マガジンのカバー画像

アートのお部屋

52
運営しているクリエイター

#一度は行きたいあの場所

音と光と絵画の物語

音と光と絵画の物語

涼しい図書館の閲覧席で、ウサギは一人、じっと画集を眺めていた。ページをめくるたびに、彼女は絵の中に吸い込まれていくような感覚を楽しんでいた。

彼女の隣に、カメが静かに腰を下ろした。「モネの『睡蓮』を見ているんだね」彼は画集をちらりと見て、温かく微笑んだ。「ちょうど今、モネの『睡蓮』が見られる展示会があるんだ。一緒に行ってみない?」カメは優しくウサギを誘った。

日本橋三井ホールに足を踏み入れると

もっとみる
桜舞う夏の美術館

桜舞う夏の美術館

図書館の閲覧席でカメが静かに物語の世界に浸っていると、突然、フラフラとした足取りでウサギが現れた。

彼女は言葉を失ったまま、カメの隣の椅子に力なく座り込んだ。図書館の涼しい空気の中に、ウサギの全身から放たれる暑さが、そっと忍び寄るように広がっていった。

カメは「大丈夫?」と声をかけながら、彼女の目の前に、冷たいミネラルウォーターをそっと差し出した。

「その様子だと、かなりの涼が必要だね」とカ

もっとみる
旧万世橋駅の駅舎にて

旧万世橋駅の駅舎にて

図書館に向かって、汗を拭いながらゆっくりと歩いているカメの背中に、元気いっぱいのウサギが追いついた。
「ねえ、私、撮り鉄してみたいの!」ウサギは夢見るような瞳で、突然そう言った。

「電車の写真なら、図書館の分類番号686.2の書架にあると思うけど、自分で撮るならやっぱり現場だね」カメはそっと彼女の手を取ると、来た道を引き返し駅へと向かった。

電車を降りた二人は、味わい深いレトロなレンガ造りのマ

もっとみる
宙を飛ぶ大きな猫

宙を飛ぶ大きな猫

その日、ウサギとカメはGINZA SIXの広々とした吹き抜けの下で足を止めた。二人の目は、天井から吊り下げられた大きなオブジェに釘付けになっていた。ウサギはカメの袖をそっと引いて、小さな声で囁いた。

「ねえ、見て、あれ…。私の目には岡本太郎の太陽の塔に見えるんだけど?」

カメは目を細め、その大きなオブジェをじっと見つめた。しばらくの間、二人の間に静かな時間が流れた。

やがて、彼は穏やかに口を

もっとみる
竹久夢二とうさぎ

竹久夢二とうさぎ

弥生美術館から続く廊下を渡り、ウサギとカメは竹久夢二美術館へ足を踏み入れた。夢二といえば美人画が頭に浮かぶが、その印象とはまた別に、そこには夢二が描く動物の世界が広がっていた。

「竹久夢二といえば、猫を抱いている女の人の絵のイメージがあるけれど、こんなにかわいい動物の絵も描いていたんだね」とカメが話し始めた。

「こんなにもいろいろな動物を描いていたなんて、ちっとも知らなかったわ」と、ウサギは微

もっとみる
鏡花水月の庭園

鏡花水月の庭園

夕焼けが西の空に消えかかる頃、ウサギとカメは、ダイバーシティ東京の巨大なガンダム立像を通り過ぎ、シンボルプロムナード公園へと足を踏み入れた。

「私に見せたいものってなに?」とウサギがカメの顔をのぞき込んで尋ねると、彼は少し照れくさそうに微笑み、「もう少しだけ、秘密にさせてくれないかな」と答えた。

周囲は次第に人影もまばらになり、寂しさが漂い始めた。しかし、目を凝らしてみると、前方に小さな光がち

もっとみる
謎をよぶ デ・キリコ展

謎をよぶ デ・キリコ展

国際子ども図書館を過ぎたウサギとカメは、やがて東京都美術館に到着した。正面玄関のエスカレーターを降り、二人は「デ・キリコ展」の世界に身を委ねた。

ジョルジョ・デ・キリコ。その人物は謎に包まれている。時に画風を変え、さらには自らの作品を偽作だと訴え、裁判にまで発展させた画家だ。デ・キリコの作品は、まるで時空が歪んだかのような、不思議な雰囲気を纏っており、二人はその深遠なる謎に向かった。

「デ・キ

もっとみる
タローのダンス

タローのダンス

その日、ウサギとカメは不思議な力に引かれるかのように、表参道の岡本太郎記念館を訪れていた。降り続く小雨を置き去りにして、二人はそっと傘を閉じ、館内に用意されているスリッパに履き替えた。そして、ゆっくりと、絵画が待っている2階へと向かった。

「岡本太郎にダンスって、なんだかイメージがなかったけれど…」ウサギはそう言いながら、目の前の絵をじっと見つめていた。絵の中の色彩は激しく、それでいてどこか憂い

もっとみる