東京大学映画研究会

「見たことある映画を、新たな角度で見るために。  見たことない映画を、試してみたくなる…

東京大学映画研究会

「見たことある映画を、新たな角度で見るために。  見たことない映画を、試してみたくなるように。」 東京大学映画研究会の、会員が書いたレビューを置くところです。 レビューに参加してみたい方はTwitterの@todaikeikenなどから連絡ください。

マガジン

  • No.8 人間の隠れた部分を描き出す映画たち

    人間には、いい部分もあれば悪い部分もある。悪い部分はいつもは隠れている。そうした部分を見つけて掘り返す映画がある。醜い部分とも、きちんと向き合わなくちゃダメだぞと。そうした勇気ある映画を集めます。

  • No.4 普遍の問題に取り組む哲学的な映画たち

    哲学に関してはいまだ古代から学ぶことがたくさんあるように、大昔に制作されていても、哲学的な映画は今の私たちに重要なことを教えてくれる。そうした映画を集めます。

  • No.9 空間と時間の芸術としての映画

    映画は場所も時間も、自由につなぐことができる。その可能性は無限大だ。そうした映画の持つポテンシャルを感じさせる作品を集める。

  • No.6 繊細な心情をすくいとる映画たち

    心をきちんとすくいとることは難しい。言葉、音楽、映像、演技。映画は様々な網を持っていて、それを重ねることで、とても繊細なひとひらの心をすくいとることができる。

  • No.1 社会を俯瞰しようとする映画たち

    社会は意外とその中にいると全貌が見えないものだ。だからこそ、鳥のような高い視点から、社会の全貌を1つの映画に表現する人がいる。そうした映画を集めます。

記事一覧

映画レビューは何のために?/映研活動報告002

当団体は、細々ですが先週までnoteに映画のレビューを載せていました。しかし、今は一旦やめて、webサイトの方に移行しようとしています。確かに、webサイトでそれぞれのレ…

「燃ゆる女の肖像」、恋愛ではない何か//映研movie archive

たまには、公開中の映画の話を。 とはいえ、レビューは、アーカイブとしてレビューサイト(東大映研公式サイト内)に記録しておくために書いているので、どこかの未来で、レ…

「今夜、ロマンス劇場で」と、人間の未来の選択

友人のWに、「今夜、ロマンス劇場で」を観たことを話したら、彼はこの映画を「ちゃんと作られたライトノベルみたいな映画だ」と評した。非現実と現実とが出会い、恋をする…

開発中のレビューサイトで、森を歩くように映画を探そう/映研活動報告001

東京大学映画研究会は、新しい形のレビューサイトを立ち上げた。 レビューサイトは映画研究会の公式サイトから見ることが出来る。 私は、レビューサイトを設計・デザイン…

「名も無き生涯」と、自然に従い生きること

テレンス・マリック監督が自然露光で撮った映像は、誰が見ても文句なしに美しい。監督は自身と同じカトリック教徒である主人公の生涯を、その自然のように文句無く美しいも…

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち、そしてツイストする物語

役者の人が、自分を売り込むために自分で脚本を書いて、自分が主演の映画を撮る、という話は割とある。自分が演じる役を自分で作るわけだから、自分が一番生きるようなキャ…

「ジョーカー」と、孤独の危険性

紹介がミスリーディングだと思う。「ジョーカーが悪になるまでを描いた物語」。これを聴いた人は、もう映画の話の筋を知った気になるだろう。しかし、実際の物語は、次どう…

大人たちにとっての「若おかみは小学生!」

児童向け作品を、わざわざ見ようという大人はそんなに多くないだろう。それは一体何故だろう?とふと思う。児童向け作品にも面白いものは多いのに。思うに、一つは先が読め…

アニメ映画「GODZILLA」は歴史の繰り返しから脱出したのか?

「スターウォーズ」シリーズとかもそうだけれど、根強いファンがいる映画の新作を作ることは非常にハードルが高い。当たり前だが、ファンは過去の作品が好きだ。だからこそ…

「アンドレイ・ルブリョフ」を、文学を読むように。

昔の文学を読むように、昔の名画を観ることができる、と思う。ただ昔の古き良き時代を懐かしむ、という目的ではなく。例えば夏目漱石の「こころ」が学校の授業で扱われるの…

映画の空想ではなく、リアルなものへと目を向けよ

もっと違うやり方をしなくてはならない。観ることも、書くことも、感じることも。映画とは結局、夢に描いた物を見せてくれるものなのだろうか。「エンジェル」という映画の…

「ファイト・クラブ」と、空虚なものへと陥り切らないもの

色々な人に取り上げられることが多い映画だと、観る前に観たような気分になることがある。「ファイト・クラブ」は超有名な映画ではないが、だからこそそれを持ち出して語る…

「タンポポ」と唯一無二のエッセイ

伊丹十三さんは色々な仕事をした。映画監督、俳優、CMプランナー、エッセイスト、料理人、、。しかし、どれを見ても、そこに伊丹十三という人そのものを感じる。だから、彼…

