マガジンのカバー画像

なんらかのレビュー

75
本・漫画・映画などのレビュー置き場
運営しているクリエイター

#コンテンツ会議

認知の歪みは、加害者だけのものか?:「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」

認知の歪みは、加害者だけのものか?:「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」

ハヤカワ五味さんのツイートでこの本を知りました。

かなりショッキングな話も出てくるのですが、最近疑問に思っていたことの答えが書いてあったり、とてもおすすめなので(3時間くらいで一気読みしました)、すごく長くなってしまいましたが…内容をまとめてみました。今後さらに書き足すかもしれませんが一旦力尽きたところで公開してみます…。

著者の斉藤章佳さんは、東京都豊島区の大森榎本クリニックに所属されている

もっとみる
勝手に整数にしないでよね:『夫のちんぽが入らない』

勝手に整数にしないでよね:『夫のちんぽが入らない』

※この作品には漫画版もありますが(漫画版も好きなのですが)このレビューは原作の小説について書いたものです。 
======

面白いものをカテゴライズする方法って無限にあると思うけど、私の考える一つは、「交響曲的か、非交響曲的か」。

交響曲にも色々あると思うけど、今日日本で人気の高い曲の多くは、計算されまくってカタルシス(多くは第4楽章)に向かってくものだと私は考えている。それぞれの楽章にも緩急

もっとみる
キャラクターのチューニングについて:『凪のお暇』漫画版とドラマ版の比較

キャラクターのチューニングについて:『凪のお暇』漫画版とドラマ版の比較

中学の美術の時間、長方形の中をいくつかに区切って、鉛筆で白から黒へのグラデーションを描く、という課題があった。私は絵は得意なほうだと自負しており、だからこの課題にも結構自信があったのだけれど、教室を巡回していた先生に、こう言い放たれた。

「うーん、全然、段階の描き方が粗いねえ」

3メートルもの高さを誇るプライドを持つ私は(心理テスト調べ)、だからこういうことを言われると一生覚えているのだけれど

もっとみる
よい群像劇について、あと、世界を変えるのは正論じゃなくて物語じゃないかと思うことについて:『愛の不時着』

よい群像劇について、あと、世界を変えるのは正論じゃなくて物語じゃないかと思うことについて:『愛の不時着』

Netflixで配信されているドラマ『愛の不時着』全16話を観終わった。

これを観るために2020年生きていてよかったと思うくらい、とても素晴らしい作品だった。

私はことあるごとに泣いているため、私が「泣いてしまった」と言ってもなんの迫力も出ないんだけど、恋愛ドラマそこまで興味ない~という私の恋人まで泣いていた。これはただごとではない。

このドラマに詰め込まれている要素は多すぎて(ラブコメか

もっとみる
Netflix『愛の不時着』は北朝鮮生活体験ドラマ(でもあった)よ

Netflix『愛の不時着』は北朝鮮生活体験ドラマ(でもあった)よ

ネット上、あちこちで話題になってたからいつか観たいなーと思ってたんだけど、リアルの友達からヒョンビンの名前が出てきたこと、ついに鈴木涼美さんのコラム↓でも言及されたことから、時は満ちたと腹をくくったよ。

うん、これはね…流行っちゃうよね…

リ中隊長がかわいすぎるだろ的な話も描きたかったんですが、
麺の絵で力尽きました…
空港のシーンの到着便がめっちゃ少ないところとか、おおお北朝鮮だぜぇぇという

もっとみる
ああ、愛しのごみ屋敷:『堆塵館』

ああ、愛しのごみ屋敷:『堆塵館』

今日はエドワード・ケアリー作、古屋美登里訳の『堆塵館』レビューです。小説です。もともとは十代の少年少女向けに書かれたものだそう。三部作なのですが、私は一部『堆塵館』と二部『穢れの町』が特に好きです。

