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グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち、そしてツイストする物語

役者の人が、自分を売り込むために自分で脚本を書いて、自分が主演の映画を撮る、という話は割とある。自分が演じる役を自分で作るわけだから、自分が一番生きるようなキャラクターになって、その姿が映画を見た後に強烈に残る。例えば「ロッキー」では、シルヴェスター・スタローンの、役者としては欠点とみなされる部分が、むしろ主人公のロッキー・バルボアを魅力的なキャラクターにしている。

マット・デイモンが自分が演じるために作ったキャラクターは、天才的な頭脳を持ちながら、恵まれない環境で育ったがゆえに貧しく、心を閉ざしている青年だった。とても難しい役どころだが、彼は見事に演じていて、こんなに幅があり、しかも繊細な演技ができる人だったんだ、と見る方は改めて気付かされる。

ピアニストとしても名高かったフランツ・リストが、自分で演奏するために、複雑で技巧的なピアノ曲を書いていたことを思い出す。この映画もそうなのだ。役者としての自分を信頼しているからこそ、複雑な心を持つ主人公の物語を書くことができた。

この「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」は、物語そのものもかなり複雑だ。ベースにあるのは、恵まれない人が、天からもらった才能で幸せを掴む、というアメリカ人お好みのパターンなのだけれど、それを何重にもツイストさせ、ひねりを加えている。

この映画と同じく、天才ゆえの人生の悩みを描いた映画だと、「gifted/ギフテッド」が記憶に新しい。両者のテーマは似ているけれど、「才能」の登場の仕方が結構違っているように思う。ギフテッドは、最初から才能それ自体が何となく負のイメージをまとっている。

一方で「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」は、才能が、あたかも不遇な状況を変えるための希望のような形で最初に現れる。だから観る人は最初、ランボー教授と同じように、才能が全てを解決してくれるような、そんな結末を夢想する。しかし物語はツイストし、そうした予想とは全く違った方向に観る人を連れていく。

そして「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」が最後に行き着くシーン。シーンというかエンドロールなんだけれども、あの終わらせ方もすごくいい。ネタバレになるから詳細は伏せるけれど、何がいいって、あの映像に、主人公のこれまでとこれからが全て詰まっているからだ。120分の長い物語の旅路の、綺麗なまとめになっている。

また本作の監督、ガス・ヴァン・サントも忘れてはならない。最近GUCCIのコレクションのための映画を撮っている彼は、若者を描くのが上手い。主人公とつるんでいる不良グループの馬鹿騒ぎシーンが序盤に結構あるけれど、ちゃんと主人公が抱えている孤独の冷たさが、そうしたシーンからも感じられる。こうした、若者の有り余ったエネルギーではない部分も見せるような映像を、もっと見てみたいと思った。