マガジンのカバー画像

本を読みながら

25
読書しながら考えたこと、思い出したこと、感想を綴るエッセイ
運営しているクリエイター

記事一覧

言語と哲学、記号論好きのための小説: 「言語の七番目の機能」ローラン・ビネ La septième fonction du langage

言語と哲学、記号論好きのための小説: 「言語の七番目の機能」ローラン・ビネ La septième fonction du langage

2015年に出版され、読もう読もうと思いつつ後回しにしていたら邦訳が出版されるほど時間が経ってしまいました。
今年出たばかりです。

持っていたので原書(フランス語)で読んでます。

アンテラリエ賞という文学賞を受賞しています。

ちなみにローラン・ビネ、2019年発刊の最新作 Civilizations (英語綴りなのにはアメリカ原住民がテーマであることが関係あるでしょうね)はアカデミー・フラン

もっとみる
誕生と死 : 「アンナ・カレーニナ」 IV レフ・トルストイ

誕生と死 : 「アンナ・カレーニナ」 IV レフ・トルストイ

(写真はモスクワ)

↑ 出産というとマトリョーシカを思ってしまうので、タイトル画像にしました。
ぽこぽこと産まれる感じがしませんか?

さて、19世紀のお産。
助産婦が「専門家」
前に触れたように、病院を作っても産科はありませんでした。
医療と思われていない時代です。

そして助産婦の台詞にこんなものが

「・・・(略)それから、薬局でアヘンを買っていらしてください」

・・・。
妊婦にアヘン・

もっとみる
人は矛盾だらけ: 「アンナ・カレーニナ」 III レフ・トルストイ

人は矛盾だらけ: 「アンナ・カレーニナ」 III レフ・トルストイ

(写真はすべてモスクワ)

「能天気な牛肉野郎め」

罵りの言葉は各語各国さまざまにあって、共通性も多いが、牛肉が罵倒語になるのは初めて知りました。

日本なら牛肉なら高級だし褒め言葉になっても良さそうです。
牛肉野郎と言われても、けなされた気がしないような。

豚はどこでもひどい罵倒に使われますね。
ぶた、かわいそう...。

第6部(光文社古典新訳文庫第3巻)まで進みました。大長編ですから主要

もっとみる
トルストイのリアリズム?: 「アンナ・カレーニナ」 II レフ・トルストイ

トルストイのリアリズム?: 「アンナ・カレーニナ」 II レフ・トルストイ

(写真はサンクトペテルブルクとロシアの風景)

ロシア文学を読んでも、涼しくはなりませんね。
極寒の冬の描写に期待したのですが、効果なしです。
わたしの頭の中のロシアでは、せっせと汗を流して農作業が行われていて、涼しいどころではありません。

「戦争と平和」の時代は貴族たちの第一外国語はフランス語でした。

時代がくだった本作では、フランス語がまだ主流ながら、プラス英語になっているのがわかります。

もっとみる
描写に酔う: 「アンナ・カレーニナ」 I レフ・トルストイ

描写に酔う: 「アンナ・カレーニナ」 I レフ・トルストイ

(スノードロップ以外の写真はペテルブルク)

途中になっている本をすべてわきによけ、読み始めました「アンナ・カレーニナ」。
浮世を離れて、遠くに行きたくて。

光文社古典新訳文庫全4巻、望田哲男訳

各巻の巻末に、望田氏の「読書ガイド」があります。
第1、2巻のこのガイドを先に読んだのが、とても良かったです。
読む方にはこの2冊はまとめて先に手元に置くと良いと思いました。
作品の舞台背景や、当時の

もっとみる
小説の中のレシピ: カボチャのシナモン焼き🎃ココナツオイルで

小説の中のレシピ: カボチャのシナモン焼き🎃ココナツオイルで

クッツェー「マイケル・K」

カボチャを育てたマイケルが、1人、カボチャを焼いて砂糖をまぶして食べるシーン。

さらにシナモンがあったら...

