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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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#まんぷく

運営会議

「腕を組んで考えようじゃないか」
「腕を組むってことは腕に腕を絡ませることだ」
「肘に角度をつけるってことだろう」
「プライバシーを保つってことだろ」
「腕の中で思索を深めるってことだ」
「猫をライオンに見せるってことか」
「子猫を見張るってことか」
「そうでしょうか?」
「そうとばかりは限らないさ!」
「限りなき問いだ」

チャカチャンチャンチャン♪

「私たちにはバリエーションがある」
「豊富

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俺たちのチキラ

俺たちのチキラ

 季節に逆らうようにかえってくる冷たい風に、ミリタリーシャツが張りついていた。泣くほどに寒い夜には、仲間とテーブルを囲まなければ耐えられない。行くところと言えば、だいたいいつも決まっている。俺たちの街、愛するものは何も変わらない。

「いらっしゃいませ!
 ラスト・オーダーになります」

 俺たちは案内も待たずに勝手に好きな席に着く。

「チキラ」
「俺も」
「同じで」
「俺もチキラ」
「一緒で」

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コンプライアンス時代劇

コンプライアンス時代劇

「ここで会ったが百年目。長かったぜ」
「待たせたようだな」
 ※ 本ドラマでは、時代背景を踏まえ、侍、商人、村人、浪人、旅人またその他の通行人を含めマスクを着けずに演技しております。ご理解の上でドラマをお楽しみください。

「今日という日をどれだけ待ったことか」
「ふん。執念深い奴だな」
「俺の刀を受けやがれ」
「望むところだ。しかし拙者は夕べから何も食っておらぬ」
「ならばまずは飯じゃ。腹が減っ

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その壁に注意せよ

その壁に注意せよ

 ネットのクチコミに踊らされたりはしない。私は自分の目を信じる。店の暖簾を見ればそれがどんな店かは、だいたいわかる。見過ごすべきか踏み込むべきか、真っ直ぐ暖簾を見ればわかるのだ。

「いらっしゃい」
 感じのいい大将だ。
 壁を見ればその店の歴史がわかる。どんな人が訪れ、どれだけ人々に愛されてきたか、誰に聞かずともすべては壁が語ってくれる。大物俳優のKが何度も足を運んでいるのがわかる。

「マグロ

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優雅なぶら下がり

優雅なぶら下がり

「卵ご飯でしょうか、卵かけご飯でしょうか?」

「それはまあ人によりけりなんじゃないんでしょうか。必ずしもこうでなければならないと一律に決まっているということはないと思います。あなたはどうです。ああそうですか。私がこうだと言うのはここでは差し控えたい。友達と語る場合と正確に伝える必要があるという場合では、また状況が異なるということもあるかもしれません。そこは総合的に判断してそれぞれの場面に応じて適

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冒険寿司

冒険寿司

 私を作っているものについて考えている。
 私は誰といた?
 どこにいた? 何を食べてきた?
 どうして私は私を問うのだろう?
 答えのない問いの中をさまよっていると行き着くところは空腹だ。
 ああ、寿司だ。
 寿司が食べたいぞ。
 お金なんてない。だけど、冒険心が潜らせる暖簾があるのだ。



「へい、いらっしゃい」
 基本のない寿司店だった。
 マグロやハマチなんてありゃしない。
 だから、

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良心的きつねうどん

良心的きつねうどん

 いくら味がよくても高すぎては駄目だ。それでは日常的に通うことはできない。商売とは、良心的でなければならないと思う。私は常にそのような店を探している。なかなかないね。この街を知るにはもう少し時間がかかりそうだ。

「お待たせしました。きつねうどんです」
 運ばれてきた丼からは白い湯気が立ち上がっている。
 おお! なんと心地のよい湯気だろう。いっそこのままおじいさんになったとしても構わない。器まで

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コースを飛ばせ

コースを飛ばせ

「前菜のサラダ、秋風添えでございます」
「いただきます。ごちそうさん。
おーい、食べたでー!」

チャカチャンチャンチャン♪

「前菜のポタージュ、秋の虫の哀愁添えでございます」
「いただきます。ごちそうさん。
おーい、食べたでー!」

チャカチャンチャンチャン♪

「前菜のフォカッチャ、秋の企みを込めてでございます」
 順々に出しやがって
 プログラムか!
「おーい! おーい!」

チャカチャン

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しめの一杯(さよならラーメン)

しめの一杯(さよならラーメン)

 大繁盛店ということで少しは期待して入ったのだが。他人の味覚ほどあてにならないものはない。麺は輪ゴムを伸ばしたようなものだった。スープの方は泥水に塩を入れたものと変わりなかった。私は思ったことがすぐ口から出るタイプだ。
「カップラーメンの方が旨いね」
 大将の手が一瞬止まった。
「それを言っちゃあおしまいよ」
 よかった。心の広い大将のようだ。その人柄に打たれて私は箸を進めた。食えたもんじゃあなか

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大甲子園メシ

 ファンファーレが鳴ってご飯が炊けたが、誰も「いただきます」を口にすることはできなかった。杓文字がないことがすぐに発覚したからだ。

「冗談じゃない!」
「どうやって装うと言うの?」
 今にもちゃぶ台がひっくり返りそうだった。

チャカチャンチャンチャン♪

「甲子園に行ってしまったわ」
 おふくろが事情を打ち明けた。
 10年に1度の甲子園が開かれたのだ。

「杓文字でホームランが打てるか!」

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カスタマイズ・ライス

「みそ汁の葱の量はどうしましょう?」
 そうそう。みんな同じじゃつまらない。
 ここは何でも事細かに注文できる素敵な店だ。

「それではご注文を繰り返させていただきます。
 サラダのドレッシングはマヨネーズ。
 豚肉の焼き加減、しっかり。
 みそ汁の味の濃さ、濃いめ。
 みそ汁の具の多さ、やや多め。
 みそ汁のスープの量、やや少なめ。
 みそ汁の葱の量、たっぷり。
 ご飯の炊き方、かため。
 以上

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