マガジンのカバー画像

【小小説】ナノノベル

326
短いお話はいかがでしょうか
運営しているクリエイター

#雨

哲学がいっぱい

 私たちはそれぞれに好きなものを注文した。
「中華そば」
「私も」
「ご注文を掘り起こします。あなたは塩ラーメン、あなたは味噌ラーメン。自分と何かを結びつけることは生きる基本です。あなた方は正しい。だけど、あなたは中華そば。そして、あなたも。あなたも? 待ちなさい今何と言ったの? まさかあなたも中華そばと? あなた! あなたとあなた、全く同じであることはできないわ。ここで生きていくためにはそれぞれ

もっとみる

ネームバリュー・サーバー

「魔法みたいな水だね」
「いいえ。名前の力よ」
 オレンジ、パイナップル、アップル、ストロベリー。
 欲しいものの名前を書いてからスイッチを入れるだけ。
 あとはサーバーの中の水がシェイクされて、数秒後にはその名の通りのジュースが完成する。この世に存在するものの名ならば、できないものはない。夢のような製品と言えた。

「あんず」
「何それ?」
 飲めばわかる。(書けばわかる)
 できあがったあんず

もっとみる
コールドゲーム(手番の生かし方)

コールドゲーム(手番の生かし方)

 駒の損得はほぼ互角だ。駒の働きは敵の角が隠居しているのに対して、私の角は攻防に利いている。玉の堅さは相手の方が上回っているが、私の方が左右に逃げ道がある。手番は私だ。(これが何よりも大きい)
 背筋の伸びは相手が猫のように丸まっているのに対して、私は少しは伸びているのではないか。顔の長さにおいては私の方が香車一枚ほど長い。眼光の鋭さ、それは計測不能ではないか。私は敵を真似て目を閉じた。その方がよ

もっとみる

ツッコミ耐久テスト

「最後の試験です。今から流れる映像に合わせて止まることなくツッコミを入れてください」
 バーチャル空間に現れるアクシデントに、俺は休みなくツッコミ続けなければならない。一瞬でも止まったら、俺はツッコミ失格だ。

 ・ Ready Go !  ・ ・ ・

「天井高いな!」
「ポメラをまな板にすな!」
「お茶熱すぎや!」
「セールばっかりやな!」
「鞍馬天狗か!」
「どこが先手やねん!」
「どんな囲

もっとみる
雨上がり鴉は街に

雨上がり鴉は街に

お、何だい鴉の野郎
でかい顔して下りてきやがった

「今日はあの猫はきてないのか
いつもならあの店の扉があいて
いつもあいつは背中丸めて
缶詰食べてるのに
まあ今日は雨だしな」

鴉が何ぶつぶつ言ってやがんだ

チャカチャンチャンチャン♪

「今日は雨で
雨だからどこかに
隠れているのかな
空腹を抱えながら
どこかで雨を待つのか
それとも他に行ったのか
僕はあの店先の
あの猫しか知らないからな

もっとみる
空が落ちてくる(本と姿勢)

空が落ちてくる(本と姿勢)

パラパラパラ♪

ページをめくる
音が気に入って
そればかりしていた

本とは
色んな向き合い方がある

立てかけてみる
寝かせてみる
むしろ自分の方が
寝っ転がって
さかさまにすると
物語が降ってきそうで
わくわくする

本をつれだして
街を歩く

抱えてみれば
随分重たくなった

ありがとう

この重たさが
時間をくれる
私をつくる

パラパラパラ♪

雨だ……

私の胸を蹴り上げて
逃げて行

もっとみる
友情猫出演(猫大接近)

友情猫出演(猫大接近)

 偶然を装った猫が通ることによって、話のきっかけとなる。予定時刻ちょうどに、猫が通りすぎた。
「この辺りは猫が多いみたいですね」
「そうなんですね」
「……」

チャカチャンチャンチャン♪

 猫がまた戻ってきた。

「やっぱり多いですね」
「ほんとですね」
「何か探してるんですかね?」
「そうかもしれませんね」
「……」

チャカチャンチャンチャン♪

 猫がまた戻ってきた。
 一瞬立ち止まり、

もっとみる
チープ夜空

チープ夜空

「夜空なの。それにしてはチープな星ね。
もしや雨?」
 そう見えるなら、
 いっそ雨として認められるのもいい。
「やっぱり違うわね。
雨ならもっと繊細でなくちゃ。
傘もないし」

チャカチャンチャンチャン♪

「これを星と思えるかしら。
もしやふりかけ?」
 そうだったかもしれない。
 星よりもずっと降りやすい。
「いいえ違うわ。
ふりかけにしては彩りに欠ける。
誰がこれでごはんを食べる?
いっそ

もっとみる
教えて!総理

教えて!総理

「それでは未来の総理、答えられる範囲でお願いします」
「どうぞお手柔らかに」

「もしも無人島に持っていくとしたら?」
「そうだな。炬燵とみかん、ポメラ、ラジオ、プレイステーションかな」
「総理、1つだけ」
「えっ、1つなの。じゃあラジオだ」

「明日の天気予報は聞かれましたか?」
「それは聞いてない。晴れるといいね」
「もしも雨が降ったら、その時は傘をさされますか?」
「どうだろう。少しくらいの

もっとみる
雨トーク

雨トーク

「何だ、誰かと思えば雨か
すっかり目が覚めちまった
雨の目覚まし時計か!
ばかやろう、今日は日曜日だい
まだはえーな」

チャカチャンチャンチャン♪

「しっかしよく降るね
いや待てよ。そういや久しぶりだね
雨ってのは久しぶりじゃねえか
いつ以来だ?
ちょっと天気予報をっと
ばかやろう、予報は未来だい」

チャカチャンチャンチャン♪

「まずいぞ。洗濯物を取り込まないと!
いや、洗濯なんかしてねえ

もっとみる
6月の妖怪

6月の妖怪

「そろそろ降るよ」
(さあ、準備をなさい)
 僕は傘の柄を握りしめ、傘のボタンに指をかけて構えた。(さあ、そろそろくるよ)少し緊張しながら、今か今かと警戒して歩いた。雨はなかなか降らなかった。そんなことが何度も繰り返された。

「そろそろ降るよ」
 今でもあの声を耳元に思い出すことができる。(用意はいい?)僕は傘の柄を強く握りしめ、傘のボタンに指をかけて構えた。次の瞬間に降り出しても、少しも濡れる

もっとみる