「ロミオ+ジュリエット」と映画の中の水

「ロミオ+ジュリエット」で描かれる恋には、常に水のイメージがつきまとっている。現代を舞台に翻案しているという新しさはもちろんあるけれど、もともとのロミオとジュリ…

「寄生獣」と人間を背負うこと

ちょっと前に流行った映画を今見ると、逆によりリアルさをもって感じられる映画がある。「寄生獣」には人間と人間に寄生する生物との戦いが描かれていて、寄生されている人…

「メアリーの総て」と、男性からの逃走線

男性の撮った映画に、時として女性がモヤモヤするように、ハイファ・アル=マンスールさんという女性の監督が撮ったこの映画を観て、モヤモヤする男性諸君もいることだろう…

映画レビューは何のために?/映研活動報告002

映画レビューは何のために?/映研活動報告002

当団体は、細々ですが先週までnoteに映画のレビューを載せていました。しかし、今は一旦やめて、webサイトの方に移行しようとしています。確かに、webサイトでそれぞれのレビューを自分でファイルごと1つ1つ管理するのは面倒ではあります。しかしそれも、書く人も見る人も心地よいレビューサイトにしたいという気持ちがあってのことなのです。

アーカイブのための映画レビューnoteがレビューを書くのに向いてい

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「燃ゆる女の肖像」、恋愛ではない何か//映研movie archive

「燃ゆる女の肖像」、恋愛ではない何か//映研movie archive

たまには、公開中の映画の話を。
とはいえ、レビューは、アーカイブとしてレビューサイト(東大映研公式サイト内)に記録しておくために書いているので、どこかの未来で、レビューサイトのアーカイブからこの文章に偶然出会った人に向けたものにしよう。

刺激と情報から成る現代の恋愛この先どうなるかは知らないが、これまではずっと、映画は恋愛を語ってきた。そして近年は多様性への関心の高まりとともに、男女に限定されな

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「今夜、ロマンス劇場で」と、人間の未来の選択

「今夜、ロマンス劇場で」と、人間の未来の選択

友人のWに、「今夜、ロマンス劇場で」を観たことを話したら、彼はこの映画を「ちゃんと作られたライトノベルみたいな映画だ」と評した。非現実と現実とが出会い、恋をする。自分はライトノベルに疎いからよく分からないけれど、確かにライトノベルで書かれていそうな内容だ。だけど、この映画は、「ライトノベル」という言葉ではとりこぼしてしまうような、重要な意味もまた持っている気がする。そうでなければ、ライトノベルと親

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開発中のレビューサイトで、森を歩くように映画を探そう/映研活動報告001

開発中のレビューサイトで、森を歩くように映画を探そう/映研活動報告001

東京大学映画研究会は、新しい形のレビューサイトを立ち上げた。
レビューサイトは映画研究会の公式サイトから見ることが出来る。

私は、レビューサイトを設計・デザインした当人として、今までとは違った、次観る映画の選び方の提案をしたい。そこで、このレビューサイトの使い方について、何回かに分けて、少しずつ説明していこうと思っている。
まずは、なぜ新しい形のレビューサイトを作るに至ったか、という話を。

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「名も無き生涯」と、自然に従い生きること

「名も無き生涯」と、自然に従い生きること

テレンス・マリック監督が自然露光で撮った映像は、誰が見ても文句なしに美しい。監督は自身と同じカトリック教徒である主人公の生涯を、その自然のように文句無く美しいものとして描こうとしたのだろうか。実際のところ、主人公に対する感想は観る人によって様々だろう。だからこそ、「善」について深く考えさせられる。

キリストが登場する前、古代ギリシャのストア派と呼ばれる哲学者たちは、「善」とは、自然に従って生きる

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グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち、そしてツイストする物語

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち、そしてツイストする物語

役者の人が、自分を売り込むために自分で脚本を書いて、自分が主演の映画を撮る、という話は割とある。自分が演じる役を自分で作るわけだから、自分が一番生きるようなキャラクターになって、その姿が映画を見た後に強烈に残る。例えば「ロッキー」では、シルヴェスター・スタローンの、役者としては欠点とみなされる部分が、むしろ主人公のロッキー・バルボアを魅力的なキャラクターにしている。

マット・デイモンが自分が演じ

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「ジョーカー」と、孤独の危険性

「ジョーカー」と、孤独の危険性

紹介がミスリーディングだと思う。「ジョーカーが悪になるまでを描いた物語」。これを聴いた人は、もう映画の話の筋を知った気になるだろう。しかし、実際の物語は、次どうなるのか分からない緊迫感に満ちている。

その緊迫感は、入り組んだ現実と嘘(虚構)から来ている。現実が嘘になった時、嘘が現実になった時、目の前の世界は反転する。反転の瞬間は、いつ来るか分からない。だから怖い。「マルホランド・ドライブ」とか、

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大人たちにとっての「若おかみは小学生!」

大人たちにとっての「若おかみは小学生!」

児童向け作品を、わざわざ見ようという大人はそんなに多くないだろう。それは一体何故だろう?とふと思う。児童向け作品にも面白いものは多いのに。思うに、一つは先が読めてしまうことにある。子供に、夢を潰すような話は見せられない。例えば「モモ」では、時間泥棒が人から時間を盗むが、さすがに盗んだままで話が終わることはない、ということは読む前から分かる(モモは、独創的な描写にあふれているので、それでも魅力は損わ

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アニメ映画「GODZILLA」は歴史の繰り返しから脱出したのか?