というわけで、シナモン大好き💕なので作ってみました。

わたしのした工夫は

先にレンジで少し柔らかくする
ココナツオイルを使う

ココナツオイルのおかげで香りが甘いし、表面だけに味がつけばいいので、普通に煮物を作るより砂糖がずっと少なくて済みます。

もっとみる
失われる能力 : 「パトリックと本を読む」 III ミシェル・クオ

失われる能力 : 「パトリックと本を読む」 III ミシェル・クオ

アメリカ南部、デルタ。北軍が勝とうが法律が変わろうが奴隷の子孫の状況は悪くなるか変わらないか。そこに自身も移民の子である著者が国語教師として赴任する。

読みどころは盛りだくさん。
著者の授業内容、生徒との接し方
デルタの現実
著者の将来設計への迷いと決断
そして事件と不公正な司法
パトリックと著者の二人の授業

アメリカの深部で日々起きていることや、当たり前になっている差別、構造の問題を、実態の

もっとみる
あきらめ :  「パトリックと本を読む」 II ミシェル・クオ

あきらめ :  「パトリックと本を読む」 II ミシェル・クオ

この本はアメリカの深部、アフリカ系のルーツを持つ人たちの現実を、台湾からの移民を両親に持つ著者が、まず教師として知ることから始まる。

差別の話題は好まれないようだと、I を公開してみて思った。
でも、また書く。

被差別階層の人たちを描くノンフィクションでもフィクションでも、「あきらめ」が状況をさらに悪くしてしまったり、あるいは「あきらめない」ことがアメリカン・ドリームや〈白人〉社会で名をなすこ

もっとみる
差別への反応の難しさ : 「パトリックと本を読む」 I ミシェル・クオ

差別への反応の難しさ : 「パトリックと本を読む」 I ミシェル・クオ

ボールドウィンやキング牧師やマルコムXが言及しているのは黒人と白人のことだけで、私はそのどちらでもなかったこである。...中略...。アジア人っぽい顔の人がテレビに出てくると(そんなのは珍しいけれど)、心臓の鼓動が速くなったり頭に浮かんだのは「これはジョークなの?」という問いではなく、「これはどういう種類のジョークなの?」という問いだった。

わたし「甘い和菓子はよく小豆が使われるんだよ」

友人

もっとみる
感想:「片手の郵便配達人」 グードルン・パウゼヴァング

感想:「片手の郵便配達人」 グードルン・パウゼヴァング

写真はチューリンゲン州

1944.8月から1945.5月のドイツ。
入隊後2週間で左手を失ったヨハンは、故郷に帰り、元の郵便配達の仕事に復帰している。

ヨハンが七つの村を歩いて回るため、どこにあるのか気になる。
地名をいくら探しても地図に出てこず、架空の地で想定はチューリンゲン辺り、と訳者あとがきで知る。

ドイツの真ん中、少し東寄り。
これはいまの国境線なので、当時だとほぼ中央になる。

もっとみる
【傑作!!】「ガーンジー島の読書会」 III

【傑作!!】「ガーンジー島の読書会」 III

写真はガーンジー島

読んでいる間にLe Mondeに掲載された記事で、ヴィクトル・ユゴがガーンジー島にいたことを知った。(最後まで読んだらユゴの名も出てきた)
数々の作品を発表し、「レ・ミゼラブル」もこの時期。
Le Mondeは購読者限定記事だけど、フランスのWikipediaのユゴはものすごい充実ぶりなので紹介しておく。
パラララと読んでいただけだったことを後悔中...
リンク→ https

もっとみる
島の〈ユダヤ人〉 ノイエンガメ収容所:  「ガーンジー島の読書会」 II

島の〈ユダヤ人〉 ノイエンガメ収容所:  「ガーンジー島の読書会」 II

写真はガーンジー島とベルゲン・ベルゼンの石碑

※フランス語訳で読んでいるため、固有名詞や訳文が邦訳と違う場合があります。

本作中(第2部:1946.5.27 ジュリエットよりシドニーへ まで読了時点)に、ジョン・ブッカーというユダヤ人が登場する。
読書会のメンバーで、島内にいるユダヤ人は全員登録をするよう命令が下ったとき、読書会の仲間の一部と相談し、他人の名前で偽の証明書を作り、登録を免れる。

もっとみる
占領されたイギリス領: 「ガーンジー島の読書会」 I

占領されたイギリス領: 「ガーンジー島の読書会」 I

記事内写真はガーンジー島

邦訳本絶版、中古本は高額。たまたまフランス語訳を見つけられた。原書の英語で読むのがベストだろうけど、今回はこれでいいことにした。

映画「ガーンジー島の読書会の秘密」の原作

不勉強でガーンジー島の第二次大戦下の歴史を知らなかった。読み始めてすぐ、ガーンジー島で起きたことがわからないと話にならない、と思い調べていたら、それだけで1日目は終了した......。

1939

もっとみる
作られる悪者: ジョージ・オーウェル評論集 II

作られる悪者: ジョージ・オーウェル評論集 II

「P・G・ウッドハウスを弁護する」より
現在進行中の裏切り者や売国奴の狩りだしよりもさらに倫理的に吐き気を催すことがこの戦争ではいくつかある。その最たるものは有罪であることそれ自体を理由に多くの有罪判決が言いわたされていることだ。フランスではささいなものであってもありとあらゆる種類の背信者……警察官、三文記者、ドイツ兵と寝た女性……が狩りだされる一方で、もっと重大な背信をおこなった人物はほとんど例

もっとみる