まずは、あらすじ(東京創元社のページより引用)。

ロンドンの外れの巨大なごみ捨て場。幾重にも重なる山の中心には『堆塵館』という巨大な屋敷があり、ごみから財を築いたアイアマンガー一族が住んでいた。一

もっとみる
支配から降りて、同じ目線で歩くこと、そのまぶしさ:『聖なるズー』

支配から降りて、同じ目線で歩くこと、そのまぶしさ:『聖なるズー』

ノンフィクション作品『聖なるズー』が、ものすごくものすごくよかったから、熱烈におすすめします…。

―――

ズーとは…
動物性愛者を意味するズーファイル(zoophile)の略語。

動物性愛とは…
人間が動物に対して感情的な愛着を持ち、
ときに性的な欲望を抱く性愛のあり方。
獣姦とは、似て非なるもの。

⇔獣姦(bestiality)
 ・動物とセックスすること
  そのものを指す用語
 ・そ

もっとみる
私たちは違う国に生きているけど、それでも一緒にいることはできる:『違国日記』

私たちは違う国に生きているけど、それでも一緒にいることはできる:『違国日記』

やっぱり、この漫画に救われた記憶が色合わせないうちにレビューを書いておきたいと思いました。
思い入れのある漫画なので長文になっちゃいそうですが…。

ざっくりとしたストーリー----
高代槙生(こうだい・まきお)は
35歳の少女小説家。

群れることを好まず、ひとりの時間を大切にしていたが、姉夫婦が交通事故で亡くなり、その娘である15歳の朝(あさ)を引き取ることにする。

亡くなった姉は生前、

もっとみる
お金がなくても生きていけるよ、頼るのさえちゃんとできればね:『しょぼい起業で生きていく』レビュー

お金がなくても生きていけるよ、頼るのさえちゃんとできればね:『しょぼい起業で生きていく』レビュー

著者のえらいてんちょうさんは、「朝起きるのが苦手だったため、はじめから就職活動をせず、なんの経験も計画もないまま、しょぼく起業」(プロフィールより)した方とのことで、いろんな生き方を提示してもらえるのは希望になる、とは思った。

完全同意ではないけど、参考になるところはたくさんある本。

---
目次第1章 もう、嫌な仕事をするのはやめよう
第2章 「しょぼい起業」をはじめてみよう
第3章 「しょ

もっとみる
結婚したら、恋愛は封印しなくちゃいけないんだろうか?:『1122』

結婚したら、恋愛は封印しなくちゃいけないんだろうか?:『1122』

いい夫婦の日ですね…。

そして、渡辺ペコさん『1122』6巻発売日…ということで

あらすじいちことおとやは、結婚7年目の30代の夫婦。

好みも考え方も近く、なんでも話し合える仲のいい夫婦だが、セックスだけは、しない。

ある出来事をきっかけに、「家庭にセックスを持ち込まない」ことにしたから。

いちこは、おとやの不倫をルール付きで認めており、おとやは第3木曜日だけ既婚者の「恋人」

もっとみる
映画『JOKER』について、何も言えなくなっちゃったけれど、せめてその理由くらいは書いておこうと思う

映画『JOKER』について、何も言えなくなっちゃったけれど、せめてその理由くらいは書いておこうと思う

アメコミ映画のステレオタイプは、「なんか演出が激しくて、中身自体は薄っぺらい」みたいなものじゃないかと思うけれど、少なくとも昨今の映画はそんな大味なものではない、と思う(真面目に観たのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と『デッドプール』くらいだけれども)。『JOKER』は、その味の「繊細さ」がずば抜けている。

ざっくりストーリー母に「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」と言われて育ったア

もっとみる
私は、もう祈ることを信じられない:『天気の子』

私は、もう祈ることを信じられない:『天気の子』

(いまさらですけれども
 ややネタバレありなので注意)

恋人の推薦を受けて一緒に観に行ったが、
彼ほど熱くなれなかった。
私は今回が初見ということもあると思うけど
(彼は1回見て、町山智浩さん&宇多丸さんの評を聴いて今回2回目)。

端的な感想絵は好き。好きなキャラクターもいる。
好きなシーンもある。
音楽と練り上げられるカタルシス、最高。
が、ヒーローとヒロインの(特にヒーロー)の成長、相手が

もっとみる
その敵は、永遠に、絶対に、あなたの敵なのか?:『進撃の巨人』

その敵は、永遠に、絶対に、あなたの敵なのか?:『進撃の巨人』

(ややネタバレありですので、今更ですが、未読の方はご注意ください)

絵がうまいに越したことはないが、それよりも大切なのは漫画力だと痛感させられる作品。

新しい方の巻はストーリーが複雑になってきて読む速度が下がったが、3日で全巻(29巻)読んでしまったよ…。

複雑で読みにくいとはいえ、メッセージについて考えると後半こそとても大事だと思う。国にしてもSNSにしても敵対ばっかりが目につく今こそ、読

もっとみる
私はこの気持ちを知っている:『塩田千春展:魂がふるえる』

私はこの気持ちを知っている:『塩田千春展:魂がふるえる』

辛酸なめ子さんのSPURの記事を読んでから、ずっと行きたいと思っていた塩田千春展に行く(この記事で紹介されてる塩田さんが参加したワークショップが気になりすぎたため)。非常によかった。とても新しいのに、この展示を見て感じた気持ちは、幼いころしょっちゅう感じていたものと同じもののように思われた。例えば、マンションの建物と建物の間で、黄色や水色の透き通るBB弾を拾って、チョコベビーの空き容器にたくさんた

もっとみる