アニメ映画「GODZILLA」は歴史の繰り返しから脱出したのか?

「スターウォーズ」シリーズとかもそうだけれど、根強いファンがいる映画の新作を作ることは非常にハードルが高い。当たり前だが、ファンは過去の作品が好きだ。だからこそファンなのである。かと言って、過去の作品と似たようなものを作れば満足するかといえば、そうではないのである。それは過去の作品を上書きすることになるから、なのかもしれない。

世の中的には「シン・ゴジラ」は大成功ということになっている。確かに興

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「アンドレイ・ルブリョフ」を、文学を読むように。

「アンドレイ・ルブリョフ」を、文学を読むように。

昔の文学を読むように、昔の名画を観ることができる、と思う。ただ昔の古き良き時代を懐かしむ、という目的ではなく。例えば夏目漱石の「こころ」が学校の授業で扱われるのは、明治時代の風俗を知る、という意味ももしかするとあるのかもしれないが、やはりメインは、時代を超えて普遍的な問いについて、考えることにある。

「アンドレイ・ルブリョフ」を観始めた時も、50年以上前のソビエト連邦で制作された、中世のロシアを

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映画の空想ではなく、リアルなものへと目を向けよ

映画の空想ではなく、リアルなものへと目を向けよ

もっと違うやり方をしなくてはならない。観ることも、書くことも、感じることも。映画とは結局、夢に描いた物を見せてくれるものなのだろうか。「エンジェル」という映画の主要な舞台となる、「パラダイス」という名前の立派な豪邸。女流作家として一躍有名になった主人公はこの家を買い、恋人を住まわせ、彼女が幼い頃から憧れていた、優雅な暮らしを手に入れる。彼女にとってのパラダイスは、私たちにとっての映画のようなものだ

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「ファイト・クラブ」と、空虚なものへと陥り切らないもの

「ファイト・クラブ」と、空虚なものへと陥り切らないもの

色々な人に取り上げられることが多い映画だと、観る前に観たような気分になることがある。「ファイト・クラブ」は超有名な映画ではないが、だからこそそれを持ち出して語る人は多い。

例をあげると、NHK教育のある番組では、ボードリヤールが語った、現代の記号的な消費の空虚さを説明するための素材として、この映画が紹介されている。

確かに、主人公にブラッド・ピット演じるタイラーが話す言葉を聞いていると、お金を

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「タンポポ」と唯一無二のエッセイ

「タンポポ」と唯一無二のエッセイ

伊丹十三さんは色々な仕事をした。映画監督、俳優、CMプランナー、エッセイスト、料理人、、。しかし、どれを見ても、そこに伊丹十三という人そのものを感じる。だから、彼の作品は替えが効かないのだ。彼の代わりになる人が存在しないように。

「タンポポオムライス」というメニューが日本橋の洋食屋「たいめいけん」に存在するけれど、その由来はてっきりオムライスをたんぽぽの花に例えたものだと思ってたら、どうも映画「

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「ロミオ+ジュリエット」と映画の中の水

「ロミオ+ジュリエット」と映画の中の水

「ロミオ+ジュリエット」で描かれる恋には、常に水のイメージがつきまとっている。現代を舞台に翻案しているという新しさはもちろんあるけれど、もともとのロミオとジュリエットには無かった水のイメージもまた、作品に新鮮さをもたらした。ちなみに、劇中ではビーチが出てくるが、舞台であるイタリアのヴェローナには海は存在しない。

何故だか、水には自由を感じさせる力がある。「シェイプ・オブ・ウォーター」も、その名前

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「寄生獣」と人間を背負うこと

「寄生獣」と人間を背負うこと

ちょっと前に流行った映画を今見ると、逆によりリアルさをもって感じられる映画がある。「寄生獣」には人間と人間に寄生する生物との戦いが描かれていて、寄生されている人を必死に選び出そうとしている場面は、まるで現代みたいじゃないか…なんて考えたりも出来る。

原作漫画の筋と比較したりだとか、そんな細かいところには立ち入らない代わりに、映画を通して感じた印象を書いておきたい。それは、「人間としての責任のよう

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「メアリーの総て」と、男性からの逃走線

「メアリーの総て」と、男性からの逃走線

男性の撮った映画に、時として女性がモヤモヤするように、ハイファ・アル=マンスールさんという女性の監督が撮ったこの映画を観て、モヤモヤする男性諸君もいることだろう。

「メアリーの総て」の舞台は19世紀初頭のイギリス。当時は男尊女卑の風潮が強くあり、作中に出てくる男どもはやりたい放題だ。彼らは自由を愛していると言うが、彼らの言う自由とは結局のところ、身勝手や無責任を正当化する言葉にすぎない。男性は、

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