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男性が口を噤むのではなく、男性の言葉を引き出す一冊になってほしい チョ・ナムジュ/82年生まれ、キム・ジヨン

「それで、あなたが失うものは何なの?」

一番刺さったのは、この部分だった。

キム・ジヨン

この名前は、韓国において1982年に出生した女の子の名前で一番多い名前だった。この作品は、その時代に産まれた普通の女性の、普通の物語を描いた小説である。
しかし、これはただの小説ではない。キム・ジヨンが、一人の女性として、男社会の中で必死にもがいて戦う物語。まるでノンフィクション、ドキュメンタリーのような筆致で描かれている。

日本にもまだまだ蔓延しているジェンダー問題。それはきっとどこの国でもはびこっている問題なんだろう。
非常にセンシティブな内容なので、すぐには言葉を紡げない。問題が根深すぎるだけじゃなく、ひとつの、自分なりに選択した言葉が、相手にどう響くのかが少し怖くて。でも、頑張って書こうと思います。

フルタイム勤務

なんて、誰かが家にいて、家事と育児をやってくれる人がいることを前提とした働き方だ。大黒柱と呼ばれる家長がいて、その人は外で働いてお金を稼いできて、身の回りのことなんてする余裕がないからそれを支える専業主婦がいて、専業主婦は基本家にいるわけだから当然家のことも、子どもができたら子どもの面倒も見る。

時代は変わってきている。夫婦ともに働いて、夫婦で子育てをする。そんなことが言われてからもう何年が経つのだろう。結局、女性が働くといっても、男性が作り上げてきた社会に女性が合わせているに過ぎず、家で誰かが生活の面倒を見てくれるのが当然のような状況に仕組まれた現代社会では、定時は9-18。それじゃあいつまで経っても共働きで夫婦が子育てなんて無理無理。一人暮らしですらそんなに余裕ないんだから。そこに家族分の家事、育児が加わる。通勤に加えて保育園の送迎がある。

男性が「子どものお迎えに行く」と仕事を早上がりしたら、きっと「イクメンだね~」とか言われてヒーロー気取れんだろ。だれか、女性が「保育園のお迎えがあるので」って早上がりしたら「イクジョだね~」とか言って褒めてくれんの?そしてむしろ、共働きの役割分担として男性側が送迎を担ったとすると今度はきっと、「奥さんに逆らえないんだろうな~」という、女性蔑視の扱いを受ける。結局、これではいつまで経っても男性は家事を「手伝う」だけだし、育児を「手伝う」だけだ。そんな社会でいくら声高にフェミニズムを叫んだところで、「人の稼いだ金で生活しているくせにぴーぴーうるさい」で一蹴される。

いやいや。子どものために仕事をやめざるを得ない生活になってんの。あんたが何も変える気がないからこうなってんでしょうよ。別にわたし、あんたの出世望んでない、お金なら二人で稼いだらいい。自分だけで稼ごうと思わなくったっていい。
(※当方未婚のため、ただの妄想です)

結局共働きって言ったって、女性が失うものの方が多い。

「その分得られるものも多い」と言う人もいるだろう。確かにそうかもしれない。でもそんなの、やってみないとわからない。

わたしは自分自身が、接待や商談を仕事の一部とするような業界にはいないので、濃厚な男尊女卑が存在するような社会で働いているわけではない。だから、キム・ジヨンが体験してきたような、管理職からの露骨なセクハラは受けてはきてないけれど、それでも、お弁当を持参して職場で食べているだけで「自分で作ってるんスか!?秒で結婚できますね!」とか言ってくる奴には死ねって思うし、新年早々生徒から「女は30過ぎたら縁結びとかした方がいいですよ」とか言われると、酷く傷つく。

女性は、結婚・妊娠・出産に期限があると言う。確かにそうかもしれない。
でも、結婚しないといけないわけじゃないし、妊娠しないといけないわけじゃないし、出産しないといけないわけじゃない。それなのに、その経験をしていないと「かわいそうな女」のように扱われる風潮がある。
最近、こんな記事を見つけた。

