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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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#近現代史

文学からパレスチナ問題を知る④~「ハイファに戻って」

文学からパレスチナ問題を知る④~「ハイファに戻って」

前回はこちら。

 パレスチナを代表する作家ガッサーン・カナファーニーを紹介する本連載は、今回が最後です。最終回は、1969年発表の「ハイファに戻って」を取り上げます。
 作品を紹介する前に、前提となる知識を説明しておきましょう。

「ハイファに戻って」の背景知識 ハイファは、現在のイスラエル北部、地中海に面する港町です。アラブ人(パレスチナ人)の土地でしたが、1948年にイスラエル領となりました

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【書評】ニコラス・スパイクマン「平和の地政学」(芙蓉書房出版)

【書評】ニコラス・スパイクマン「平和の地政学」(芙蓉書房出版)

 今世紀に入ってブームとなった感のある地政学。今や、書店には「地政学」を冠した本が数多くあります。私も最近、下記の本に関わりました。

 手に取りやすい本で入門するのはいいことですが、やはり古典的な書物を読んだ方が本当の教養につながるでしょう。

 とはいえ、地政学の祖とされるマハンやマッキンダーの著作は、一般にはハードルが高いように思われます。マハンの文章は非常に難解ですし、マッキンダーの著書は

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【書評】木村裕主『ムッソリーニ ファシズム序説』(清水書院)

【書評】木村裕主『ムッソリーニ ファシズム序説』(清水書院)

 第一次世界大戦後にドイツ・イタリアや日本などでおこったファシズム(全体主義)は、第二次世界大戦の惨禍を引き起こしました。その歴史から現代人が学ぶことは多いはずです。

 しかし、ヒトラーの関連書が無数に手に入るのに比べ、彼と双璧をなすイタリアのムッソリーニの評伝は、日本語では意外と多くありません。

 学校の歴史の授業だと、ムッソリーニはヒトラーの添え物のように扱われている感じは否めません。しか

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【書評】萩原淳『平沼騏一郎』(中公新書)

【書評】萩原淳『平沼騏一郎』(中公新書)

 1939年8月、敵対していたはずのナチスドイツとソ連が突如独ソ不可侵条約を結び、世界を驚かせました。
 日本の平沼騏一郎内閣も衝撃を受け、「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」とする声明を発して総辞職しました。

 一般的に、平沼騏一郎の名は「欧州情勢は複雑怪奇」という「迷言」とともに記憶されています。もう少し詳しい人でも、右翼的思想の持ち主であったこと、戦後A級戦犯として裁かれ終身刑になっ

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【書評】小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)

【書評】小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)

 ロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアの軍事戦略についての関心が高まっています。著者はロシア及び軍事の専門家でもあるため、この分野を学ぶには外せない一冊でしょう。

 本書は2021年5月の発行です。ウクライナ侵攻より前ですが、余計な先入観なしに書かれているという長所があります。

 軍事の用語は無味乾燥な略語であることが多いのですが、本書は一般向けにできるだけ易しく書かれていると感じました。

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【書評】佐々木雄一『陸奥宗光』(中公新書)

【書評】佐々木雄一『陸奥宗光』(中公新書)

 陸奥宗光といえば、近代日本の悲願であった条約改正(領事裁判権の撤廃)を成し遂げた人物です。「カミソリ」のあだ名をつけられた切れ者で、優れた外交官として知られています。

 しかし、陸奥の実像はその説明にとどまるものではありません。本書は陸奥の生涯を簡潔にたどりながら、彼の実像を明らかにしています。

外交にとどまらない業績 陸奥宗光は、条約改正・日清戦争・下関条約・三国干渉という明治日本の激動期

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ル=ボン『群集心理』からヒトラー『我が闘争』の元ネタを探す

ル=ボン『群集心理』からヒトラー『我が闘争』の元ネタを探す

 大衆はなぜ簡単にデマに踊らされ、扇動されるのか。1895年に発行され、社会心理学の古典として名高い書物が『群集心理』です。

 著者のギュスターヴ・ル=ボン(1841~1931)はフランス人で、医学・物理学・人類学・社会学など広範な識見を有する学者でした。

 ル=ボンは『群集心理』の中で、群集の様々な性質を指摘しています。

・群衆は衝動的で、動揺しやすい性格を持っている
・群衆には論理的な思

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【書評】高田博行「ヒトラー演説」(中公新書)

【書評】高田博行「ヒトラー演説」(中公新書)

 たぐいまれな扇動政治家であったヒトラー。彼の武器は何といっても「演説」だ。だが、そのすごさを具体的に説明できる人はあまりいないと思う。

 本書の著者は歴史学ではなく、言語学方面の専門家(専門は近現代のドイツ語史)だ。なので、歴史の専門家とは違う新鮮な切り口で、ヒトラーの実像に迫ることができる。例えば、150万語に及ぶヒトラーの演説のデータを用い、単語の出現回数などを統計的に分析している。

 

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【書評】石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」講談社現代新書

【書評】石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」講談社現代新書

写真=1933年、全権委任法(授権法)成立後のヒトラー。

ヒトラーやナチ党については、次のようにイメージしている人が多いのではないかと思う。

「ナチ党が選挙によって議会の多数を得たことにより、ヒトラー政権が成立した。ヒトラーはドイツ人の信任を得ていたのだ」

「ヒトラー政権の初期には、優れた経済政策で世界恐慌の打撃から立ち直り、失業率も改善した。経済政策だけでみれば有能だ」

果たして、この認

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