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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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#哲学

『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

なんとも思想らしくないタイトルである。同時に、一般の人が手に取りやすいタイトルである。「人生」を問うことが、哲学であるかのように見なされやすい日本の風土では、こうした誘いは適切であるのかもしれない。
 
だが、実のところ、この問いは、哲学の中では案外疎い分野である。問われて然るべきであるのに、あまり問題にされない。日本人だからこれを問う、というのではなく、もっと原理的に、根柢的に、この問題は扱われ

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『死刑 その哲学的洞察』(萱野稔人・ちくま新書)

『死刑 その哲学的洞察』(萱野稔人・ちくま新書)

テーマは死刑、ただそれだけである。死刑は是か非か。そういうふうに受け止めても構わないだろう。だが、それを試験や感情で片付けるようなことをするわけではない。そもそもどういうことを根拠にそれを肯定するのか、否定するのか、などを考慮しようとする。そこが「哲学的」という意味なのだろう。だが、著者は社会理論を専門分野としているように、プロフィールで紹介されている。社会学的視点というものは、どうしても強く働い

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『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

大きな問い。人類の難問。哲学と縛ってよいかどうか分からないが、思想全般において、大きな問題となっていることを網羅する。「大いなる探究の現在地」という日本語が付せられている。一つのテーマを深める営みではないけれども、そもそも「現代思想」誌は、多くの論客の原稿が、10頁ずつくらいの長さで集められたものである。但し1頁あたりの文字数はかなり多いため、ボリュームはなかなかのものだ。連携して思索を展開すると

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『愛とラブソングの哲学』(源河亨・光文社新書)

『愛とラブソングの哲学』(源河亨・光文社新書)

九州大学で講師を営む著者は、美学方面でユニークな発言をしているようだ。これまでも、『悲しい曲の何が悲しいのか――音楽美学と心の哲学』などの、身近な実例に考察を向けている。この本が曲を中心としていたのに対して、今回は、歌詞をも含めて探求を深めている。
 
テーマは「愛」である。タイトルから当然だと言われそうだが、その「愛」たるものも、実に制限されている。大学生が話題にするような、そんな「愛」であるの

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『神さまと神はどう違うのか?』(上枝美典・ちくまプリマー新書)

『神さまと神はどう違うのか?』(上枝美典・ちくまプリマー新書)

ちくまプリマー新書というのは、もしかすると岩波ジュニア新書を意識したかもしれないが、「プリマー」というからには「オトナ未満」をターゲットにした新書シリーズである。物事を、比較的分かりやすく、ティーンエイジャーに伝わるように説き明かそうとする目的があると思われる。
 
なんだ、若向けか。そんな印象を与えてしまう可能性もあるが、少なくとも本書に限っていえば、そんなことは全くない。ガチである。確かに説明

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『現代思想2023vol.51-5 総特集 鷲田清一』(青土社)

『現代思想2023vol.51-5 総特集 鷲田清一』(青土社)

失礼だが、これだけ大きな特集をされるとなると、まさか亡くなられたのでは、と錯覚しそうだった。現代の哲学者としての第一人者であり、大阪大学総長まで務めるという教育者であり経営者でもあった。現象学を学び、それを「現場」で生かす「臨床哲学」という分野をもたらした。とくにファッションというものを哲学から読み取り、またそうした必要性を哲学のために生かした功績は大きい。文章の巧さも光っており、論文もなんだか「

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『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

私は電子書籍で読んだ。それが入手しやすいのではないかと思われた。
 
25匹のネコを飼う人の綴る、思索交じりの風景。哲学だけを求める人には、ネコの話が邪魔だろう。ネコだけを愛したい人には、哲学の話がうざいだろう。その意味では、中途半端な本である。だが、あいにく私はどちらも好きだ。楽しくて仕方がない。
 
拾ったり、かくまったりして、なんだかんだとネコが増えていく。
 
著者はギリシア哲学研究家。だ

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『良心学入門』(同志社大学良心学研究センター編・岩波書店)