「仮に産んでいないということが、ひとつの欠如であるとしても、それは経験の欠如ではなく、欠如の経験です。」(藤波玖美子さん)

女性は、結婚・妊娠・出産、そのすべての段階で、何かを奪われる。

結婚すれば、大抵苗字を奪われる。慣れ親しんだ、アイデンティティを形成してきた名前を変えることになる。男性は預金通帳も、仕事の名前も変えることなく生きている。女性は、名前の半分を、アイデンティティを奪われているのに。
妊娠すれば、女性は身体の変化による不安と体調不良に苦しむ。これまでと同じ生活を奪われる。男性は女性が妊娠しても、吐き気も苦痛もなく、普通に満員電車に乗って、仕事へ行って、日常生活を送る。
出産は、命懸けで行われる。仕事を休まなくてはならない。命以上に優先するものなんてない。当然、女性は仕事を奪われる。いくら制度を整えて男性に育休を付与したとしても、物理的な身体の変化が生じないため、休まざるを得ない状況には追い込まれない。

男性が、結婚・妊娠・出産を経て奪われるものなんて、実質ないのだ。いいところだけ見て、かっこつけることができるポジションにいる。さすが、社会を築いてきた男たち、立派です。

男性が家事と育児をしていると発信すれば、イクメンと称えられる。
もし、女性が家事と育児を「手伝っている」だなんて言ったら、SNSは大炎上するんだろう。

なぜ、男性が作ってきた社会に女性が合わせなければならない?
なぜ、価値観が変わって、法律が変わっているのに社会は変わらない?

女性が頑張って働けば「結婚に縁がないかわいそうな女」「これだから出会いを逃すんだ」と見なされ、定時で帰ろうとすると「女は楽でいいよな」「女はどうせ辞めるから出世も何も考えなくてもいいもんな」

このジレンマの中で、自分の人生で何を一番大切にしたいかを考えた時、必ず何かが犠牲になる。ただ生きるために仕事をして、それだけで常に何かに晒され、傷ついている感覚。

男女問わず、人間には長所も短所もあるんだから、それを性別に求めるな。
年長者が築き上げてきた功績をディスってるんじゃない。
同じことを、違う時代を生きる他人に求めるな。

共働きが普通になって、家で仕事をすることも普通になってきて、それなのにどうして、女性だけが、子育てをすることも、家事をすることも、当然のように求められる?
そしてそれは一体、誰に求められているのか?

こういうテーマで何かを話そうとすると、男性は責められているように感じてしまって口をつぐんでしまうだろう。

フェミニズム

という言葉を好きじゃない男の人だっているはずだ。

わたしはもっと、男性が不愉快に感じないような、ジェンダーの話を、フェミニズムの話をしたいのだ。
お互いに傷つけ合うことを目的とするんじゃなく、もっと、価値観を揺さぶり合うような。
魂に訴えかけるような。

男の人だって言いたいことはあるはずなんだ。ちょっと空いてる女性専用車とか、レディースデーで安くなる映画やご飯、結婚式の二次会のお金が女性の方が安いのとかずるいなって思ってるんでしょ?もっとそういうの言っていいんだよ。でも、飲み会のお金が安いのって女性からすると助かるし、男性がそこを補てんすることでお金あるアピールができるし、そこでお互いWIN-WINになっているところがあるから、この損得勘定を含んだジェンダー問題ってほんと根深いなって思う。

こうしたフェミニズム作品は女性からの支持が圧倒的だ。だから、男の人の声を潰してしまう。わたしは、それはしたくない。男性側の言い訳、どんどんしていいと思う。話さないと、始まらないから。

ヒートアップすれば、時に傷つけ合うこともあるかもしれない。じゃあどうすればいいんだよ!っていうことだってあると思う。だったらそうやって伝えたらいい。訴えたらいい。嘘で固めた優しい言葉よりも、その場をなだめるための空虚な言葉よりも、無遠慮な言葉よりも、無言よりも、暴力よりも、暴言よりも。しっかり言葉にしてぶつかってきてくれる方が、ずっといい。

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