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コールドゲーム(手番の生かし方)

 駒の損得はほぼ互角だ。駒の働きは敵の角が隠居しているのに対して、私の角は攻防に利いている。玉の堅さは相手の方が上回っているが、私の方が左右に逃げ道がある。手番は私だ。(これが何よりも大きい)
 背筋の伸びは相手が猫のように丸まっているのに対して、私は少しは伸びているのではないか。顔の長さにおいては私の方が香車一枚ほど長い。眼光の鋭さ、それは計測不能ではないか。私は敵を真似て目を閉じた。その方がより一層盤面が鮮明に見える。邪念が生じないからだ。持ちおやつの数はどうか。相手はフリスクのようなものしか持っていない。それに比べ私は、グミ、サンミー、カントリーマアム、クランキー、それにカロリーメイトまであるではないか。総合的に判断して私は優勢と局面をみていた。

 次の一手はもう心に決めてある。読むほどにどうやらそれは悪手であることがはっきりしてきた。次の一手を境に挽回不能に陥ることが予想される。だが、私はどうしてもこの桂を跳ねねばならない。(跳ねるのが好きなんだもん)
 私がはっきりと優勢なのは「今」が最後かもしれない。
 私は手番を生かして窓の外を眺めた。雨足が一段と激しさを増している。敵が小さくため息をついた。

(コールドゲームにしませんか)



#雨 #ショートショート #小説 #将棋




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