『良心学入門』(同志社大学良心学研究センター編・岩波書店)

同志社大学良心学研究センターは、2015年に設立されたという。「良心」というキーワードを中核として、理系文系に拘わらず、凡ゆる領域で探求するという場であるらしい。現代社会での様々な問題の根柢に、「良心」が関わっているのではないか、という見通しの下、リベラルアーツ教育にも適う営みが始められたのである。
 
同志社大学は、新島襄により創立され、キリスト教主義を基本としている。近年そのリベラルさが、キリ

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『現代思想2022年8月 vol.50-10 特集・哲学のつくり方』(青土社)

『現代思想2022年8月 vol.50-10 特集・哲学のつくり方』(青土社)

面白かった。そもそも哲学とは何か。そんなベタなことを問う企画が、近年殆ど見られなかった。あるのは、100年前に生まれたような方々の、真面目な人生論が問いかけて、哲学とは、と語るようなものばかりだった。ポストモダンすら歴史的産物となったような中で、もはやかつての哲学などという姿とは無縁な思想状況となっているようだ。互いに通じない言語を用いてあれこれ論評するかのようなものが、なんだかファッショナブルに

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読書の契機と今後

読書の契機と今後

中学生のとき、数学が面白かった。それで、大学でも数学を学ぼうと漠然と考えていた。だが、勉強以外のことに熱を入れたこともあり、数学というものをそれほど真剣に考えていたわけではなかった。数学科を受験したが、かなわなかった。当然だったと言える。
 
その頃、哲学という分野があることを知った。いや、自分の関心のあることが、ひとつの学問として存在しているということを知った、と言ったほうがよかった。なんと知恵

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『今、教会を考える』(渡辺信夫・新教出版社)

『今、教会を考える』(渡辺信夫・新教出版社)

戦争の罪責問題を扱っているというので、読みたくなった。新刊はなさそうだったが、幸い、古書で定価の3分の1の価格で入手できることが分かったので取り寄せた。美本だった。そして、読み応えのある本だった。また、私の期待を裏切ることがなかった。
 
1997年発行。表題の文字の一部のようにして、「教会の本質と罪責のはざまで――」と書かれてある。これもタイトルに入れるべきかとは思うが、さしあたり大きな文字のほ

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100分de名著 ハイデガー『存在と時間』

100分de名著 ハイデガー『存在と時間』

番組開始当時から興味深く視聴している。Eテレの「100分de名著」。司会者が伊集院光氏にかわり、より庶民的になったが、この人の直感とでもいうのか、その本の世界に対する感覚は非常に優れているものと見ている。具体的に自分の問題に引きつけて理解することは大切な一つの道である。
 
2022年4月からのハイデガーも、楽しみである。いよいよ『存在と時間』が取り上げられた。カントの著作も2つこれまで取り上げら

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『いつもの言葉を哲学する』(古田徹也・朝日新書)

『いつもの言葉を哲学する』(古田徹也・朝日新書)

2021年12月発行。ウィトゲンシュタインについての分かりやすい本を書いた人だと後で気づいた。言語についての堅い話がお得意である。が、これは至って分かりやすい。「いつもの言葉」なのだ。なにげなく広く使われている言葉遣いだが、ふと考えると、何かおかしい。違和感が消えない。そんな言葉があるものだ。私は実はかなり多い。こだわる必要のない場面もあるし、事実使っているのだが、何か引っかかる。抵抗がある。そん

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『感染症としての文学と哲学』(福島亮大・光文社新書)

『感染症としての文学と哲学』(福島亮大・光文社新書)

2022年2月の発行。著者は中国文学科卒業だというが、そんな気配は少しも感じられない。西洋文学中心かと錯覚していた。文章が巧い。読ませる力があり、それはまた、読者がすいすい読めていながらちゃんと内容が把握できていくということである。一読して何が言いたいのかが伝わり、また少し複雑なところは、ただ読めば説明が即座になされるというようなスタイルで、読者に悩ませる暇を与えないのである。
 
もちろん、20

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