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おもいで-スマホがほしい

スマホがほしい。ほしくてたまらない。

高校入学を前にした友達は、高校入試が終わると同時にガラケーからスマホに買い替えたり、新しくスマホを買ってもらっていた。
俺は、買ってもらえなかった。

同じ高校に行くことが決まったまっちゃんは、スマホを持ってる。いまはメールではなく、「ライン」というチャットのようなもので連絡をとっているらしく、春から同じ高校に通うことになる他の中学の人たちともすでにこのラインで連絡をとりあっているらしい。

出遅れた、と思った。
説明会では、中学よりもはるかに大きい体育館がいっぱいになるくらいの新入生がいた。そんな大勢の人たち同士が仲良くなるために、みんなスマホを使って一斉に連絡を取っている。高校に入る前から友達になっている。高校に入ってからじゃ、遅いのだ。

母を必死に説得した。ダメだった。

「みんなって、あんたのいうみんなはいつも信用できないのよ」

はじまった。またこれだ。
母さん、もうゲームボーイのときとは違うんだ。今回ばかりは本当なんだよ、本当に"みんな"スマホをもっているんだ、、、しかしいくら話しても無駄だった。

ふがいない。
スマホを使うには、お金さえあればいい話ではないようで、保護者の同意も必要らしい。そもそも正月はお年玉のやりとりが面倒というドケチな根性の家系なので親族からお金を貰うこともなければ、月3000円のおこづかいでは到底自腹をきるわけにもいかない。

入学式が近づくにつれて、僕は日に日に焦った。
みんながみえないところでやりとりをしている。みえないだけに、不安はどんどん膨らんでいく。

もうすでに仲のいい友達のグループができているんじゃないか?
もうすでに、カップルができているんじゃないか?
もうすでに、16歳を迎える女子はみえないところで...結婚?



おしまいだ

もうどうすることもできない。文明は俺から輝かしい未来をごっそり奪い取ってしまった。まだ見ぬ友人、まだ見ぬ恋人、まだ見ぬ出会い。スマホを買えないだけなのに


ーー

果たして入学式の日を迎えた。

朝、一緒に学校に行く約束をしていたまっちゃんは、開口一番こんなことを言った。

「連絡網なんて久々につかったわ(笑)」

恥ずかしくて死にたくなった


学校へ向かう途中、電車の中で自分の不安をまっちゃんに打ち明けようかと思ったが、やめた。まっちゃんは、画面の上から降ってくるコロコロしたプーさんを指でつなげることに夢中になっている。こんな彼にスマホを持っていない人間の苦しみを伝えたところで、到底理解できないだろう。

そんなまっちゃんを見つめているのも不憫なので、仕方なくあたりに目を遣った。
するとどうだ。みんなスマホをみている。気だるそうなサラリーマン、同い年ぐらいの女の子、ベビーカーをおすお母さん。

みんな、スマホを使っている。どこをみても、スマホ、スマホ、スマホ。そのなかでひとり、スマホをもっていない。

じぶんだけ、じぶんだけ、そう考えると、なんだかさみしくなった。

下を向いたら泣き出しそうなので、上に目を遣る。
楽天カードマンが、優しく微笑んでいた。

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