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雨上がり鴉は街に

お、何だい鴉の野郎
でかい顔して下りてきやがった

「今日はあの猫はきてないのか
いつもならあの店の扉があいて
いつもあいつは背中丸めて
缶詰食べてるのに
まあ今日は雨だしな」

鴉が何ぶつぶつ言ってやがんだ

チャカチャンチャンチャン♪

「今日は雨で
雨だからどこかに
隠れているのかな
空腹を抱えながら
どこかで雨を待つのか
それとも他に行ったのか
僕はあの店先の
あの猫しか知らないからな
僕は何も知らないんだから」

鴉が何言ってやがるんだ
わけわかんねえこと言ってんじゃねえ
全く鴉ってのはしょーがねえや!

チャカチャンチャンチャン♪

「僕は虹を探してるのさ」

何をぶつぶつ言ってんだい
えーっ、この野郎が
人間は大変なんだぞ
恋に仕事に税金課金
色々と大変なんだぞ
わかってんのかー、てやんでい!

チャカチャンチャンチャン♪

「また降ってきたな
雨上がりも長続きしない
危うい朝だ
これからだんだん変わって行く
そういう雨かもしれないぞ」

鴉の野郎がうっせーんだよ
何が不満だかは知らねえがよ
全く鴉ってのは暇かよ
人間は考えること多いぞ
仕事に趣味に税金課金
世界平和に地球環境
もういっぱいいっぱいなんだぞ
やってられるかい、べらぼうめー!

チャカチャンチャンチャン♪

「コンビニ袋が風にのって
うさぎのようにはずんでいくよ
どこからきたのだろう
どこへ行くのだろう
ああ何か甘栗みたいな匂いがするな」

鴉が朝っぱらから何言ってやがる
ぎゃぎゃーうっせーぞこの野郎
くそっ鴉がー!
まあ鴉に人間の言葉はわかんねえか
いつまでもほざいてんじゃねえぞーっとこらー!

チャカチャンチャンチャン♪

「向こうに何だか柄の悪いのがいるな
もう僕も行かなくちゃ
どこか身を隠せるとこへ飛ぼう

さよなら、
あの猫のいない朝」



#不在 #詩 #雨 #落語 #小説

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