳首をみた

タキタの乳首をみた

みてしまった。おれはタキタの乳首をみてしまった。

しかし悪気はなかった。
それは小学校6年の夏、プールの着替えのときだった。

当時は男女の着替える場所が、多目的室と教室とで、なぜか毎週入れ替わる。
隔週で場所が決まっていたのかもしれないが、そんなこともすっかり忘れ、教室の隅のカーテンに絡まってくるくる回っていたおれは、今週の着替える場所が、どっちなのかを確認しそびれてしまったのだ。

総計23

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おもいで-スマホがほしい

おもいで-スマホがほしい

スマホがほしい。ほしくてたまらない。

高校入学を前にした友達は、高校入試が終わると同時にガラケーからスマホに買い替えたり、新しくスマホを買ってもらっていた。
俺は、買ってもらえなかった。

同じ高校に行くことが決まったまっちゃんは、スマホを持ってる。いまはメールではなく、「ライン」というチャットのようなもので連絡をとっているらしく、春から同じ高校に通うことになる他の中学の人たちともすでにこのライ

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仙台城という城が、ない

仙台城という城が、ない

仙台には、仙台城という城が、ない。ないのだ。

いや、正確には「あった」のだが、第二次世界大戦時に焼失してしまい現在はその跡しか残っていないのだ。

ふざけんな
ねえのかよ!!なにが仙台城"跡”だよ!!申し訳程度に書くなよ!!よく読んでなかったじゃねえか!!

それも、俺は跡地をみて初めてないことに気がついたのだ。散々肩透かしを喰らった俺はもう、仙台城に対する憤りを抑えきれない。

険しい坂道を登

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2018年に置き去りたいおもいでー大学不合格体験記

2018年に置き去りたいおもいでー大学不合格体験記

今年においていきたい、大学受験のことについて書きました。たぶんこのさき一生この話をしないと思います。

受験が終わってからはや二年、べつに根に持ってるわけでもないのですが、3年以上たってもなお受験の話をしているともう過去の栄光にすがろうとしてる老害感すごいし、受験終わった直後に受験ネタで笑い取ろうとしても強がってるようにしかみえません。これくらいの時期がちょうどよいのではないでしょうか。

因みに

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おもいで-卒業式

おもいで-卒業式

小さい頃から、自分ひとりだけが取り残されるのが怖かった。

風邪でひとりだけ遊びに行けない日の家の中とか。

皆がすやすやと眠る中、自分ひとりだけが寝付けない修学旅行の夜だとか。

皆が何一つ苦労せずにできること。

そんな当たり前のことができず、ひとり取り残される。

その感覚が怖かった。

そして僕はこの瞬間、またひとり取り残されそうになっている。

今日は小学校の卒業式だ。

6年間過ごした

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おもいで-そして誰もいなくなった

おもいで-そして誰もいなくなった

ラインがきた。

普段めったにこないライン。女性からのラインだと期待に胸を膨らまし、スマホに飛びついた。

しかし違った。

後藤という、男だった。

よりによって、後藤

後藤は、男の中の男だった。

バスケをこよなく愛し、バスケのために生きていた。

普段多くは語らない男だが、口を開けばバスケ、バスケ

バカのひとつ覚えのようにバスケと言っていた。

中学、高校とバスケに励んだ彼だったが、高校

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おもいでー髪の毛は、呪文を唱えると切ってもらえると思ってた

おもいでー髪の毛は、呪文を唱えると切ってもらえると思ってた

髪を切ってもらうとき、いつも困ることがある。それは、どうやって理想の髪型を伝えるかだ。

写真を見せるのが手っ取り早いと、だれかから聞いたことがあるが、どうしても躊躇してしまう。

というのもやっぱり、「あっ、この髪型カッコいいな」と思う写真とは「かっこいいモデルさん」の写真。それをそこまでかっこよくない自分が美容師さんに見せる構図を想像するだけで、恐ろしくなってしまうからだ。

「今日はどんな感

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おもいでーだけど、花火大会は来年もあった

おもいでーだけど、花火大会は来年もあった

中3の夏、俺はどうしても花火大会に行きたかった。

自分は特別に花火大会に対する執着が強かったと思う。

というのも毎年この時期は、家族で遠く離れた祖母の家に行っていたので、ほとんど観たことがなかったからだ。

最後にみたのは五歳のとき。母と、1歳になる弟が一緒だった。花火が上がる川は混むからと、会場の近くの公園で。

会場からは少し距離もあったが、それでも花火は大きくて、真っ暗な空が赤や黄色に染

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おもいでー救世主

おもいでー救世主

遠くへ行きたい。

そう思った。

もう限界だった。

これまでに、いくつの問題と向き合い、いくつの事実を知ったことだろうか。

地理に数学、物理化学、英語と現古漢。

昨日までは必死に食らいついていた問題の数々だが、今となってはもう、まともに向き合う気力すら無かった。

正四面体の辺上を歩くアリがn秒後に全頂点を訪れている確率Rn

知りません。

人は、バスケット選手の数を数えている最中にゴリ

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おもいで-弟・レイタ

おもいで-弟・レイタ

年の4つ離れた弟がいる。

はっきり言って、彼とは相当仲が悪い。

こないだ弟の卒業式に出席した際には、他の兄弟が仲良く肩をくみあいながら写真を撮るのを見て、咄嗟に自分も同じことをしてみようと思い弟の肩に手を伸ばすと、奴は露骨に嫌な顔をしてみせた。

それほどに仲が悪い。

人間、4つも年が離れてしまってはわかりあえないのが世の常。

しかし年齢差以上に明確な理由がある気がしてならない。

そして

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