存在価値 (1分ショートショート)
10歳の娘が、クローゼットに置いていた金庫の暗証番号を、解読して開けてしまった。
「金庫の中から、パパが、俳優のドム・クルーズと肩組んでる写真とか、サインが出てきたの」
「彼は昔からの友人でね」
写真に目を落とす娘。
「本当に友達?ペアルック着てるけど。まさか、付き合ってたとか?」
妻が割って入ってきた。
「……あなた、もしかして、彼のスタントマンをしてたの?」
ギクッ!
ドム・クルーズは、スタントマンを付けないことで有名だ。
つまり、俺は完全なる影武者。
映画の字幕スーパーにも載っていない、存在するはずがない男なのだ。
守秘義務の契約書にも、サインした。違約すれば、100万ドルの違約金が発生する。
【一年後】
「スタントマンをしていたことを、娘がネットに載せてしまい、俺の顔は、全世界に拡散されてしまった。
そして、違約金も払えず亡命してきたんだ」
黙って話を聞いていた男が言った。
「それは大変だったな。ハリウッドも、もう、『ドップガン』や『ミッションインボッシブル』の続編は、作れないだろうな」
男は、テーブルの上に札束を置いた。
「実戦の方が、作りものの世界より、もっと君を必要としてくれると思うよ。先に、整形代を払っておく」
こうして、俺は、プーヂン大統領の影武者になった。
※すべてフィクションです。
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