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おもいで-弟・レイタ

年の4つ離れた弟がいる。

はっきり言って、彼とは相当仲が悪い。

こないだ弟の卒業式に出席した際には、他の兄弟が仲良く肩をくみあいながら写真を撮るのを見て、咄嗟に自分も同じことをしてみようと思い弟の肩に手を伸ばすと、奴は露骨に嫌な顔をしてみせた。

それほどに仲が悪い。


人間、4つも年が離れてしまってはわかりあえないのが世の常。


しかし年齢差以上に明確な理由がある気がしてならない。

そしてそこには、

やはり父・マサトの存在があった



「鉛筆をなくした」、「漢字ドリルをやっていなかった」、「学校で配られたプリントを親にわたさなかった」...

なにかと悪いところを見つけては、これでもかという程に厳しく叱りつける父。


「お前なんか学校やめちまえ」といっては教科書を家の外に投げ捨てたり、

「お前はもう家の子供じゃない」といっては外に締め出したりする。


鉛筆一本を紛失したことの対価が、教科書の投棄、そして勘当

いうなればそれは、オーバーキル


そしてもちろん、このように怒られるのは自分だけではない。

そう、弟であるレイタも同じようにして怒られていたのだ。


ある日のこと



父は、レイタに言った

「俺が仕事をしている間、学校の宿題をやるように」


レイタは机に向かうと、しぶしぶ言われたとおり勉強を始めたようだった。


へ~~勉強なんかしてやんの

とくにやることもないおれは、その横で寝っ転がりながらドラえもんを読んでいた。



しばし時間がたった。


「ふ...ふふっ」


誰かが吹き出す声が聞こえる。

レイタのほうに目をやると、彼は、俺に感化されたのか漫画を読み始めていた。


なんだ、結局勉強なんかやってねえじゃんか

偉そうに教科書なんか広げちゃって

これお父さんが知ったら...



ん?


すると次の瞬間、ある疑問が頭をよぎった。





これを、

父が、

知ったら





どうなるんだろう






気づけばおれは、父の部屋の扉を叩いていた。


「父さん。ちょっといいかな」

「どうした」

「レイタは今、本来なら、勉強をしているはずだよね」

「そのはずだが」

「俺もはじめはそうだと思ったよ。だけどね父さん、違ったんだ」



一呼吸おいておれは言う


「あいつ今、漫画読んでたよ」





その言葉を聞くと、父はパソコンをカタカタする手を止めた。


そして言う。

「...そうか」



俺は、父の部屋でこっそりとその一部始終をうかがっていた。


仕事をやめ、忍び寄るように弟のいる部屋へと向かう父。

そして、突然そのドアを開ける。





バタン

「えっ」


不意を突かれた弟の声が聞こえる。




「今まで何をしていた」






「ノートを見せてみろ」




さあ、



「さっきから進んでないな」


「右手にあるそれは、何だ」


いよいよ、


「そうか」





「来い」


「いいから来い!!!」


開幕だ





突然、もう言い訳もできなくなった弟の最後の命乞いが聞こえてきた。



ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


「見苦しいぞ」


もうしないから!!もう もうしないって!!はな はなしてよはな ぐあああああごめんな ごめんなさいってばああごめ ごめんなさいいやだ 外には そ そとはいやだってごめん ごめんなざいってばああごめんなざああ いだい いいたいってそんな ひきずらないでいやだ!!いたいってばごめんなざいい


バタンッ


玄関の戸が開いた。

外の冷たい風が、家の中に吹き込む。


「もうお前は、家の子供じゃないんだ」


やめてっ!!ごめんなさもうしないから!!!もうしないから!!!もうしないかねえ!!!やめて!!!そとは!!!やめねえごめんんあごめんなさい!!いれて!!!いれてってばあああああああああああいやだあああああ

バンッ

ガチャッ ガチャッ




あけてええええええええええええええぇぇぇぇ!!

あけてよおおおおおおおおおおおぉぉぉ


あけ あけてぇぇぇ........


ああああぁぁぁ.......



.......



...









なんというか、


なんというかもう俺には



しめしめ感しかなかった


こんなことがあって以来、気づけばおれと弟は、お互いのあらを探し合うことしかしなくなった。


仲が悪くなるのも無理はない。

しかしお互いもういい年だ。

近い将来、腹を割って語らえる日が来ることを願ってやまない。

そんな、今日このごろ。

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