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記事集・H

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私は蓮實重彥(蓮實重彦ではなく)の文章にうながされて書くことがよくあります。そうやって書いた連載記事や緩やかにつながる記事を集めました。
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#言葉

立体、平面、空白(薄っぺらいもの・05)

立体、平面、空白(薄っぺらいもの・05)

 今回は、蓮實重彥著『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』のうち、「Ⅰ肖像画家の黒い欲望――ミシェル・フーコー『言葉と物』を読む」をめぐっての読書感想文です。

 この「フーコー論」は、「薄っぺらいもの」というシリーズを始めるきっかけになった文章の一つでもあります。初めて読んだのはずいぶん前のことですが、以来私にとって気になる文章であり続けています。

引用文の余白に書く

*「顔と視線との離脱現象」

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アンチ・アンチ

アンチ・アンチ

 蓮實先生と言えば、また思いだすことがあります。

 そう言われてみると、そうなのです。

 Empirisme et subjectivité、経験論と主体性、Nietzsche et la philosophie、ニーチェと哲学、Proust et les signes、プルーストとシーニュ、 le froid et le cruel、マゾッホとサド、冷淡なものと残酷なもの、原子と分身、Dif

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見えない反復、見える反復(反復とずれ・02)

見えない反復、見える反復(反復とずれ・02)

 人において、反復と「ずれ」(差違)は別個に起こるものではないし、対立するものでもないのではないか。そんな話をします。ややこしそうに聞こえるかもしれませんが、歌や詩を例にして具体的に話すつもりです。

見えない反復、見える反復
 唱歌「故郷(ふるさと)」(作詞:高野辰之、作曲:岡野貞)です。

 この歌では、ある反復が起こっているのですが、それは聞き取れるでしょうか? つまり、反復をずれとして聞き

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【レトリック詞】であって、でない

【レトリック詞】であって、でない

 私が勝手にレトリック詞と呼んでいる形式の散文を紹介いたします。戯れ言ですので、文字どおりに取ったり、真に受けないでください。今回は「であって、でない」というタイトルで、テーマは「文字を文字どおりに取る」です。

であって、でない
 であって、でない。

 Aであって、Aでない。
 Aという文字であって、Aというものではない。
 つまり、Aであって、Bでない。

     *

 であって、であ

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【モノローグ】カフカとマカロニ

【モノローグ】カフカとマカロニ

 似ている、似ていない、同じ、違う、複製、文字どおりに取る、文字どおりに取らない、人のつくるものは人に似ている、人のつくるものに人は似ていく、鏡――。こうしたテーマについてのモノローグです。

 以下の記事からつくった記事です。

 本記事は「【レトリック詞】であって、でない」という戯れ言を書いた記事に似ていますが、戯れ言のつもりで書いたものではありません。本気で書きました。正気かどうかは不明で

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知らないものについて読む

知らないものについて読む

 文芸作品そのものを読むよりも文芸批評を読むほうが好きでした。大学生時代はちょうど文芸批評の全盛期みたいな雰囲気があり、従来の印象批評の本が相変わらず続々出版され、フランス製のヌーベルクリティックとか英米加製のニュークリティシズム、そして日本でも新批評と呼んでいいような本や論考があいついで上梓されたり雑誌に発表されていました。

 つぎつぎに紹介される斬新な手法に興奮したのを覚えています。

 印

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異物を定義する(異物について・01)

異物を定義する(異物について・01)

「異物について」という連載をはじめます。私は連載が大の苦手なのですが、やってみます。今回は、異物を定義してみます。

異物を定義する
 文字どおりに取ってくださいーー。

 猫とはぜんぜん似ていないのに猫であるとされて、猫の代わりをつとめ、猫を装い、猫の振りをし、猫を演じている。そんな不思議な存在であり、私たちにとってもっとも身近な複製でもある異物。

 いま、あなたの目の前にある物です。

感じ

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【小話集】似ている、そっくり、同じ

【小話集】似ている、そっくり、同じ

 今回の記事はとても長いです。太文字のところだけに目をとおしても読めるように書いていますので、お試しください。なお、小話間で重複があるのは、そこが大切だという意味ですので、どうかご理解願います。

【小話0】
 似ている、そっくり、ほぼ同じ、同じ、同一を体感するのには、刻々と変っていく時計――アナログでもデジタルでも日時計でも腹時計でもいいです――を見つめたり、耳を傾けたり、触れたり、目をつむって

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言葉は嗜好品(言葉は魔法・03)

言葉は嗜好品(言葉は魔法・03)

 言葉と文字は人にとって最強の嗜好品かもしれません。なにしろ、さまざまな嗜好品をつかって言葉と文字を呼びだそうとするのですから。

書くときに必要な物
 書くときのルーティーンみたいなものが、誰にもある気がします。

 まず、これがないと文章を書く気になれないという物、つまり書くときの必需品ついての話から始めましょう。

 文房具にこだわる人は多いですね。愛用している筆記具はいとおしいもので、他

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